第3話 想いを形に

「花火大会に、行きたい。」


幸恵の、お願いを、

僕が断る理由もなく。。


僕は、花火大会に、行く支度を、

整えていた。

事前に、僕のクローゼットに、

買って、彼女が、しまっていた、

浴衣を、嬉しそうに、

羽織る彼女。


浴衣を着た幸恵は、とても、

可愛くて、色っぽい。


「どうかな?」


嬉しそうな彼女を見て、

つい。見とれてしまった。。


「ねえ。」


「あ、ごめん。綺麗過ぎて、

見惚れちゃった。」


「もう。恥ずかしい。

でも、ありがと。嬉しいよ。」


僕は、幸恵が、帰ってきて、

その次の日から、

仕事を休んだ。。。


いつ、彼女が消えても、

もう、これ以上の後悔は、

したくないから。


昼過ぎから、幸恵と二人で、

手を繋いで、花火大会へ、

電車に乗って、出掛ける。


電車は、そんなに混雑は、

してなかった。


「久しぶりだね、誠と、電車。」


「そうだね。いつもなら、

車をだすからね。。

でも、たまには、電車も、

いいね。幸恵に、くっついて、

いられるから。」


「ふふっ。なんか、誠、

甘えん坊さんに、なったの?」


「そんな事は、ないよ。

ただ、傍にいられるのが、

嬉しいだけ。」


「うん。それなら、私も一緒だよ。」


電車が、ブレーキを緩やかに掛け、

目的の駅に、到着して、


「駅は、人少し多いね。」


「そうだね。やっぱり花火大会、

あるからね。」



そこから、幸恵と、手を繋いで、

ゆっくり歩き、

花火大会の、会場に入った。。


「あそこに、場所とろうか。」


「うん。」


少し、歩道に近い、人が増えても、

移動がしやすそうな場所に、

僕たちは、場所を確保した。


「ちょっと、早かったかな?」


「いや、早めに来ないと、

電車も混むし、場所をとれないよ。」


「そうだね。花火大会、

始まるまで、後どれくらい?」


「あと、二時間。」


「結構あるね。 誠、敷物敷いて、

飲み物買いに行こうよ。」


「うん。幸恵は?大丈夫なの?」


「うん。私、喉とかお腹とか、

本当に、大丈夫だから。」


僕も、幸恵の、これがなければ、

生き返ったと、きっと、

錯覚していたと、思う。


「いちいち、買いに行くのは、

大変なので、

飲み物と、スナック菓子など、

少し多めに買って、

敷物を敷いた場所に戻った。」


「花火上がるまで、ゆっくり、

座ってようよ。」


「うん。そうだね。」


「花火大会って、帰るのも、

大変なんだって。」


「そうなんだ。どうして?」


「この沢山の人が、一斉に、

花火大会が、終わると、

移動始めるから。」


「そう言う事かぁ。なんか、

大変そう。」


「帰りも、手を繋いで、帰ろうね。」


「うん。それなら、安心。」


「ねぇ。誠。仕事、休んで、

平気なの?」


「今は、そう言う事、考えられない、

だって、幸恵が、もし、

消えても、その瞬間まで、

今度こそ、傍にいたいから。」


幸恵も、僕を真っ直ぐ見て。


「ありがとう。そうだね。

もし、この魔法が解けても、

私も、誠の傍に、最後まで、

一緒にいたいよ。」


「うん。いない時に、消えられたら、

後悔しても、しきれないから。」


「うん。お互い、そう言う、

後悔は、あれが、最後にしようね。」


僕は、幸恵の後ろに回り、

幸恵を、抱き締めた。。


「うん。 こうしてると、

落ち着くね。誠。。私、幸せ。」


「僕も。本当なら、一生、

こうしてたい。」


「うん。。でもね。きっと、

私、今のこの時間は、

ずっとは、続かないと思ってる。

誠も、同じでしょ。」


「うん。怖いけど、なんとなく、

わかるんだ。」


「そうだよね。だって、この魔法は、

私たち二人で掛けた、魔法だから。」


「うん。」


「だからね、誠。私が消えるまで、

ずっと、傍にいてね。」


「うん。傍にいる。絶対。」


僕も、幸恵も、目尻から、

「すうっ」と涙が、落ちた。


でも、これは、

本来なら、あり得なかった事を、

二人で成し遂げた、結果の、

花火大会だから、僕たちは、

苦しい思いと、二人でいられる、

幸せを、一秒でも長く噛み締めた。。


あたりが、薄暗くなり、

最初の花火が、

「ひゅーっ」っと、上がった。


「綺麗。」


幸恵の瞳は、きらきらと、輝き、

僕は、幸恵の方が、ずっと、

綺麗だと思った。


「ねえ。誠、ほら、凄い、凄い。」


「本当に、綺麗だね。」


二人で見る、きっと、

これが、最初で最後の、花火大会。

僕は、花火より、幸恵の表情から、

目が離せなかった。。。


始まってしまえば、

時間が経つのは、以外に早かった。


最後の花火は、

幸恵と一緒に、手を繋いで、

同じ時。同じものを見上げた。。


「あーあ。終わっちゃったね。」


「うん。そうだね。」


「私、今日の花火、一生忘れない。」


「僕もだよ。花火も、花火を、

一緒に幸恵と見た事、一生忘れない。」


「まぁ。一生って言っても、

私は、もう、終わってるけどね。」


寂しそうな、幸恵の顔を見たら、

たまらず、僕は、幸恵の唇を、

奪っていた。。


「んーっ。」


僕の涙をみた、幸恵は、

何も言わず。僕たちは、

長いキスをした。。。


「もう。恥ずかしいよ。こんなに、

いっぱい人がいるのに。。」


「ごめん。でも、僕は、

恥ずかしくなんてなかった。

幸恵と、こうしてられる時間が、

いつまでか、わからないから。」


「うん。そうだね。」


今度は、幸恵から、長いキスを、

してくれた。。。


「これで、おあいこだね。」


「後は、帰ってからしよ。」


「うん。」


「駅に、戻ろうか。

人の流れが、溢れる前に。」


「うん。」


僕と幸恵は、足早に、駅に戻った。


「うぁーっ。こんなに混むんだ。」


「うん、幸恵、こっちの方が、

歩けそう。」


混み合う人の隙間を抜けて、

電車に乗り。

僕たちは、家の近くの駅に着いた。。


「なんか、安心するね。

この駅に着くと。」


「幸恵は、バイトで、

毎日乗ってたから、余計にじゃない?」


「うん、そうかも。この駅に着くと、

誠の所に、すぐ着くからかな?」


「ありがとう。そう言う気持ちで、

いつも、僕の所に来てくれて。」


「私が、好きで来てたんだから、

私こそ、ありがと。ずっと、

傍にいてくれて。」


手を繋いで、二人で帰る帰り道。

とても、幸せで、暖かくなる。


「誠と、駅から歩いて帰るのって、

あんまりなかったから、

私、今、幸せだなぁ。。」


「幸恵が、来るとき、毎回、

迎えに行けばよかったなぁ。」


「だって、それは、無理だよ。

私が、バイトから帰るのより、

誠の帰りの方が、遅いんだから。」


「あ、そうかぁ。そうだね。。

いつも、幸恵に、ただいまって、

言ってたもんね。」


「そうだよ、おかえりって、

言うのは、いつも私。」



「なんか、そう言うのも、

幸せだったんだなぁ。。」



「私も、誠の帰ってくる家で、

待ってるの、幸せだったよ。」


「ありがとう。幸恵。

僕の帰りを待っててくれて。。」


「ふふっ。誠も、いつも、

寄り道もせず、帰って来てくれて、

ありがとね。」


「着いたね。」


家の玄関の鍵を開けると、

先に、幸恵が、入って、

何故か、鍵をかける。。


「なるほど。」と呟く。


凄く切ない気分になったけど、

せっかくの、幸恵のイタズラな

行動に、乗っかる事にした。。


「ピンポーン」


「どちら様ですかぁ」


「僕だよ。」


「ガチャ」


「ただいま。」


「おかえり。」


「ふふっ。」


「あははっ。」


「さっき話してて、どうしても、

もう一度、したかったの。

ごめんね。」


「先に入って、鍵を掛けた時、

僕もわかったよ。」


「うん。」


「今日は、本当に、楽しかったね。」


「うん。ねぇ、誠、

一緒に、お風呂入ろ。

汗かいたでしょ。」


「え、いいの?いつもなら、

お風呂、恥ずかしいからって、

一人で入るのに。」


「いいの。今日は、一緒に、

入りたいの。」


僕たちは、服を脱ぐと、一緒に、

お風呂に入って、

お互いの頭と、背中を流した。


「誠、痒い所とかない?」


「大丈夫だよ。」


頭を、シャワーで流すと、

今度は僕が、幸恵の頭をあらう。。


「幸恵、痒いとことかない?」


「うん平気。なんか、こう言うの、

いいなぁ。もっと、誠に、

洗ってもらえばよかった。」


シャワーで、幸恵の頭をすすぐと、


今度は、僕の背中を、幸恵が、

タオルで、洗ってくれた。


「誠の背中、大きいね。。

もっと、こうやって、洗って

あげたかったな。。」


「さっきから、これで終わりみたいに、

言わないでよ。」


「うん。ごめんね。」


僕の、背中を幸恵が流すと、

僕も、幸恵の背中を洗う。。


幸恵の背中は、細くて、とても、

白くて、綺麗な肌。。


「どう、強くない?大丈夫?」


「うん、気持ちいいよ。」


「ねぇ、誠。特別に、他も、

洗っていいよ。」


「えっ。。うん。じゃあ。」


「うん、くすぐったい。」


「ごめん。でも、こうやって、

洗わないと、無理だよ。」


「ふふっ。だってぇ。

くすぐったいもん。」


幸恵の身体を、ひととおり、

洗ってあげて、シャワーで流すと、


「じゃあ、誠も洗わせて。

私だけなんて、ずるいから。」


「うん、じゃあ、お願い。。」


「はーい手を伸ばして。

こんなに、腕とか足、

太かったんだね。」


幸恵が、正面で、

身体を洗ってくれて。。


「誠、エッチだね。。」


「生理現象だよ。幸恵の身体を、

見ながら、こんなに、気持ち良く、

身体を洗われて、そうならない方が、

僕は、可笑しいと思う。」


「もう。」


ごしごしと、幸恵にそこを、

洗われて。。


「ねぇ。このまましたい?」


「うん。結構限界かも。」


「うん。私もしたいな。」


そのまま、泡を流して、

二人で、気が済むまで、

愛し合った。。。


「誠、激しすぎだよぉ。」


息を切らして、幸恵が悶える。


「だって、ずっと、

してなかったから。」


「あたしも、一緒だよぉ。」


「また、赤ちゃん出来たら、

いいのにな。」


「うん。」


「誠、いっぱいして。」


「うん。」


もう、どのくらいしてたのか、

わからないくらいそれから、

愛し合って。


お風呂から出た。。。


部屋に、少しふらふらと戻り。


お互い服を着て、見つめ合う。


「誠、凄くよかった。」


「幸恵も、綺麗で、可愛かったよ。」


「馬鹿。。。」


「誠、何か食べなよ。

ご飯まだでしょ。

私、お腹すかないからごめんね。

気がきかなくて。。。」


「いや、大丈夫。。。

今日は、カップ麺でも、

食べるよ。」


お湯を入れて、カップ麺を食べる。


「食べるの、早いね。」


「そう、かな?」


「本当は、ご飯作ってあげたいけど、

どういうわけか、

食べ物に、触れないの。。

何でだろう。。。」


「なんとなく、わかってたから、

大丈夫。幸恵のご飯、

美味しいから、好きだけどね。」


「うん。誠、私のご飯、

残したことないもんね。

いつも、美味しそうに食べてくれて、

ありがとう。」


「ううん。いつも、本当に、

美味しいご飯出してくれて。

ありがとう。

それに、

色々、僕の世話してくれて、

ありがとう。掃除も、

洗濯だって。。。」


「私、料理も、洗濯も、掃除だって、

誠の傍で。。好きな人の為に、

何かを出来る事が、本当に、

幸せだった。幸せだったよ。」


「うん。本当に、

幸恵には、世話になりっぱなし、

だったよ。」


「もう、私が、好きでやってたのに、

誠は、馬鹿なんだから。。

でも、誠のそう言う所も、

大好きだよ。」


「僕も、幸恵が大好きだ。」


また、お互いに、長いキスをして。


そのまま、抱き合った。。。


ずっと、一緒にいたい。


お互いの気持ちも、


お互いの考えも、ちゃんと、


言葉に出して、伝え合った。。。



ずっと、抱き締めあって、



お互いに、いっぱい泣いた。



僕たちには、わかってたんだ。



もう、時間が、無いって事が。。。



二人で掛けた魔法。。。



どうしても、伝えたい事。

最後の約束。

もう一度抱き締めたい、

愛し合いたい。

その強い願いが、

かなってしまった。。。


それでも、本当の最後の願いは、


離れたくない。。。


傍にいたい。。。


でも、その願いには、


魔法は届かなかった。。。


「誠、誠、誠。もう、私の声で、

名前呼べないけど、私ね、

誠の事、本当に、愛してた。

大好き、離れたくない。

でも、それは、駄目なの。。

ずっと、願ったけど、

駄目だった。。

私と、最後に。。。

約束して、

誠は、精一杯生きて。

それでね、私、待ってるから、

まってるからさ、

その時、誠の話し聞かせて。

誠が、どう生きたか。。。

その時、楽しかったこと、

辛かったこと、全部聞いてあげる。。

だから、どんなことがあっても、

私に、聞かせるために、幸せに、

幸せになってよ。

誠の幸せが、私の幸せだから。。

だから、頑張ってよ。。。」


「ううっ。。。

わかったよ。約束する。。。

どんなに辛くても、

頑張る。。。

それでさ、僕の話しを、

君に聞かせる。。。

だからさ、ちゃんと、

楽しみに待ってて。。。」


「うん。絶対待ってるから。」


「うん。待ってて。。」


「愛してるよ。誠、頑張ってよ。

幸せにね、絶対。約束だよ。」


「うん。絶対に、頑張る。。」



「すぅ。」と、彼女の身体が、

空気の様に、触れてる感覚が、

無くなり。。。


「愛してるよ。誠。。。」


「幸恵、僕も、愛してる。

必ず、人生の終わりに、

会いに行くね。」


「うん。楽しみ。」



それが、彼女の最後の言葉だった。。


それから、僕は、前とは違う、

幸恵との約束を胸に。。。

今を、生きている。


あの、幸恵との時間は、

たったの、2日間だったけど、

それが、現実なのか、

夢だったのか、とても、

不思議な感覚。。。


ただ、幸恵の匂いのする、

浴衣だけが、僕には、

夢じゃなかったと、信じさせる。。


二人で掛けた魔法。

それは、多分、生前に、

使ってたり、買ったものしか、

触れないと言う、制限が、

有ったのかも知れない。。。


それでも、僕には、

あのままでいるよりも、

ずっと、良かった。

幸恵の気持ちも、ちゃんと、

聞けた。僕も、言いたい事、

聞きたい事。後悔してた事も、

抱き締めたり、

愛し合ったり。

幸恵の、お願いも、約束も

全部を、噛み締めて、

僕の新しい人生は、

スタートした。。。


僕は、この先、どんなに辛くても、

困難があっても、幸恵との、

約束を守るために、生きる。

大丈夫。大丈夫。と、

魔法を掛けて。。。


魔法使いのように、

生きて行ける。


この、幸恵との煌めく時間を、

過ごした、町の片隅で。。。



煌めく町の片隅で。完




あとがきになります。


この話は、僕が、最初に書いた、

君の幸せを僕は知らないの、

ほぼ、本当の話しです。


婚姻届を、書いて、外に出て、

ブリキ缶で、燃やして、彼女に、

届けたのは、もう、随分と、

昔の話です。


僕の中では、間違いなく、

この人が、初めて結婚してくれた人。

そう思っています。


それでも、生きて行かないといけない。

だって、約束があるから。

どんなに、心が、孤独になっても、

大丈夫って、言い聞かせて。

そんな、人の話しでした。














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 煌めく町の片隅で gonnaru @gonnaru

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