第14話 二つの問題
隼の難しい話が一段落した頃、ゴソゴソと音がして大斗が入ってきた。
「あれ? 大斗、今日は来れないんじゃなかった?」
「父ちゃんの仕事について行ったんだけどさ、思ったより早く終わったから。どうせ栄太も隼も来てるかなって」
大斗も、少しラナのことを心配していたのかな? 入ってきて、午前中に話していたお神輿の話をラナに聞かせる。
神輿はあれだけ大きくて重いのだから、今はもう二基出すのは無理なんだなって話し。
「でも、ラナ。なんで四つあるって分かったの?」
「えっと……。これ、昨日も見せたけど」
そう言いながら再びラナが首からかけていた金属プレートを見せてくれる。やっぱりそこにはあの神輿に上につけるカツオと同じ絵が書かれていた。
「これは、何ていうか。自分がここにいるという信号を常に出しているの。と言っても微弱なものだから地球の周り……。月くらいまで近づかないとその信号をキャッチすることは出来ないんだけど」
「え? 弱いって。月まで届くだけでものすごく強いんじゃない?」
「確かに電波とかの感覚で考えると遠くまで飛んでいくイメージだけど、実際はとても微弱なシグナルなの、ただ。伝搬していくようなものじゃなくて……。簡単に言うとこのプレートから発信するというより、このプレートからある程度の範囲で同時にシグナルが存在する……」
「……隼。俺には無理だ」
「ははは。僕にだってわからないけど、さっきのラナの星の技術の話を聞いているから、そういうもんなんだろうなって理解することにしているよ」
うん、僕にもわからないけど。簡単にあのプレートから何かシグナルが出ているんだって思うことにする。
「ごめんね。ちゃんと説明できなくて……」
「うん、大丈夫だよ。で。あの神輿のカツオが同じ様な物だって言う話だよね?」
ラナも僕たちに説明を出来ない部分もあるのは、さっき宇宙の技術を教えられない様な話をしていたのを聞いていたので分かっている。ラナとしても苦しいところなんだろうな。
「そうなの。それもあの神輿の発信機はかなり広い範囲でシグナルを送れる物なのよ。ただそれでもやっぱりかなり古い技術だから単体じゃ使えなくて、四つのあのカツオを使ってそれを増幅して送る物なの。ほら、私は古い機械を保存する倉庫でバイトしていたから。あれに似たセットは何個も見てるのよ」
「でもそんな古いものがよく残ってるね」
「そのくらいの時間なら、周りのコーティングも残ってるから。ただ、こうやってお祭りとかで地元の人達が利用するなら時代的なダメージは出るようには色々と調節してあると思うけど」
「なるほど……」
そして、ラナの話によると、これらの発信機に必要なエネルギーは『心力』というものらしい。転移室の機械などは地球から貰う『地力』というものを利用しているんだって。
その心力っていうのは、人の心の盛り上がったエネルギーを吸って装置を動かすもので、皆でワッショイワッショイと背負う神輿はまさにうってつけの動きというわけ。
「あのお祭りって昔は、一年に一回やるような祭りじゃなかったみたいだよ」
「え? 今と違うの?」
「今みたいに毎年旧暦の七夕にやるようになったのって割と最近らしいよ。その前は雨が降らなくてやばい時とかに、雨乞いの儀式として祭りをして雨を請う感じだったみたい」
でも言われてみればそうやって宇宙人にシグナルを送るような祭りを一年に一回やってたら向こうもめんどくさく感じるかもしれない。
もしかしたら宇宙人の技術で雨を少し降らせてくれるとかあったのかも?
「へえ、大斗くわしいじゃん」
「詳しいっていうか、ほら、父ちゃんにカツオ四つあった? って聞いた時に色々教えてくれたんだよ」
「なるほどな。で、その昔使ってたカツオは今はどこにあるんだ?」
「神社にちゃんと保存してあるって」
「本宮?」
「たぶん、無ければ奥宮と前宮に」
「うーん……」
保存してあるなら四基出せないかな……。って思ったけど、一基だけでも大変なんだ。いっぺんに担げる人以上に沢山の人が集まって、途中途中で交代しながら。休憩も挟んで登っていく。
それだけ御神輿は大きいし重いんだ。それを一キロ半くらいの距離動くからどうしても大事になる。
僕たち子供だって、ただ観客のようについていくだけじゃない。ちゃんとハッピを着て、大きな灯籠を持ったりしてついて行く。
灯籠は、僕たちの身長くらいの長い木の棒の先に、長方形の木枠が付いていて、周りを和紙で張ってある。元々はその中に火のついたロウソクが入っていたから、あまり横にしたりすると蝋受けから溶けた蝋が垂れて熱かったりするんだ。
それもあって、去年からLEDのライトが入るようになったんだけど、父ちゃんはそれを見て「時代だなあ」ってぼやいていた。
「大斗なら大人に混じって神輿背負えそうじゃない?」
「いやだよ。酒臭くて」
「ははは。そうだね。みんなベロベロになっちゃうもんね。でも僕も早く神輿背負えるようになりたいなあ」
「栄太は……。まだまだじゃない?」
「高校生くらいになればきっといけるさ。父ちゃんだって、高校になって身長伸びたっていうし」
僕の身長は、真ん中より前側になるくらい。小さい方になるんだろうけど、小さすぎる感じではない。でも、そのくらいだと神輿にぶら下がる位になってしまう。
僕と大斗が話している間も、隼はなんか別のことを考えていそうだ。
「隼。どうした?」
「ん? ……ねえラナ。シグナルを送るには、カツオが四つあればいいの?」
「四つのカツオ……。ふふふ。私までカツオって言うようになっちゃった。で、カツオが集めた心力とシグナルを集めてまとめる器具があるはず」
「やっぱり。それはどんな?」
「私のバイトしていた倉庫にあるやつでも、みんな違うのよ。でも共通しているのは棒の形をしているってこと。何かそういうのは使っていない?」
「うーん……。恩幣を持った神官さんが居るけど。普通の木の恩幣だなあ……」
「素材はカツオと同じ様な金属だと思うの。もしかしたら木の棒の先についていたりするかも知れないけど……」
「それは、わからないなあ。金属? 二人は何か思いつくか?」
隼に言われたけど、僕もちょっと思いつかない。大斗も同じようだ。
いつも、前宮と奥宮の神輿が本宮に到着すると、本宮の境内の真ん中のところを中心に二基の神輿がぐるりと廻る感じだった。
大斗の言葉を借りると、雨乞いの儀式として何十年に一度行われるような行事だったのが、昭和の時代に町のお祭りをやろうということから復活させたお祭りのよう。
一応「千年以上前から続く奇祭」という売り文句はあるんだけど。実際は昔の資料をかき集めてなんとか今の形にしたっていうことみたい。
「神輿を四つ、そして、その力を集める何かを見つける……」
僕たち三人は、なんとも先の見えない課題に頭を悩ませていた。
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