遠い約束

茶ヤマ

外で幾人かの子どもたちが遊んでいる声がする。

聞くともなく聞いているうちに、ふと思い出してきたことがあった。


幼い頃…今、外で遊んでいる子らとさほど変わらない年の頃だと思う、その頃に、どこかの林で遊んでいた。

どこの林だったのか、どうしてそんなところへ行ったのかも覚えていない。


空は底がわからないほど青く、空気はサラリとしていて明るい陽射しが降り注いでいた。

それなのに、記憶の中のその林の木々の合間は、果てが見えないほどにほの暗く、吹いてくる風が生ぬるんでいて、それが澱んだ何かのように感じた。

自然の風が気持ちいいなんて嘘だな、と思ったような気がする。


一緒に遊んだ子の顔も思い出せないが、なぜか微笑んでいたことは覚えている。




外で幾人かの子どもたちが遊んでいる声がする。


あの子らと似たような年の頃に、林で誰かと遊んでいて……その時に、何か約束をしたような……


"もういいかい"

"まぁだだよ"

という声。


ああ、そうだ、私も隠れ鬼をして遊んでいたのだ。

子らの声を聞くともなく聞いているうちに、ふと思い出したのはそのためだ。


たった二人で隠れ鬼。

そうだ、あの子が自分が鬼をやると言って、微笑んでいたのだ。


……しかし、その目は何も映さぬ虚無の黒い穴……

ああ、それが木々の合間の影と相まって、果てが見えないほどに…


私の背後で「じゃあはじめるよ」と笑いながら言ったあの子の息が、いやに生ぬるんでいて…


そうして交わした約束は


"早く遠くへ サイゴまで 上手にお隠れ

おにの私が 見つけてみせる

けれど

見つけた その時には"



マデ 上手ニ オ隠レ

鬼ノ ワタシガ ミツケテミセル

ケレド

見ツケタ ソノトキニハ



その時には



ドアも窓も閉めているのに、背後で生ぬるんだ風が吹いた

振り向かなくてもわかる

私を見下ろす二つの果てのない虚無の黒




ミ ィ ツ ケ タ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

遠い約束 茶ヤマ @ukifune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ