第17話 準備は進む

 その日から少しづつ動き出していた。

 隼や、宮司さんの思惑通り、父ちゃんたちも塩田が子供神輿を出すって話を聞いて俺達も作るぞと、準備を始めていた。



 同じ樽神輿っていっても前宮と奥宮で樽の積み方が少し違うんだ。

 奥宮の神輿は樽を下の段が五つ、真ん中の段が3つ、そして一番上に一つという三段の樽御輿だ。そして、前宮の樽は下の段が四つ、真ん中の段が三つ、そして三番目に一つ、さらに四段目に少し小さめの樽が乗る四段の樽だ。

 三段の奥宮の樽はどっしり。四段の前宮の樽はシュッと髙い。どっちがいいかは分からないけど、お互いに自分たちの樽神輿が最高だって、思っているみたいだ。




 神輿づくりは始めに担ぎ棒を組むところから始める。今はそこに電灯をつけるためのバッテリーをしまう土台が作られ、その土台には紫の布がかぶせられる。 昔と違い、電灯もLEDを使うようになったため、必要な電気が減ってバッテリーも減った分少し軽くなったと聞いている。


 今はその上に一段目の樽を並べて固定をしているところだ。


 今後の順番で言えば、まず樽を全部固定したら、一番上にカツオの飾りをつける。

 そしてその後に神社の杉から集めた杉の葉を樽と樽の間に敷き詰めるように付けていき、最後に周りに沢山の提灯をつける。


 毎年のことなんだけど、毎年「これどうやったっけ?」なんてみんなで思い出しながらやっているらしい。きっとお酒を飲みながらやってるからだと思うんだよね。


 そして、僕たちの子供用の樽御輿のために、地元の酒蔵が小さな樽を用意してくれた。材木谷さんも僕たちの為に背負い棒を用意してくれたりと、町全体が協力モードだ。

 子供神輿は樽の大きさも、樽の数も少ないけど、見た目だけはちゃんとした樽御輿にしてくれるんだって。これが一番大事なんだけど、ちゃんと保存してあったもう一つのカツオをそれに飾ってくれるという。


 僕たちは去年とかに比べても俄然祭りに対するワクワク感が盛り上がる。毎日神社のテントを覗いて、少しづつ出来上がってくる神輿に胸をときめかせていた。



 ……。



「そういえばさ、なんで隼はラナに巫女をやらせたんだ? ラナはわかったの?」


 ラナの転移室で話をしていると、ふと大斗が気になったのか聞いてくる。


「隼は、例の刀が神社の建物の中に飾ってあるって聞いて、それじゃあせっかく四基の神輿があってもシグナルは送れないって思ったのよ」

「え? じゃあ、それじゃ駄目なの?」

「拝殿前のお神輿がグルグル回るところあるわよね?」

「ちっこい岩の周りでしょ?」

「あれ、実はあまり小さくないのよ、あの土の下に広く広がっているの」

「え? ほんとに?」

「うん、あれは集まった心力をなるべく無駄なくまとめるもので、なんていうのかな。電気で言うところの導線みたいな役目をするの」

「へえ……。あ、じゃあ、刀が神殿の中にあったら駄目なのか」

「そういうこと、だから、巫女をやれば私が宝刀に近づきやすいって思ったのでしょ? 隼」


 ラナが隼に聞くと、隼はうなずく。


「うん。まあ、ラナにそんな仕事頼んで良いのか分からなかったけど。使い方ってラナしかしらないんだし。まあ。良いかなって」

「すげー。やっぱ隼は色々考えてるな」

「ラナを家に帰すために、俺達は雇われたんだからな」

「お、おう。なんか俺はなんもやってないなあ」

「そんな事ないよ。大斗が居たから涼子と知り合えたんだし、それがなかったらそもそも子供神輿の話なんて出てこなかっただろ?」

「そ、そう?」

「それに、大斗が居るからラナも自転車借りて乗れるんだしな」

「そ、そうだな」


 隼の言葉で、大斗がちょっとうれしそうに頷く。


「でも、本当にそうよ。私。みんなに感謝してもしきれないわ」

「なにいってるんだよ、お互い様ってやつだろ? 俺達だってラナと知り合わなければ、宇宙人が本当に居るとか、そういうの永遠に分からなかったんだし」

「ふふふ、そうね。でも、その発信機がちゃんと動くかもわからないの。だからうまく行っても失敗しても、あまり気にしないで」

「ラナ……」

「そんな顔しないで。今はお祭り気分を楽しみましょ」



 今年は子供神輿が出る。という話はすぐに町中の子供たちにも広がる。

 あまり普段祭りに出てこない様な子たちも、少し興味をもつみたい。ハッピは町内会毎に貸出をしているんだけど、今年はいつもより多めに注文が入っているらしい。


 本当にあっという間だ。


 ラナを家に帰すための手段は、後はお祭りで宇宙に向けてシグナルを送ることしか無い。ここまでくれば神輿づくりは大人たちがやってくれるし、あとは僕たちに出来ることは……。


 ラナと一緒に遊ぶことだ。


 僕の神社の虫探しをいっしょにしてくれたり、大斗のサイクリングに付き合って自転車でそこらじゅうを駆け回ったり。

 特にサイクリングは、ラナに地球の色んなところを見せたい僕らは、色々と行き先を考えて走り回った。


 隣の市まで行って、駅の入場券を買って新幹線を見せたりもしたんだ。

 


 でも一番ラナが喜んだのは、プラネタリウムかも知れない。

 僕たちの生まれる前からあったような古いプラネタリウムで、解説の先生は今では少ない光学投影機を使っているって言っていた。今はほとんどデジタルなんだって。

 でも僕たちには十分だ。プログラムは、宇宙の中を走る電車が出てくる、ちょっと昔のアニメのプログラム。ラナは、そんな宇宙の電車をすごく面白がっていた。


 僕はなんとなく気になって聞いてみる。


「ラナの星とかで、ああいう宇宙を走る電車ってあるの?」

「うーん。私達はああいうのを作ったりはしてないけど、観察している星の中にそういうものを作っている人達は居たと思うの」

「へえ、え、宇宙に電車を作った人達みたいな文明の人も観察してるの?」

「うん。なんていうか。地球よりちょっと文明は進んでいるんだけど、まだアクセスしずらいかなって」

「そうなんだ。でも銀河を旅できるくらいだから、地球よりずっと進んでそうだけどね」

「あ、んと。彼らはものすごい量のスペースデプスを出してしまってて……」

「スペースデプス?」


 なんだかよくわからない言葉が出てくる。そこは隼がすぐにフォローしてくれる。


「宇宙に散らばったゴミだよ。もう動かなくなった人工衛星とか、そういうのがものすごいスピードで地球の周りをまわっていたりするから危険なんだよ」

「へえ、そんなのがあるんだ」


「そうなの、そういうのから宇宙船を保護するために、宇宙にチューブを作ったの。だからああいう形になったんだけど……。面白い惑星でね。同じ太陽系内に、人が住めるような星が二つあるの。地球で言えば、太陽を中心に反対側にももう一つ惑星があって、同じスピードでグルグルと回っているみたいな」

「じゃあ、その二つの惑星を鉄道で結んでいるってかんじ?」

「そうね。だから、さっきのプラネタリウムみたいに、色んな星へ行くってわけじゃないのよ」


 なるほど、世の中には色々な星があるんだなって思い知らされた。

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