第15話 宮司さん
次の日。僕たちは午前の宿題をお休みにして集まっていた。
まずはみんなで本宮に行くというのが今日の予定。僕も母ちゃんにお弁当を作ってもらった。
大斗は行けるよっと言っていたが、本宮があるのは鞍掛山だ。あんな道を頂上まで自転車でなんて無理な話だ。
僕らが歩いて山を登っている前で、ギアを一番軽くしてフラフラと登っていく大斗をみんな呆れ半分に見ている。
「だって……。俺の……。サイクリングが……。勉強休む……。理由だろ?」
大斗の言う事は本当なんだけどね。
夏休み中に自転車でどのくらい走れるかを、自由研究にしている大斗だからこそ、良い理由だなと思ったんだけど。目的地が本宮なんだよね。
「がんばれー」
「こ、な、く、そ!」
そしてとうとう大斗は登り切った。
山道ではあるんだけど、ここはお神輿も登るし、お祭りの準備で軽トラックだって登ったりしている道だから、自転車で登ろうと思えば出来るんだなあと感心する。
「ロードバイクだっけ? 軽いから良いよね」
「ちがうちがう。これはシクロクロスっていうんだ」
「ちがうの?」
「ロードバイクはもっとタイヤがほっそいから、こんな山道登ったらパンクしちゃうよ。悪路も走れるようにちょっと太めのタイヤなんだ。僕の普段使いの自転車だからね。まあ、車体が軽いっていうのは本当」
「マウンテンバイクとも違うの?」
「あれは……。もっとタイヤが太いね。ロードとマウンテンバイクの良いとこどりって感じだな」
「いろいろあるんだなあ」
「お買い上げありがとうございまーす」
「ははは。もうちょっと大きくなったら父ちゃんに頼むよ」
「おう」
星の宮三社は何処も神主さんは普段はいない。なんでも、三社の宮司さんは同じ人なんだけど、普段は塩田町の方に住んでいて、別の仕事をしているらしい。
でもこの日は、カブが神社の横に停めてあって、誰かがいそうだ。
「中見せてもらえるかな?」
僕たちは神社に近づきながら期待感を高めていた。
すると神社の拝殿の横にある社務所の窓が空いており、中には、二人の女の子が白と赤の巫女さんの衣装を着ておしゃべりをしていた。それを見て大斗が叫んだ。
「お? なんで涼子が居るんだ?」
その声にびっくりしたように一人の女の子が振り向く。確かにその子は、前に前宮のバスケットコートでバスケットをしていた子だ。
涼子は、大斗を見ると目を丸くしてこっちに近づいてきた。
「ていうかむしろなんで大斗が? あれ? 隼も?」
大斗に話しかけようとして、僕の隣りにいた隼に気がつく。だけど僕の事は覚えていないみたい。まあ、一緒にバスケをやったわけじゃないからしょうがないけど。
話しかけられた隼は、これはラッキーだとばかりに涼子に訪ねた。
「ああ、ちょっと調べたいものがあってね」
「し、調べたいものって?」
「なんかお祭りで使いそうな金属の……。棒? とか無いかなって」
「棒? ……何のこと?」
「えっと、宮司さんも今日は来てるの?」
「うん、今ちょっと外してるけど、すぐ戻ってくると思うわ」
「そっか……。あ、涼子はお祭りで巫女さんやるの?」
「う、うん。……似合う、かな?」
「おう、すげーよく似合ってると思うよ」
「ホント?」
隼が言うと、涼子が少し照れたように笑う。なんとなく分かりやすくて、僕は口を挟めない。
でも大斗は違うようだ。ニヤニヤと涼子をからかう。
「馬子にも衣装っていうんだっけ?」
「ちょっと! 何言ってるのよ」
「涼子が巫女さんとかイメージなかったけど、確かに似合ってるな」
「なっ。アンタに言われたって嬉しくないわよっ」
「じゃあ、隼に言われると嬉しい?」
「そういうことじゃない!」
「おお、こわー」
それでも、大斗も涼子とは仲良さそうに話をしている。どうやら、お祭りの際に宮司さんのお手伝いをする巫女役に、涼子ともう一人の女の子が頼まれたということだった。涼子は宮司さんのご近所さんらしい。
それで、今日は巫女の衣装を合わせと簡単な打ち合わせに来たという。
そんな話をしていると、奥から中年のおじさんが出てくる。宮司さんだ。先日大斗といっしょに、お神輿の制作前の安全祈願の祈祷をしていた人だ。
宮司さんも、僕と大斗を見て気が付いたようだ。
「君はたしか、奥村さんところの? 隣の君は三月さんところのお子さんだよね?」
「はい、奥村大斗です」
「僕は、三月栄太です」
「うん、君たちはどうしてここに?」
宮司さんの質問に、僕と大斗が返答に困って見つめ合ってしまう。すると隼が答える。
「えっと、僕は如月隼って言います。実は四人で星の宮神社のお祭について色々調べていたんです」
「へえ、なるほど……。四人てことは、そこのお嬢ちゃんも? うーんと、この町の子に異人さんはいたかな?」
「私は……。湯治場に療養に来ているおばあちゃんと一緒にこっちに来ていて、三人と知り合ったんです。夏休みはもう少しここに居られるので一緒に調べるのを手伝おうって」
「なるほど、鹿護湯の方かな……。おばあさんが早く良くなると良いね」
「はい。ありがとうございます」
ラナの話は、きっとラナの身元が聞かれる事が出てくるだろうと言うことで、みんなで考えてた設定だ。といっても殆ど隼が考えたんだけども。
「で、何か知りたいことでも?」
僕たちは宮司さんに、お祭りに使う道具に付いて訊ねる。でも、なんか思ったような良い答えが帰ってこない。困った僕たちは、頼み込んで神社の中を見せてもらう。
だけど僕たちの入れるのは拝殿だけ、本殿は扉が湿られていて中が見えなかったけど、「内緒だよ?」と開けて御神体の鏡の鏡をちらっと見せてくれた。
僕たちはラナの方を見るけど、ラナは黙って首を横に振る。
そして拝殿の中にはお宝とか、金属の棒らしき物は見当たらない。と、言うより思っていたのと違って、あまり物が置いていなかった。
「何を探しているんだい?」
そんな僕たちの動きが不思議に感じだんだろう、宮司さんが聞いてくる。それにたいしても隼が言葉を選びながら答える。
「えっと……。その。星の宮神社ってとても古いって聞いていますが」
「うんそうだね。飛鳥時代からあったと言われているけど、江戸時代に火事があったりしてね、昔の記録があまり残っていないんだよ」
「か、火事ですか?」
「そう、何でも神社に雷が落ちたらしくてね」
「じゃあ、昔の物って残っていないんですか? なんか金属で出来た……宝物とかなら残っていたり」
「宝物? ああ、宝刀の事かな?」
「え?」
「金属でできた宝刀が一つあってね、三種の神器ってわけじゃないけど。あの時代の七支刀は割と貴重なんだよ」
「そ、それはここに?」
「いや、流石に無人の神社に置いておけなくてね。家にあるよ」
宮司さんの言葉に僕ら四人は目の色を変える。
「そ、それって見せてもらうことは?」
「一応年に一回、ここに持ってきて祭壇に飾るようにしているよ」
「年に一回? それはいつです?」
「それこそ、お祭りの時だよ。拝殿に飾っているから、もしよかったらその時見てみて」
「は、はい……」
その時、隼がそっとラナの近くに行き、なにか小声で訊ねる。
(刀の形っていうのはありえる?)
(その時代時代で、おかしくないものなら普通にあると思うわ)
(なるほど……。それって、拝殿にあってもシステムは動く?)
(……動かないわね)
(使い方は、ラナはわかるんだよね?)
(うん……)
ラナの隣に居た僕には二人のコソコソとした相談は聞こえてきた。宮司さんは二人が何を話しているかわからないが、僕らの相談はこれで終わりなのかな? と涼子達に打ち合わせをしようか? などと言い始める。
その時、ラナと話をしていた隼が再び宮司さんに話しかけた。
「すいません。この子……。ラナっていうんですが。彼女も巫女さんのお手伝いって出来ますか?」
その申し出に、僕も大斗も……。そしてラナも驚いたように目を丸くしていた。
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