第12話 お祓い
帰り道、隼は途中で別れて家に帰り、神社に近い僕と大斗はラナを神社まで送る。
神社まで着くと、神輿づくりの足場の辺りが煌々と電気が灯っていた。もうちゃんと屋根まで付いていて、完全にテントは出来上がっている。
ラナが寂しそうに星を見ていたのもあって、少し気分は下がっていたけど、そんな明かりを見れば僕たちの心のなかでは、祭りを待つウキウキ感が少し持ち上がってしまう。
遠くから見ると、どうやら神主さんがフサフサの紙がついた棒をもって何やら祈祷をしている。
それを見て大斗がちょっと興奮気味に言う。
「いよいよ神輿づくりが始まるな。父さんも来てると思うぜ」
「多分僕の父ちゃんも来てるはずだよ」
「ちょっと見てみようか……。あ、ラナは駄目か」
「良いわよ、私もちょっと見てみたいわ」
「でも、なんて言おうか……」
「じゃあ、こんな感じでどうかしら」
そうラナが言うと、ラナは立ったままジッと目を閉じる。
「……え?」
「なっ!」
その変化には僕も大斗もびっくりだ。ラナは見ている間にだんだんと透け始め、すぐに見えなくなってしまう。
「ら、ラナ?」
「居るわよ。すぐ横に。ほら、あまり私のことを気にしないで。二人であそこに行ってきて」
「う、うん……」
突然透明人間みたいになってしまったラナに戸惑いつつも、心のなかで「やっぱり宇宙人だ。すげー」なんて思いながら、僕たちはお祓いをしているテントへ近づく。
大斗がそっと中を覗くと、中に居た大斗の父ちゃんがすぐに気が付く。祈祷は始まっているので、ちょっと遠慮するように腰を折り曲げて「すいません。すいません」って感じで僕たちの所までやってきた。
奥の方では僕の父ちゃんもこっちを見ていたが、大斗の父ちゃんに任せようと決めたみたい。椅子に座ったままこっちを見ている。
大斗の父ちゃんは小さい声で声をかけてくる。
「どうした大斗」
「えっと……。花火の後にちょっと覗いてみたくて」
「もう遅いのに。でも、まあ、いっか。栄太もこっちこい」
そして大斗の父ちゃんに先導され、そっと脇から並べられたパイプ椅子の所まで行く。僕たちは邪魔にならないように一番後ろだ。
父ちゃんの方を見れば、父ちゃんはちょっと笑いながら「おとなしくな」と口パクで注意をしてきたので、僕はおとなしくうなずいた。
「頭をお下げください……」
その時、神主さんの言葉が聞こえる。前に居る大人たちと同じように僕と大斗もお辞儀をするように頭を下げる。頭を下げたままふと横を見ると、僕の隣のパイプ椅子のクッションが微妙に沈む。どうやらラナも隣に座ったみたいだ。
神主さんがよくわからない祝詞を唱えている間。僕らはただ頭を下げていた。パサッパサッっと恩幣を振る音が聞こえる。
「おなおりください」
その声で僕らが頭を上げると、今度は祭壇の下の方から金属の飾りを仰々しく出してくる。
それこそこの祭りが奇祭と言われる象徴だって聞いている。
金属のプレートは、なんていうか。カツオの形をしているんだ。よくテレビでみるお神輿の上には、鳳凰とかそういうカッコいい奴が飾られているんだけど。何故か僕たちの町のお祭りはカツオが神輿の一番高いところに乗っている。
たぶん、知らない人が見ればカッコ悪いって思うかも知れないけど。もう何度も見てる僕たちにとっては実は、普通じゃない? くらいに感じている。
そして、なぜカツオなのかも全く分かっていないらしい。僕たちの町は、というより僕たちの県は海無し県って言われていて、本州の真ん中あたりにあるため、海に接しているどころか、日本の中でも海から一番遠い町と言われている。
だから、地元の郷土史を調べている先生たちも、なんでカツオなのか全く分かっていないらしいんだ。
そんな銀色のギラギラしたカツオを祭壇の真ん中に置き。神主さんが仰々しく祝詞を奏上する姿は、ちょっと笑いそうになっちゃう。
横を見れば大斗も必死に肩を震わせて、笑いをこらえていた。
神主さんの祈祷が終わると、氏子総代さんが簡単な挨拶をして今日は大体終わりみたい。でも、この後父ちゃん達はここで酒盛りをするらしい。
「いやな。違うんだって」
「えっと。何も言ってないよ?」
「祭りの期間は町の人達が沢山お酒を寄付してくれるのよ」
「うん。だから何も言ってないって」
「毎日飲まないと終わらない量なんだって。なあ。奥ちゃん」
奥ちゃんって、大斗の父ちゃんのことだ。奥村だから奥ちゃんらしい。下の名前じゃなく名字の方をあだ名にしている。
その大斗の父ちゃんも「こればっかりは仕方ねえ」と神妙に頷いていた。
父ちゃん達は、なんとなく毎日飲むことにちょっと後ろめたさもあるのかな? さもそれが大事なんだと大げさに説明してくるのがちょっと面倒くさい。
「でもまあ、お前たちはもう帰りな。母ちゃんが心配してるぞ」
「うん。そのつもり」
「ま、母ちゃんたちにはちゃんと連絡しておくけどな」
そう言いながら、父ちゃんはスマホを取り出して母ちゃんに連絡を居れてくれる。
僕と大斗は、父ちゃんたちに逆らうこと無く神輿づくりのテントから出て行く。そのまま神社の入り口辺りまで行き振り向くけど、大丈夫そうだ。
テントの入口はちょっと向こう側に向いているから、ここからだと見えない。
「ラナ……。もう大丈夫だよ」
「……うん」
声とともに、ラナの姿がすっと濃くなって、もとに戻る。やっぱり凄いけど。そういう機械でもあるのかな? 僕も透明人間になって色々と街を歩いてみたくなる。
そのラナは少し考え込むような感じで腕を組む。
「ねえ……。あの飾りって昔から使ってるやつかしら?」
「飾りって、カツオのやつ?」
「そう、魚みたいな」
「うーん。多分代々使っていたと思うんだけど。どうして?」
「ちょっとこれを見てほしいの」
そう言うと、ラナは首から掛かっていた金属のプレートを出して僕たちに見せる。それを見て僕も大斗もびっくりする。
「それって……。カツオ?」
「うーんと。カツオじゃないんだけどね。そうね地球のカツオにそっくりよね」
「うんうん。どう見てもカツオだよ」
ラナが付けていた金属のプレートには、先程のカツオと同じ絵が彫られていた。
「それって、ラナがここに居るっていう信号を出しているやつだっけ?」
「そう。これを身につけることで、私がここに居るって信号を送り続けれるの」
「じゃあ、あの神輿の飾りもそういう信号を送る機械なの?」
「そういう事なんだけど……」
ラナは更に考え込む。そして気になることを僕らに聞いてくる。
「あれを付けたお神輿を、本宮まで運ぶのよね?」
「うん、そうだよ」
「でも……あれ……。あの魚の飾りは、一つだけ?」
「いや、前宮からの神輿にもあのカツオが付いているよ」
「その二つ?」
「うん……そうだけど……。どうしたの?」
「多分なんだけど……。少なくとも、あれは四つあったはずなのよ」
「四つ? うーん僕たちはあの二つの神輿しかわからないなあ」
「……そっか。うん。そうね」
ラナは質問が終わると、笑顔を見せ、今日はもう寝ましょうと言う。僕も大斗もラナが何を言いたかったのか分からず「?」って顔をしてしまう。
それでも、僕たちもあまり遅くなると母ちゃんに怒られそうだから、今日はそのくらいにして帰ることにした。
それにしてもあのカツオの形の理由。偉い郷土史の研究家でも知らないことをもしかしたら僕は知ってしまったかも知れない。
そんな事を考えると、少し楽しくなった。
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