第18話 星の宮神大祭 1

 祭りの日。皆朝からそわそわとしている。

 祭り自体は、夕方から始まるんだけど、僕たちにとっては朝から始まるんだ。


 まず、お祭りの日は町の共同浴場が全部無料になる。一応神輿を担ぐ前にお清めをする的な事でそうなっているらしいけど。普段家の風呂にばっかり入っている僕たちも、今日はタオルをもって銭湯に行くんだ。


 朝から父ちゃんに連れられて行く。これも一年に一度の特別なお風呂だ。

 まあ、ラナにも一応無料で入れるよって教えてはあるんだけれど、たぶん入らないかな。


 街の共同浴場はボッロボロで、そろそろ建て替えた方が良いんじゃないの? っていうくらいの建物なんだけど、今でも毎日入りに来るおじいさんたちもいるし、掃除は綺麗にやっているので不潔な感じじゃない。


 それにしても、この「朝風呂」と言うのが良い。

 高い所にある窓から、明るい光が差し込んでいる。電気じゃなくて太陽の光の下でお風呂に入るというのが良いんだ。

 ゴシゴシと体を洗い、ちょっと熱めのお風呂に入る。


 ちょっと熱すぎる……から、こっそりと水の蛇口をひねる。


「ま、あまり冷やすなよ。入れるくらいで」

「うん」


 父ちゃんはこんなに熱いのに平気で肩まで沈み込む。浴槽は二つあって、普通のお風呂と泡がブクブクと出ているお風呂。

 やっぱり広い方の普通のお風呂が良いね。


 入っていると、大斗も父ちゃんと一緒にやってくる。

 俺の横に来た大斗に小さな声で話しかける。


「いよいよだな」

「おう。絶対成功させような」

「もちろん」


 この事は僕たち四人だけの秘密だから、ここでの会話はそこまで。あとはゆっくりとお風呂を堪能して、家に帰る。



 そして家に帰ると、ニュースで今日の天気をチェックする。今のところ問題なさそうだ。

 父ちゃんは、庭でバケツの中に草鞋を入れて濡らしている。なんでもこうやって湿らせて藁を柔らかくしておかないと足が痛くなっちゃうみたい。

 僕たち子どもは普通にスニーカーで良いんだけど、いつか履いてみたいなって思う。


 お昼を食べると気分はさらに盛り上がってくる。大斗と隼が迎えに来てくれて、僕たちはそのまま神社に向かった。



 いつもの祠は、神社の裏の杉林の奥にひっそりとあるからあまり見られずに入れるのだが、今日は既に神社に人が集まりだしていてちょっと見つかりそうで怖い。


 神社の横にある、僕たちの地区の公会堂と社務所が一緒になったような場所にたくさん人が集まっている。今年は大斗の母ちゃんが当番らしく、中で宴会の準備と化している。


 お祭りが終わると、大人たちはここで最後の宴会をして、「飲み納め」をするっていっているんだけど。どう考えても、後日にテントを撤収したりするときにまた飲むんだから、わざわざ「納め」なんて言わなくても良いと思う。



 僕達三人はどうやって祠に行こうかと悩んでいると、後ろから声を掛けられる。


「栄太、隼、大斗。今日はよろしくお願いします」

「ラナ? もう外に居たんだ」

「うん、私もそろそろ本宮に向かわないと。巫女の恰好したり準備があるの」

「なるほどね。ラナも頑張ってね」

「うん、三人ともハッピがとっても似合っているわよ」

「そ、そう?」


 ラナに言われて僕たちは三人一様に照れてしまう。確かにいつもと違ってハッピを纏った僕たちはちょっと強くなったようなそんな気分だ。

 僕たちは少し話をして、ラナを見送る。

 ラナは、いつものワンピースのまま本宮の方を目指していった。


「……いよいよだな」


 隼も大斗も、準備万端だ。そして僕たちの神輿の所に向かう。


 ……。


「子供神輿は自分の場所に座布団まきつけておけー」


 役員の人達が叫んでいる。大人の神輿は担ぎ棒に座布団を巻いたりとかあまりないが、子どもの神輿は、学年ごとに児童の身長も違うし、そういうのは座布団を厚めにしたりして調節するようにと言われる。


 そもそも重い神輿を一時間とか担いていると、肩が擦れたりしてしまうらしい。大人たちも人によっては肩パットみたいなのを付けている人も居るって。


 公会堂にある古い座布団とかが入口に積んであり、僕たちは各々それを取り、急いで神輿にかけよる。みんな前の方のいい場所を取ろうと必死だ。

 僕たちは、三人でまとまって近くで担げるように、後ろの方で場所を確保する。


「場所を決めたら一度持ち上げ見るぞ。いいか。いくぞ、せいの!」


 係の人の合図で僕たちは一斉にみこしを担ぐ、んぐ。けっこう重い。


「そしたら、馬を外すからちょっとまってろ」


 神輿の下にある、木の台を外に出す。


「大きい声でな。いくぞ。わっしょい!」


 先導するおじさんに倣って僕たちも「わっしょい」と大声で声を出す。そんな声を出しながら僕はちらっと神輿の頂上で光るカツオに目をやる。「ちゃんと心力を集めろよ」と小さくつぶやいた。


 そして、僕たちはわっしょいわっしょいと、神輿を担ぎ、奥宮の社の前まで来る。そこで、大人たちが神輿の下に再び馬を差し込み、係の人の誘導でゆっくりと神輿を下におろした。


「よーし。それで一旦休憩だ。大人の神輿がすぐ横に来るから気をつけろよ~」


 そして、大人神輿もすぐ横へやってくる。大人たちはハッピじゃなくて、黒い腹掛けっていうのを着ている。そしてその下には何も着ていなかったり、白いTシャツを着ていたり、下は短パンだったりと、人によって違う。


 やっぱり大人神輿の大きさは迫力がある。振る舞われるスイカにかぶりつきながら僕たちはその威容に憧れの目を向けていた。


 そして、時間が来ると、皆が神輿の後ろに整列する。


 そして、神社に向かって二礼二拝。お祭りの無事を祈願する。宮司さんは本宮で待っているのでここには居ないんだ。


 そして、ようやく。お祭りの本番がスタートした。

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