第19話 星の宮神社大祭 2
「わっしょい!」
「わっしょい!」
僕たちは大きな声を上げながら神輿を担いで坂を登っていく。これが思った以上に大変だった。
特に大斗は、一人身長が高いため、腰をかがめたような感じになりちょっと大変そうだ。
「これはっ……。思ったより大変だな」
「だねっ! だからこそ、気合の入るお祭りなんだね」
周りには、低学年の子達が手持ちの提灯などをもってついてくる。妹の望美も「兄ちゃん頑張ってー」と横から声援を送ってくる。僕としては妹に情けない顔なんて見せられない。必死に笑い顔を作り、親指を立てる。
大変とはいえ、神輿はけっこう休み休み登っていく。
今回は、始めての子供神輿というのもあるのか、沢山の子供たちが来ている。星の宮の氏子じゃない人達だって多分集まっているんだろう。
だから、一度に全員は神輿に着くことは出来ず。ちょうどいい感じで交代交代しながら担げるというのは助かる。
大人神輿も、背負ってる大人の後ろからいっぱいおじさんたちが付いてくるから、頑張れば大人神輿を二基出せるんじゃないか? って思ってたけど、やってみると分かる。
交代する人は絶対必要だって。
神輿の後ろからは段輪車が付いてきて、休憩のたびにジュースとかを皆に配ってくれるのが嬉しいんだ。
「ちゃんと水分とれよー。暑いからな、具合悪い子はすぐに大人に言うように」
夏の真っ盛りだから、夕方になってもまだまだ暑さは引かない。重い神輿を背負っているとダラダラと汗もかいてしまう。僕たちは休みのたびにガブガブとジュースを飲みまくる。
それに対して、後ろからやってくる大人神輿は、水分というより、アルコールを取ってる感じ。休んでいるときも、顔を真赤にしているおじさんがいっぱいいる。
休憩が終わると、今度は僕たちは担ぎ役を他の子供達と交換して、後からついていく。
「いやあ、これでもいいな」
「ははは。ただでさえ重いのに、坂だもんな」
担がないとは言え、僕たちも皆といっしょに「わっしょい!」と掛け声は止めない。神輿には同じクラスの友達とかもいるし、別のクラスのあまり話したことの無い子もいる。でもそんなの関係なしに、心を一つにしてお神輿を本宮まで上げるという一体感は、今まで大人神輿について行っていただけの頃とは全然違った。
「たのしいね!」
「おう!」
そして、ゆっくりと。確実に僕たちは歩みを進め、ようやく本宮の明かりが見えてくる。
「もうちょっとだ。がんばれ!」
そして最後の休憩は、本宮に向かう側道の手前。ここで、塩田町の神輿を待つ。今年は僕たちのほうが先に着いたみたいだ。
「おお、来た来た」
「子供神輿の作りは僕たちのと殆ど同じかな?」
「修二たちもいる」
「だれ?」
「ほら、涼子達と一緒にバスケットをやってた……」
「ああ」
僕たちのハッピは青いハッピだけど、塩田の子たちは赤いハッピだ。なんとなく近づいてくる塩田町の子供神輿を見ていると、ちょっと対抗心が芽生えてくる。
まけられない! って。
「わっしょい。わっしょい!」
そう大声を出して登ってくる塩田町の子供たちに向かって、僕たちも周りで煽るように「わっしょい。わっしょい」と大声で鼓舞する。
そして、参道まで来ると、僕たちと同じ様に神輿の下に馬を置いて、休憩する。
「遅かったな」
「いやいや。お前たちの神輿少し軽いんじゃないの?」
「変わらないだろ。俺達のほうが気合が入ってただけだ」
「ぬかせ!」
大斗たちのそんなやり取りを見ていると、大人たちがお互いの町に対抗心を燃やす気持ちも十分わかってくる。なるほどってね。
そして、休憩を終えるといよいよ神輿が本宮に向かう。
疲れた体にムチを打って、最後の力を振り絞る。拝殿の前の広場には簡易的な祭壇みたいなのが作られ、そこに宮司さんがじっと神輿をまっていた。
横には涼子や、ラナが巫女の格好で神妙な顔で待っていた。
宮司さんが恩幣を横に両手で持ち頭上に掲げる。そのタイミングで僕たちは神輿を担いだままその場に止まる。
「空の星の輝きを統べたまいし、天津甕星大神。みたまの光にて我らを照らし、大神の加護を与えたまえ。我ら常に正しき心を持ち、清き心をもって天津甕星大神を讃えまつる。光と闇の狭間に立ち、星々を結びし大神。その御力をもって、この地に豊穣をもたらし、我らが生活に安寧を授けたまえ。ここに集いし我ら一同、心をひとつにし、天津甕星大神の御加護を願い、未来永劫に続く平和を祈る。かしこみかしこみもうします」
そして、祝詞が上げられる。
僕たちはそれを頭を垂れて、聞き入る。さあ。いよいよだ。
僕たちは宮司さんの合図で、神輿を高く持ち上げる。そして、再び肩に乗せると「わっしょい。わっしょい」と掛け声をあげ、境内の石の周りを回り始める。
「わっしょい! わっしょい!」
「わっしょい! わっしょい!」
「わっしょい! わっしょい!」
僕も、隼も、大斗、必死で声を出す。喉が枯れてしゃがれても、めいっぱい神輿を担ぐ。
その時、スッとラナが後ろに下がるのが見えた。そして、その先には例の宝刀が祀られていた。
皆の視線は神輿に集中している。だれも気が付かない。僕たち以外は。
そして、布の中から宝刀を抜き出す。じっと見ていたラナは、こくりと頷いた。間違いなく。シグナルを送るための機械らしい。
その瞬間、すっとラナの姿が消える。あの時と同じだ。僕たちは、神輿を担ぎグルグルと石の周りを回り続ける。石の周りの砂利は渦のように線が書かれている。どういうタイミングで入ったのかわからないけど、きっと神輿と神輿の間をうまくすり抜けたのだろう。
砂利の模様がくずれ、子どもの足跡のようなものが浮かぶ。
――ラナだ……。
ラナは姿を隠したままだ。僕たちはラナがどんな事をしたのかわからないけど。多分神輿の真ん中で、目的の行動をしたはずだ。
やがて、宮司さんが再び御弊を振るい、同時に僕たちは回るのを止める。
そこでラナが再び、姿を表し、宝刀も元の場所に戻っているのに気がつく。僕がじっとラナを見つめると。ラナは満足そうに笑っていた。
ゴロゴロゴロ……。
と、突然雷の音がした。上を向けば、さっきまで星が見えていた空が真っ黒になっていた。それも不自然なくらい急にだ。
隣で隼がつぶやいた。
「うまく行ったんだ……。多分。雨雲に隠れて来ているんだ」
「え?」
隼の言葉に僕は雨雲をじっと見つめる。だけど、どうやっても宇宙船らしきものは見えない。
突然の天候に周りがざわついている中、ラナが涼子になにか告げてそっとその場を離れるのが見えた。僕も思わずそれを追おうとするが、空からはポツリポツリと雨が振り始める。
「皆、テントの中か、社務所の方に行って!」
「夕立だからすぐやむから! ちょっと雨宿りします」
僕たちは、ラナを追うことが出来ず、役員の先導されるままに社務所の周りに設置されたテントの方に誘導される。
「ラナ!」
「え、栄太。まずいって」
「でも。ラナが行っちゃう」
「そのために俺達は頑張っていたんだろ?」
「だ、だけど……」
僕はどうしていいかわからないまま、ラナの姿を探す。
だけどもう、どこにも見えなかった。
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