第20話 そして。

 雨はすぐに止み、空に渦巻いていた雨雲もいつの間にかどこかに消えていた。僕はすぐにラナが消えた方へ走るが。どこにもラナの姿は見えない。


「ラナ!」


 無駄だと分かっても、僕は叫んでしまう。


「迎えに来たんだよ」

「だけど、もっとちゃんと、あいさつを……」

「栄太……」


 知らず知らずのうちに僕の目から涙がこぼれる。

 ほんの一週間ちょっと間だったけど。僕はラナと、親友のつもりになっていたのに。


「ラナだって、お父さんお母さんの所に帰りたいだろ?」

「……わかってるよ」

「もう泣くなって」

「泣いてない!」


 いつも冷静な隼の言葉も、なんだか苦しく聞こえた。


 やがて、役員の人達が子供たちを呼ぶ声が聞こえる。僕も三人と一緒に皆の所に戻った。



 帰り道は、登っていた時の気持ちとは全然違って、なんか。すごく気分が沈んだままだった。

 わっしょいの掛け声も、小さく。僕はなんだかよくわからないまま家まで帰ってきた。



 ……。


 ……。


「栄太! まだ寝てるの? 隼君と大斗君が迎えに来てるよ」

「うん。分かってる……」


 次の日の朝、二人は僕を迎えに来てくれた。あの祠に行ってみようってことだ。

 ラナが居なくなって、もう入れなくなっているかも知れないけど。一応三人とも認証を受けているから。まだ入れるかも知れないって。



 神社は昨日の喧騒とはうって変わり、またいつもの静かな神社になっていた。


 僕たちはそっと、祠の近くにやってきて、石灯籠の中に手を突っ込む。


 もう開かないかもと思っていたけど、あっさりと装置は起動し、僕たちは転移室の中に入った。



 暗い転移室の中で、そう言えば電気の付け方も聞いていなかったなと思っていると、突然モニターが明るくなる。


「あ……。ラナ?」


 モニターの向こうには、見たこともない不思議な格好をしたラナがこっちを向いて笑っていた。きっとラナの星の服なのかも知れない。


「三人とも。本当にありがとう」

「ラナ? 今どこにいるの?」

「私は、今、まだ地球の周りを周回中なの。仲間の船に拾われて」

「もう、戻ってこないの? このまま帰っちゃうの?」

「うん。前に言ったように私はまだ他惑星へ行く資格も持ってないから。なんていうか強制送還ね」

「そ、そうなんだ……」


 僕がショックを受けているのを見て分かったのだろう。ラナは優しくゆっくりと話し始める。


「でも、皆がここにもう一度くるかもって、船長にお願いして最後の挨拶だけさせてもらえたのよ。本当にもう何年も自分の家に帰れないのかなって思っていたけど。栄太にお願いしてよかった。大斗や、隼、も本当にありがとう」


 僕たちはラナの言葉を聞きながら、自然に涙を流していた。もうラナは銀河の向こうへ帰っちゃって、もう会えないんだなって分かったから。



「でもね。私が学校を卒業して、ちゃんと資格を取ったら、いつかまた地球へやってきたいって思ってるの。また三人に会いたいなって」

「う、うん。僕たちはいつでも待ってるから。なあ?」

「お、おう」

「もちろんだよ」


「ごめんね、この通信も本当は駄目なところ無理やりお願いしちゃったからあまり長く話せないの。三人のおかげでシグナルを送れたってことでね。今はこれしか話せないけど……。また地球に着たらまたいっぱいお話しましょうね」


 ラナの言葉は僕の中でじんわりと広がっていく。


 また会える。


 それが、とっても大きい希望になった。


 この通信を終えて、僕たちが転移室の外に出たら、キケンだからと転移室の機能を落としてしまうようだ。それも地球人の僕たちがここの入る認証を受けたからというのもあるみたいだけど。


「それでは、皆。また会える日を」

「うん。またね!」

「元気でな。ラナ!」

「楽しみにしてるから!」


 今度はちゃんとさようならの挨拶が出来た。あれでもう終わりかと思って、昨日はどう仕様もない気持ちになってしまったけど。


 今は、なんかラナを家族の元へ返すっていうミッションをこなした達成感で満ち溢れていた。


 モニターが消え、僕たちが祠の外に出ると。祠はその機能を停止させた。

 石灯籠の穴に手を突っ込んでも、もう普通に中の丸い石に触る手が見える。


 きっとまた会える。


 僕たちは、祠にそっと手を合わせ、神社を後にした。

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祭り囃子は、銀河を超えて。 逆霧@ファンタジア文庫よりデビュー @caries9184

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