第46話
勇者の末裔である勇爵家の人間。
話によると彼らは皆、勇者が使えていた特殊な力を受け継いでいるという。
彼女――セガタ勇爵家の当主代行ハヅキは、今回やってくる人間達の戦力の中で、俺が聖女と並んで警戒している人間の一人だった。
今まで俺とこんな風に対話を求めてきた者はいなかったので面食らったが……こうして名指しで呼び出されたのなら、行かないわけにもいかないだろう。
「……とりあえず行くか。ティアマト、ベルナデット、いざという時はお前らに任せるぞ」
「承知致しました」
「お任せください」
勇者が入っている状態で権能のチェックは済ませているが、今のところダンジョンの運営機能に障害はない。
となると勇者の力は、ダンジョンマスター側を妨害する力ではない。
それならば俺が直接顔を出してもいきなりやられるようなことはない……はずだ。
もしかしたら顔を合わせると同時に豹変する可能性もあるが、そんなことを考えていてはキリがない。
とりあえずティアマトに影を渡らせててメッセンジャーをしてもらい、ハヅキに階段を下るよう指示を出す。
第一階層と新たに繋げた第六十五階層で、彼女と対面する席を設けることにしよう。
「ガブリエル、お前も来てくれ」
「はいはーい、ガブちゃん参上ッ!」
無論、いざという時に対応できるよう、万全の備えをした上でだがな。
ガブリエルも同行させて三人体制にすれば、たとえ向こうがやる気だったとしてもどうとでもなる。
「我が主、どうも罠の可能性は低そうです」
メッセージを届ける際ティアマトに確認をしてもらったが、どうやら周囲に人が隠れているようなこともないらしい。
腰に提げている魔剣を除けば、魔道具の類いも身につけていないようだ。
これは自信の表れなのか、それとも……
「――まあ、行けばわかることか」
権能を使い、第六十五階層へ飛ぶ。
勇爵家の人間には聞きたいことが山ほどあるんだ。
――彼女はもしかすると俺が長いこと抱いていた疑問の答えを、持っているかもしれないからな。
第六十五階層は、一面に荒野の広がる階層だ。
見通しが良く、地中と空に大量に存在する魔物達は侵入者を逃さず発見することができる作りになっている。
ここの魔物達は知能も高いため、事前に一言告げておけばこちらに近寄ってくることもない。
「おー、あなたがダンジョンマスターのミツルさんか! 空に映し出されていた通りの見た目をしているんだな!」
この世界の人間において、ダンジョンマスターとは魔王そのもの。
けれど彼女の態度は魔王と話をしようとする人間とは思えぬほどに、砕けたものだった。
軽く握手を交わすが、やはり敵意は感じない。
(というかこいつは、なんのために来たんだ……?)
聖戦の号令が出ているのに単身でやってきているのも意味がわからないし、狙いがまったく読めない。
ハヅキはどことなくアジアンな感じを思わせる顔立ちをしている。
この世界では金髪碧眼のゲルマン系の顔立ちの人間が多いが、ハヅキは黒髪黒目で背もさほど高くない、それこそ前世の日本人によく似た顔立ちをしている。
――勇爵家当主代行ハヅキ。
未だ年若い今代のセガタ勇爵が成人するまでに、中継ぎとして当主代行業務をこなしているという女傑だ。
純粋な戦闘能力はかなり高いらしく、集めさせた情報の中にはAランク上位の個体を倒したという記録もあった。
「なぜ私が来たのか、理解できないという顔だな」
疑問に思うのも当然だなと、ハヅキはなんでもなさそうな顔をして鼻を鳴らす。
続けて放たれた言葉は、俺がまず最初に切り捨てた選択肢であった。
「単刀直入に言おう。――我ら勇爵家はダンジョンマスターであるあなたの側につく」
「ほう……かつて魔王を誅した勇者の末裔が、今度は魔王につくと?」
勇爵家というのはこのラテラント王国で特別な地位にある。
何せ彼らの祖先は、魔王を倒したという伝説の勇者そのものなのだ。
その血を引いているということは特別な意味を持つ。
彼らがこちらと手を組む……その意味を理解していないはずがない。
「今の王国はダメだ。聖教会が力を持ちすぎているし、頭でっかちで大して力もない貴族が増えすぎてる」
「俺達と組んで、王国を潰すつもりか?」
「そんな大それた野望があるわけじゃない。ただなんとなく、聖教の言うことばかり聞くのが癪ってだけさ」
彼女が腹の中でどんな一物を抱えているのかはわからない。
ただこちら側につくというのは本気のようで、彼女は場合によっては俺の配下になっていいとまで口にした。
「力のない操り人形の王様に支配されるより、力のある魔王様に支配された方が幸せなこともあると思うんだよねぇ」
そう言うと彼女は、俺の後ろに控えているベルナデットとガブリエルを見た。
どうやら影の中に隠れているティアマトの存在にもしっかりと気付いているらしい。
彼女は空を飛んでいる骨の翼竜、ボーンワイバーンを見上げてから、もう一度こちらを見た。
「なんにせよ、私の勘は間違ってなかったってことさ。よろしく頼むよ、魔王様」
もう一度握手を交わす。
会った時よりも力のこもったそれは、挨拶ではなく友好の印だった。
どこまで本気で言っているのかはわからないが、とりあえずこの聖戦の間味方でいてくれるのは間違いないらしい。
本来であれば軍団長を当てて対処しようと思っていた札が一枚こちらに裏返ったのは、シンプルにありがたい。
これでまた、勝利に一歩近づくことができた。
「ああ、一応セガタ家の軍も来るけど、現当主の弟に反発する不穏分子だから全員やっちゃって構わないよ」
「了解した」
なぜかはわからないが、ハヅキはかなりこちらに好意的だ。
勇爵家の今後の動きについて聞いてみると、彼女はそのまま聖戦を静観し、始まった時点で参加している各貴族家の後背を脅かすつもりらしい。
「ハヅキ、一つ聞いてもいいか?」
「ん、なんだい?」
軽く打ち合わせをしてから、俺はこの世界にやってきてからずっと気になっていた疑問について尋ねてみることにした。
それは俺が今回彼女と話の席を設けようとした理由。
この世界にやってきてからずっと気になっていた……俺という存在の根源に関わるかもしれない話についてだ。
「勇爵家の祖先である勇者コタロー……彼について話を聞かせてくれないか」
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