第45話
聖戦が発令されたといえ、すぐさま戦争が始まるというわけではない。
俺達が各地に魔物を派遣しながらざっくり概算してみたところ、軍団がこちらにやってくるのは早くても数ヶ月後、遅ければ半年後ほどの月日がかかることがわかった。
今回のお題目は聖戦なので、バラバラに進軍をして各自こちらに向かってくる、というわけにはいかないようだ。
教皇や枢機卿が後ろに控えている状態で、神の名の下に戦う必要があるからだ。
時間ができるのはありがたいことなので、俺は日々着々とダンジョン防衛の準備を進めていく。
権能である『モンスター召喚』を行い、彼らにジョブを与え、戦力を整えていく。
唸るほどに有り余っていたはずのDPは、召喚が一段落した段階で当初の五割ほどにまで目減りしてしまっていた。
数を揃えれば雑兵はどうとでもなるが、DPも無限に使えるわけではない。
なのでここから先は量ではなく、質を高めていくことを優先していくことにした。
第百階層にて、俺はモンスター達を呼び出したモンスター達の前に立っていた。
桶に入っている人魚に、額に一本角を宿した巨大な巨人、そしてただ本能に従い俺に頭を垂れている巨大なトカゲ。
種族が違えば大きさも違う、モンスターであること以外に何も共通点がないように思える魔物達。
けれど彼らにはある共通項がある。
それは彼らが進化をするために必要な条件を満たすことができている、という点だ。
「よし、時間を無駄にする理由もない。一体ずつ俺の前に並んでくれ」
ダンジョンステータスを呼び出し、魔物の欄をタップする。
一つ一つ探していてはきりがないのでソートをかけ、目の前に居る魔物達を選別していく。
いくつかの操作を経て、新たに召喚したモンスター達、そしてかねてから混沌迷宮で暮らしていたモンスター達中でも進化するに足るレベルへと至っている者達のステータスが、ずらりと並んだ。
彼らのステータスは点滅していた。
進化が可能であることを示すサインだ。
「よろしくお願い致します……」
まず最初にやってきたのは、桶の中に入った人魚だった。
上半身が人間で下半身は魚という典型的な魚人であり、第七軍団所属の水棲種であるマジカルマーメイドという種族だ。
ちなみに桶を持っているのは上半身が魚で下半身が人間という魚人だ。
彼らの中で格付けが済んでいるらしく、しっかりと言うことを聞いている。
人魚達は歌声に魔力を乗せることで歌いながら魔法的な効果を乗せる力を持っているが、その効果は基本的に相手をバッドステータスにかけるものがほとんどだ。
けれど彼女達マジカルマーメイドは、歌うことで水の槍を飛ばし、海を凍らせ、魔法戦闘を行うことができる。
マジカルマーメイド自体、マーメイド達の中でもエリートしかなれない種族なのだ。
恐らくは同種の個体達と修練を重ね、海棲の他の魔物達を狩ることでレベルを上げたのだろう。
俺は混沌迷宮内で、魔物同士の戦いを禁止していない。
基本的に戦うことが好きな彼らの不満を溜めないよう、好きなように戦うことを許しているのだ。
結果としてその方が強い個体が育ちやすいからな。
強力な魔物を生み出すためには、厳しい弱肉強食の世界である方が都合いいのだ。
もちろん死にかけたらポーションや回復魔法で治させるし、有事の際には力を合わせて戦うという前提での話だけどな。
「よし、それでは今より進化の儀を執り行う」
「は、はいっ!」
緊張している面持ちの人魚を前に、点滅を繰り返しているステータスをタップする。
するとそこには『強制進化を行いますか?』の文字が。
はいを選択すると、マジカルマーメイドの身体が大きく光り出した。
そして光が収まった時、そこには先ほどまでより一回りなマジカルマーメイドの姿があった。
新たにソーサリーマーメイドとして生まれ変わった彼女に対し、俺は事前に用意していたあるものを告げる。
「これよりお前はソラリスの名を名乗れ」
「あ……ありがとうございますっ!」
俺の権能の一つである『強制進化』。
これは簡単に言えば本来であれば進化できない状態にある魔物を、DPを使って進化することができるようにする力である。
魔物達はレベルを一定まで上げると自動で進化を行う。
けれど基本的にただレベルを上げて進化をするのは多くて二度までで、それより更に進化を重ねるためにはそれ以外にも、いくつかの条件を満たす必要がある。
この『強制進化』はその条件をDPを使うことで無視することができるという力だ。
こいつのおかげで俺の配下には本来であれば種族に一体しか用意できないはずのキング個体を複数用意することができているし、百年以上の時を過すことを進化条件としているエルダー種も大量に抱えることができている。
この権能はダンジョンステータスの魔物欄から使えるので、ぶっちゃけるとわざわざモンスター達の前に立たずともホログラムの操作をするだけで行うことができる。
ただ、魔物達からの強い希望があったので、俺は『強制進化』を行う度に彼らの前に立つようになっていた。
どうやら俺が直接進化をしてくれる姿を自分の目で見たいから、ということらしい。
よくわからない感覚だが、別にそこまで時間がかかるものでもないし、俺はこうして定期的に時間を作っては彼らを進化させるようにしている。
それだけだと味気ないと思い、俺は強制進化をするところまで辿り着いた個体達には個別で名前をつけることにした。
これがモンスター達にとってかなりの名誉になっているらしく、いつの間にかこの一連の流れがモンスター達から進化の儀と呼ばれるようになっていた。
現在は強制進化に至るべく、階層をまたぐ形で日夜激戦を繰り広げられているらしい。
冒険者達よりモンスター達の方がよほど積極的に戦っていたりするのだ。
ダンジョンマスターになってから五年が経つが、未だそのあたりのモンスター達の感覚はいまいちピンと来ないことも多い。
「ふぅ……」
とりあえず進化の儀を終わらせ、DPを確認する。
今回『強制進化』を行った個体の数は二十ほどだが、これだけでDPが明らかに目減りしていた。
強制進化は強くはできるが、ちょっと燃費が悪いんだよな。
まあこれ以上新しい魔物を召喚しなければ、不測の事態に対応するための予備の分は残るだろう。
『強制進化』以外で魔物達を強くする方法となると、やっぱり転職になるよな。
ズモゴロフから説明を受けた超級職について、もう少し詳しく調べてみるか……?
「マスター、大変ですッ!」
思考を中断させたのは、ぴるぴると音を鳴らしながら近づいてきたラビリスだった。
相当に慌てていたからか、手にクッキーを持ったままぽろぽろとあたりに破片をまき散らしている。
「勇者が――本物の勇者の末裔が来ました!」
「ほう……勇爵家の人間がか?」
聖戦前の腕試しのつもりか何かだろうか。
それとも自身の力があれば単身で混沌迷宮を攻略できるという自身の現れだろうか。
なんにしても、歓迎の必要があるな。
そして思い知らせてやらなければなるまい。
この混沌迷宮が、どれだけの力を持っているのかを……。
「ひっ!?」
「どうかしたか、ラビリス」
「い、いえ、笑顔がその、ちょっと怖かったというか……」
自分の頬に触れると、口の端が上がっているのがわかった。
どうやら彼女に指摘された通り――俺は笑っていたらしい。
いかんな、気持ちのたかぶりを御しきれていない。
モニタールームへ向かいながらゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着ける。
結果としてこれは、いい方向に左右した。
なぜかと言えばその勇爵家の女に、戦うつもりがないということがすぐにわかったからだ。
『話をさせてくれ、ミツルさん! 私はあんた達と戦うつもりはない!』
彼女は武器を地面に置き、第一階層で白旗を上げながら大声を上げていた。
周囲にいる冒険者達にぎょっとした顔をされてもお構いなしでだ。
「な、なんなんだこいつは……」
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