第3話 魔王軍の運営は今日も大変です

 ミカルの森を通過したミスガンは、隣国との境の平原を馬車を走らせていた。

 隣国は、目の前で追っ手もいない。

 彼は、逃げ切れると確信した。

 何故なら、軍が他国に踏み入れば、争いになる。アルカディア帝国は、現在、他国と戦争中。

 別の国と余計な争いは、起こしたくないだろうと踏んでいたからだ。






「ぶふぇふぇ! 馬鹿な王だぜ。あんな簡単な、嘘に騙されやがって。あとはこれを他国で売り捌けば、一生遊んで暮らせる。」


 ミスガンは、勝利を確信し高笑いしていた。すると、凄まじい閃光と轟々とした音を携えた雷がミスガンの目の前に落ちた。

 驚いたミスガンは、慌てて馬車を止めた。

 このような青天の日に雷が降るとは何事だ!と思ったミスガンは、慌てて空を見上げた。

 ミスガンが目を凝らしてよく見ると、空には男が浮いていた。



「聞こえていたぞ。貴様、今グリム様を侮辱したな。」

「き、きさまは魔王軍四天王の一人、宰相シャナーク。」

「誰だ。そいつは! 私はただの内政官だ。……貴様のようなクズが我が主人を侮辱するなど万死に値する。死して償うがよい。」

「ぶひぃいいい!」


 強大な魔力の膨張を確認したミスガンは、慌てて馬車を走らせた。


 ーー火系統魔術 滅炎竜


 シャナークが放った炎は、竜へと変形し、逃げるミスガンに襲いかかった。


「ぴぎゃあああああ!」


 滅炎竜は、ミスガンの首元に齧り付き全身に纏わりついた。ミスガンは滅炎竜の灼熱で焼かれ真っ黒こんがり豚肉になった。

 動かなくなったの姿を見ても怒りが収まらなかったシャナークは、滅炎竜をもう一発ぶち込んだ。

 ミスガンは、すでに真っ黒こんがり豚肉だったがさらに焼かれ消し炭になって跡形もなく消えた。


「全くこの大変な時期に余計なことしやがって……。やばっ!馬車に火が! 」


 シャナークは、急いで降りて馬車に燃え移った火を慌てて消火した。


「中には、燃え移ってないよな。」


 シャナークは、荷台の中に入って宝具に傷が入っていないか確認した。


「よし。宝具は全て無事だな。お! この魔剣なんかダンジョンの目玉にいいんじゃないか。」


 シャナークは、馬車から宝具を全て取り出して、城へと戻った。


 □◇□


 この事件から2週間後、ついにダンジョンが完成した。


 罠を配置した建物も冒険者を阻む魔物も冒険者の目当てのお宝も全て完璧。あとは冒険者が来るのを待つだけだ。

 シャナークはダンジョンに配備したたくさんの映像魔道具に映った映像をモニターで見ながら冒険者が来るのを固唾を飲んで見守っていた。

 すると、三人組の冒険者が近づいてきた。

 そして、門の前に書いてある立て札をみながら、話し始めた。


 入場料 5000イェニ


「ここか?ギルド職員が言っていた新しいダンジョンは。」

「ええ。見なさい。なんでもダンジョンの中に入るのにお金を取る変なダンジョンみたいよ。」

「なんだそりゃ?めんどくせえ。何でそんなふざけたダンジョンに俺らが駆り出されなくちゃなんねえんだ!」

「仕方ないだろ。ギルド直接の依頼だ。無碍にはできんだろ。」



 よかった。隣国の冒険者ギルドで情報を流しておいた甲斐があった。そのお陰で思ったより早くギルドは、冒険者に依頼してくれた。しかも、その口振りからかなりの腕前のようだ。せっかくのダンジョン計画も誰もこなければ、意味をなさないからな。一組目の冒険者がきてほっとしたシャナークは、胸を撫で下ろした。そして、再び画面へと目を向けた。

 すると、冒険者たちは門に攻撃をしていた。


「ふん。」


 ガン!


「駄目だ。門を壊して中に入るのは無理そうだ。」

「やはり、お金を払うしかないみたいね。」


 当然。大規模魔法でも壊れない特別な結界魔道具だ。そんな攻撃程度では、びくともしない。とシャナークは、得意気だった。


「仕方あるまい。」


 チャリン

 立て札の前に置かれている細長い台にお金をおくと、

 ガガガガガガガガガッ!

 と石の扉がゆっくり開き、三人は、そそくさと中に入って行った。 

 ダンジョンの中は、薄暗く仄かな明かりが周りを照らしていた。

 三人は、慎重に足取りを進めた。


 ギィギィギィ


「ゴブリンか」


 三人は、ゴブリンの集団に囲まれたが、そんなこと気にも止めず、一体一体ほぼ一撃で確実に薙ぎ倒していく。

 その後も何度か魔物に襲われたり罠にかかったりしたものの、三人組は、意に介さず道中配置しておいた宝を手に入れながら進んでいく。気がつけば、三人は、9階層の階段を降っていた。

 映像を見ていた魔王軍の魔物たちは、その光景に慌てていた。


「シャナーク様大丈夫ですか? このままこの人たちにダンジョンボスまで倒されたら、せっかくのダンジョン計画が全部パァですよ。」

「問題ない。こいつらは冒険者の中でもかなりの高レベルだが、10階層から階層難易度が一気に跳ね上がる。それに、下の階層に行くには、その階段の前の広場にいるあいつを倒さないとならない。あの冒険者たちの力じゃ絶対倒せないよ。」

 話を終え画面を見るとその間に三人は、階段を降りきり、10階層を進んでいた。

 すると、三人の背後で影が蠢いた。


「ふん!」


 カン!


 背後からの攻撃に、剣士の男が咄嗟に反応した。


「あいつは、cランクの魔物で確か名前は………。」

「シャドウウルフか。厄介な。」

「そうそれだ。」

「魔法を発動する。二人とも、時間を稼いで。」

「「了解」」


 魔法士が呪文を唱えてる間、二人は、魔法士を守りながら時間を稼いでいた。シャドウウルフは、影に潜んで移動するためいつどこから攻撃してくるかわからず非常に厄介だが、上手く交わしている。これだけでこの冒険者たちのレベルの高さがわかる。シャナークは、冒険者の戦いぶりに改めて感心していた。


「準備OK。全員目閉じて!」


 二人は魔法士の合図で目を伏せた。


 ーー殲光弾


 強烈な光を放つ弾丸がシャドウウルフに当たると薄暗かった景色が一瞬で一面真っ白に変わった。

 光が消えて目を開けるとシャドウウルフは、いなくなっていた。


「このダンジョン思ったよりきついな。」

「ええ。私の魔力も残り少ないわ。」

「仕方ない。この階層を探索したら、一旦地上に戻ろうか。」


 三人が魔物と交戦しながら10階層を探索していると、目の前に大きな鉄の扉が現れた。


「どうする? なんかやばそうな感じをビンビン感じるんだが。」

「一応、確認しましょう。」

「そうだな。ただし、少しでも異変を感じたらすぐに引き返す。」


 三人は、ゆっくり扉を開けて中に入った。中には広大な空間が広がっておりその中央には、巨大な魔物が大斧を持ち鎮座していた。


「お、おい。あいつは俺でも知ってるぞ。ギガントだろ! なぜ、ランクAの魔物がこんなところにいるんだ!」

「無理よ。私たちじゃ、とてもじゃないけど勝てないわ。」

「……今すぐ、離れよう。」


 三人はギガントに見つからずに逃げるため音を立てないように後退りしたその時。

 ギガントが立ち上がり咆哮を上げた。


 ゔぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 凄まじいプレッシャーが三人を襲った。


「なんつう圧だ! 碌に身動き取れねえ。」

「逃してくれそうにないわね。」

「逃げられないならやるしかないだろう。さっきと同じ作戦で行くぞ。」


 魔法士が呪文を唱えている間、残りの二人は、ギガントの注意を惹きつけるため散開して左右から攻撃を繰り出した。

 しかしギガントは、微動だにしていない。


「さっきから何度も攻撃が入っているはずだがうんともすんともしやがらねえ。」

「これじゃあ効いてるのか効いてないのか分からないな。」

「いくわ。二人とも離れて!」


 二人が、ギガントから離れると凄まじい魔法がギガント目掛けて放たれた。


「これが今の私の放てる最大火力くらえ! 氷虎連牙!」


 二つの頭を持つ虎を形取った氷がギガントに噛み付いた。

 だがギガントはピクリとも動かず、次の瞬間には左腕で氷を粉々に吹き飛ばした。


「何だと!」

「そんな……私の魔法がこんなにあっさりと破られるなんて。」

「………」


 三人が呆然としていると、続け様にギガントは、右手に持つ大斧を振り回した。

 すると、その風圧で三人は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


「がはっ!」

「馬鹿な。風圧だけで俺たちを……っ。」

「無念だ。……ぅ。」


 壁に叩きつけられた衝撃で三人は、気を失ってしまった。


「ギガントご苦労だった。そいつらは、ダンジョンの近くに置いておけ。あ!あと取られた宝とそいつらの装備とっておけよ。」

「了解した。」


 危なく宝を取られるところだったが何とかなった。これで、準備は整った。三人が、生きて冒険者ギルドに戻ることで、このダンジョンは一気に世に知られることになる。

 ギルドに依頼された三人の凄腕の冒険者が返り討ちにあったとなれば、数多の冒険者たちが攻略しようとこのダンジョンにやってくるだろう。

 そうすれば、残り4億イェ二の費用も捻出出来る。そうなるとシャナークには、確信があった。





 シャナークの予想通りそれから3ヶ月後、ダンジョンの参加人数は、延べ8万人を超え無事に4億イェ二の国費を捻出できた。

 しかし、まだ安心できない。未だ戦争中なのだ。それによってこれからさらに費用が膨らみ国が揺らぐかも知れない。そうなれば武器も買えず戦争に負けることになり民が奴隷になってしまうのだ。

 そうさせないためにも、一刻も早くこの戦争を終わらせなければならない。

 だがしかし、戦争のことばかりに、かまけているわけにも行かない。何故なら問題は、日々起きているのだから。


「シャナーク様! 南の村で、畑が全滅したと報告が!」

「東では、ドラゴンが暴れていて被害は、甚大です。」


「シャナーク様!」

「シャナーク様!」


 シャナークは、問題の報告の嵐を聞きながら、心の中で思った。



 ー魔王軍の運営は、今日も大変です。

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魔王軍の運営は今日も大変です。 神手守 @Kamite

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