第16話 宮司さん 2
「えっと。君が?」
「え? あ、はい……。そういうのやってみたくて」
「ふむ……。まあ、巫女役の子は一人増えてもぜんぜん大丈夫だけど……。これボランティアだよ? バイトとかじゃなくて」
「だ、大丈夫です」
最初は驚いていたラナも、すぐに話に乗る。
僕たちは隼が何を考えているのかわからないけど、きっと大事なんだろうなと口々にお願いしますと宮司さんに頼み込む。
「うーん。そうだね。じゃ、社務所に行こうか。中に衣装があるからとりあえず着てみる?」
宮司さんも始め驚いていたけど、ノリの良い人なんだろう。銀髪の少女が巫女をやるのも面白そうだと、社務所へ案内する。
「じゃあ、涼子ちゃんと、秋奈ちゃん、ラナちゃんに着付けしてあげてもらっていい?」
「はーい」
女の子二人も、日本人離れしたラナの巫女姿に興味津々のようだ。楽しそうにラナの手を取って奥の部屋に行った。
そんなラナたちを見送りながら、僕は宮司さんに聞いてみる。
「あの。巫女さんの仕事って大変なんですか?」
「ん? いや。どちらかと言うと飾り的なところもあるかな。僕が振るう恩幣とか祭りの進行に合わせて、僕に手渡したりしてくれればいいだけで」
「たしか、お神酒とか注いでくれたりもありますよね?」
「ああ、お酒は流石に子供にはやらせないよ。それは自治会の役員のおばちゃん達がやるから、ホントに僕の横に立っていてくれればいいだけなんだよ」
「そうなんだ……」
だったら、大丈夫そうだなって思うけど。ラナって僕たちより全然しっかりしているから心配することなんて殆どいらないんだろうな。
やがて、巫女の姿をしたラナが出てくる。
よく、コスプレって最近はやっているけど、ちょっとそんな感じもしちゃう。だって、ラナはあまりにもキレイで。銀髪だって日本の服とのアンバランスな感じがある。そんな子が日本の巫女さんの格好をしていれば、何かのアニメのコスプレじゃないの? って感じちゃうよね。
「おお、良いよ。凄い良いよラナ!」
興奮したように大斗が叫ぶと、ラナの隣りにいた涼子が目を細めて大斗にいう。
「なんか、私のときと反応違くない?」
「そうか? まあ、ラナだからな」
「うーん。悔しいけどなんか分かるわあ。私でも見とれちゃうもん」
当のラナは、あまり自分の格好には意識をしていないかんじがする。それより。巫女さんの仕事は何をすればいいのか? ということにちょっとドキドキしているみたい。
でも、さっき僕たちが聞いたような説明を聞き、ようやくラナの顔もすこしリラックスする。そして、涼子や、もうひとりの女の子と衣装の話とかを始める。
「こないだ、浴衣を着たの。同じ和服なのにこれはちょっと違うわね」
「あー。確かに。浴衣と違って袴をはくからね」
「この袴が赤いのがまた可愛いわね」
「白と赤って、なんとなく神聖な感じがしていいよね」
そういう話になると、僕たちは口を挟めない。
そのまま、彼女たちは宮司さんと拝殿の方に行ったりして、当日の打ち合わせなどを始める。こう見てると涼子は意外と真面目なのかも知れない。メモ帳を取り出して、必死に手順を書き留めたりしていた。
……。
……。
なんだかんだで一時間くらいは経ったかも知れない。僕たちは社務所の中でとりとめのない話をしながら時間を潰していた。
そして、打ち合わせを終えたラナ達が戻ってくる。
ラナ達が着替えて、いつもの服に戻る頃、宮司さんが「こんなものしか無いけど」とお茶碗にオレンジジュースを入れて配ってくれる。
お茶碗にはちゃんと氷も二つづつ入っていて、暑い今の時期には最高のご褒美だった。
……あれ?
ふと、ラナは地球人と食べるものが違うと言っていたのを思い出し、焦ったようにラナの方を向く。
「ラナ。えっと、飲める?」
その言葉で隼や、大斗も思い出したのだろう、ラナの方を向く。
そのラナは涼しげに笑って答える。
「ええ。オレンジジュースは好きよ」
そして、クイッと湯呑みに口をつけてジュースを飲んだ。
うん。大丈夫なら。大丈夫なのだろう。僕もそれにつれられて一気にジュースを飲み干した。安心した僕は、宮司さんに訊ねる。
「そういえば、氷まで、下の町から持ってきたんですか?」
「いや、裏に冷蔵庫があるんだよ。昔はここで住んでいたしね」
「え? そうなんだ」
「今の時代はね、仕事に行くのに町のほうが楽だからひっこしちゃったけどね」
「へえ……」
ジュースを飲みながら大斗が、涼子に話しかける。
「そういえば、涼子は巫女さんなんだな。どちらかと言うと神輿背負いたいとか言いそうだけど」
「だって、神輿は大人しか背負えないじゃん」
「ははは。やっぱりやりたかったんだ」
「大斗だって同じでしょ? しかも大斗はでかいから十分大人の神輿に混じれるんじゃない?」
「流石に小学生でやらせてもらえないよ」
「まあね」
やっぱり塩田の子たちもお神輿には憧れがあるみたいだ。まあ当然だよね。カッコいいし。
そんな事を考えていると、ふと涼子がボソリという。
「でもさあ、知ってる? 本当はもう一個カツオがあるんだよ?」
「え? ああ、知ってるよ。こないだ俺もそれを父ちゃんから聞いたんだ」
「だったらさ、子供神輿も作ってほしいと思わない?」
……そんな涼子の言葉に、僕はハッと顔を上げる。それは隼も同じだったみたいだ。
「子供神輿! そうか! その手があったか!」
「え? なに?」
ちょっと隼の興奮した声に、涼子が焦ったように反応した。でも隼も大斗も僕も、そんな事は気にしていられなかった。
子供だったら、声をかければいくらでも集まる。そうでなくても灯籠を持たされたりして一緒に本宮まで来るんだ。だったら、子供用の神輿があったって良いじゃないか。
「なあ、涼子。俺達も奥宮で、子供神輿を作ってもらえるようにお願いするからさ、涼子も前宮で、子供神輿を作ってもらえるようにお願いしようぜ」
「えー。でも私は今年巫女やるから、背負えないよ?」
「今年は駄目でも、うまく行けば来年だってやると思うぜ。な、塩田の子供たちだって神輿をやるって言えば喜びそうじゃない?」
「そ、そうね……」
僕たちが興奮して神輿の話をしていると、食器を片付けていた宮司さんが、僕たちの話を聞いて興味を示した。
「へえ、子供神輿かあ。いいじゃないか」
「とっても楽しそうですよね? でも、お父さんたちもう一つ神輿を作るって行ったら面倒がるかな?」
「子供用の小さいやつになるだろうし、良いんじゃないかな?」
「本当ですか? 宮司さんからも話ししてもらってもいいです?」
「うん。きっとあの人達は、向こうの神社では子供神輿をだすよって話をすれば、対抗して自分たちも作るって言い出すと思うな」
「ははは。確かに対抗心バリバリですもんね」
「うんうん、なんか今年のお祭りは面白くなりそうだね」
「はい。お願いします!」
すごい。今日本宮に来て良かったかも知れない。一気に二つの問題が解決の糸口がつかめたような気がする。
僕たちは意気揚々と山を下った。
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