第13話 宇宙人の技術

 次の日もやっぱり僕たちは大斗の家で夏休みの宿題をやっていた。

 なんか、隼はもうすぐ全部終わっちゃいそうな感じだ。まだまだ休みはあるのに。


 この差は、きっと集中力の差なんだろうな。

 だって、今もカリカリと宿題を進めている横で、僕と大斗はおしゃべりをしている。


「そうそう、父ちゃんに聞いたんだけどさ。やっぱり昔は神輿を二基作ってたんだって」

「二基って、奥宮で二基、前宮で二基って事?」

「そうそう。ラナの言ってること合ってたね」

「でも何で、今は一基づつなんだ?」

「過疎化だって。人が減って神輿を二基担ぐ人が居なくなったんだって」

「過疎かあ……。確かにあれ重そうだもんな」


 僕たちの話が気になったのだろう、気がつくと隼が手を止めてこっちをみていた。


「……何の話?」

「ああ、昨日ね。僕と大斗で神社までラナを送ったんだよ」

「うん?」

「そしたらさ、お神輿を作る前のお祓いしてたんだよ」

「ラナも一緒にそれを見たってこと?」


 そこまで話すと、大斗が興奮したように間に入ってくる。


「そうなんだよっ! 俺と栄太なら良いけどラナどうしようかなって思ったらさ。なんと。ラナが透明人間になったんだよ」

「……えっと、何の話?」

「透明人間。ラナがすっと見えなくなったんだよ。ラナが目を閉じて呪文を唱えたらさぁ――」


 聞いていると大斗が変なことを言っている。僕は思わず口を挟んだ。


「呪文なんて唱えてないよ」

「あれ? そうだっけ?」

「そうだよ。なんか目を閉じて集中してって感じだったじゃん?」

「ああ、そうだったかも。でもさ、どっちにしろ凄いだろ? 透明人間だぜ」

「確かにビビったよな……」

「で、現れるときもスーっと普通に出てきたよな」

「やっぱりなんか宇宙人の機械を使ったのかな?」

「それだったら貸してもらえないかな。俺も透明人間になってみたいな」

「いいねえ。午後に行ったら聞いてみようよ」


 再び大斗と盛り上がってしまった。隼は「何の話かまったく分からないんですが……」とつぶやいて再び宿題帳の方に向かってしまった。


 ……。


 ……。


 午後になって再びラナの所に向かう。今日は大斗は家族の用事で来れないって言っていた。

 前宮の転送室が使えなくなっていたことを考えると、もう僕たちにラナが帰るための手伝いをするとか、そういうのは難しくなってしまっている。だけど、なんとなく一人っきりのラナを放っておくことも出来なかった。


 転送室へ入ると、もうすでに先客がいた。隼だ。なんだか真剣な感じで話をしていた。


「今日はちょっと早かったね」

「うん、まあ、色々聞きたかったからな」

「へえ」


 確かに隼は宇宙とかそういうのが昔から大好きだ。だから僕は後ろの椅子に座り、隼の邪魔にならないようにそっと二人の会話を聞くことにする。

 隼も僕の方を見て、その意図を感じたみたいだ。小さく「悪いな」というとラナに質問する。


「えっと……。僕らの世界でも色々と恒星間航行の方法は考えられているけど、ラムジェットエンジンでもレーザー推進でも結局は亜光速までしか理論上出せないってなっているんだよ。それでもめちゃくちゃ早いんだけど……。例え光の速度で移動してもこの地球に一番近い恒星まで四光年はかかるっていうんだ。ラナの星は見ていると光速を軽く超えるようなスピードで移動しているとしか思えないんだ。そういうのってどういう技術だったりするの?」


 いきなり難しい話を始めた。でも光の速さでも何年もかかるのに、ラナ達は普通に行き来しているみたいな感じで、それが隼が聞きたいことなんだろう。

 僕もそう考えると気にはなるなあ。


「うーん……。やっぱり隼はそういうの気になっちゃうわよね」

「まあ、当然ね。亜光速で飛んでいて、眼の前に小惑星帯があっても人間の反射神経じゃまず避けられないなあとか、そう考えているとラナ達がいろんな恒星へ旅をしているってちょっと不思議すぎて……」


 僕は今まであまりラナの星の文明の事を考えたりしてこなかったけど、隼の質問を聞くと確かに不思議だなあとは思う。でも、隼らしいなあって聞いていた。


 一方のラナはちょっと困ったように考え込み、そしてぽつりぽつりと話し始める。


「私だってまだ専門家じゃないし、専門家を目指している状態なのよ」

「うん、でも分かる範囲でも聞きたいな、ってさ」

「その気持は分かるわ。でも文明に差がある人達へあまりそういう話は出来ないのよ。禁止されていて……」

「やっぱりある程度知識は制限されているんだ……」


 ラナの答えに隼が少し残念そうな顔になる。それを見てラナは苦笑いしながら少し話を始める。


「でも……。何ていうか。……そうね。例えば、この世界は何次元だと思う?」

「え? 次元……。四次元? でも学者さんはもっと多くの次元があるって言っている人もいるって何かで読んだことはあるよ」

「そうね。学者さんが計算でもっと多くの次元があるという仮説は立てていても、人間が生身で認識できる次元は空間三次元で時間一次元の四次元って感じでしょ?」

「……実はもっと多いとか?」

「そうね、そこら辺の計算での次元はともかく、地球の人って四次元で物事を見聞きするわよね?」

「うん。……え? まさか……ラナにはもっと見えるっていうの?」

「簡単に言えばそう。私達はそこの次元数の感覚が少し違うの。きっと隼が意識していない部分が見えている」


 僕にはよくわからない話を二人がしているのは分かる。そのくらいだ。

 でも隼はなんかとても驚いているようでこめかみをグリグリと揉んで必死に何かを考えている。

 そんな姿を見ながらラナは説明を足していく。


「昨日の話は……。もう聞いている?」

「えっと。花火の後の? なんか、ラナが透明人間になったとか。栄太も大斗も興奮してちょっと要領得なかったんだけど。本当に?」

「うん。感覚的なことだからうまくいえないんだけど、あれも何ていうか、君たちの四次元じゃない別の次元で私が少し動いた……。って感じなの」

「み、見せてもらって良い?」

「もちろん」


 そう言うと、ラナは昨日と同じようにすっと消えていく。


「多分今私がやった移動は全く理解できないと思うけど、こうやって感じられる次元の数の違いが一番になると思うの」


 ラナはそこまで話すと再び体を元の見える状態にした。


「多分、地球の人にはとんでもない事をしていると思うのかも知れないけど、私達にとっては普通に歩いたりするのと同じ感覚で、これをやることで見えなくなることもない。だから私達が考えられる科学技術も、思考する次元の数が違うから……。この地球で考えられる科学技術と違ってくる。そもそも物理法則すら少しづつ変わってくるの」

「じゃあ……相対性理論とかは……」

「間違っては居ないわ。でも、見方としては四次元の中で生きている人達の物。になるわね」

「うっわ……」


 ラナの話を聞いて、隼が顔を曇らして椅子の背もたれに体重を預ける。


「じゃあ……。地球人には光速内での移動しか出来ねえってことか……」

「うーん。それはなんとも言えないわ。地球の人ってそういった見えないものを創造する力がものすごく強いと思うの。見えないのに光が物体と波の二つの性質があるとか、量子力学とか、計算だけでどんどんと本質に近づいていくわけでしょ?」

「本質、なんだね?」

「えっと……。それは、ノーコメントで」

「ははは。そっか。いや。ありがとう。なんとなく諦める必要は無いのかなって気持ちにはなったよ」

「ふふふ。地球人の科学技術を大いに進めて頂戴」

「うん」


 なんか、二人にしか分からない会話をしているのを聞いていて。ちょっとだけ隼が羨ましいなっておもっちゃったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る