第2話 ダンジョン事業
「失礼する。」
シャナークが中に入ると魔導士たちが研究をしていた。
「どうだ!例のあれは、出来たか。」
「シャナークさん。はい!今日の朝ちょうどできて今、最終チェック中です!」
「上手く生きそうか?」
「ええ間違いなく!」
例の装置は、二つあり左の装置にはゴブリンが一体入っていた。
「では、行きますよ。」
魔導士がスイッチを押すと、装置が光り輝いた。やがて光が消えると誰も入っていなかったはずの右の装置に一体のゴブリンが生成された。
「成功しました!」
「やった!」
実験の成功に魔導士たちは、大はしゃぎしていた。
だが、シャナークには、一つの疑問があった。
「ダンジョンに派遣する魔物を作ってくれと依頼をしたのは、俺だが不思議なもんだ。左の装置のゴブリンとまったく同じ個体が右の装置にもいる。これは一体どうやったんだ?」
「この魔道具はスキャナといいまして、魔物の形と魔力を解析してその個体とまったく同じ個体を生成するのです。」
「ってことはつまり生きているのか?」
もし生きているのなら、ダンジョン計画は、白紙に戻さなければならないだろう。なぜなら、お人好しのグリム様なら、生成された魔物も民として扱い、守る対象とするだろうに違いないからだ。
「いえ、スキャナで生成された魔物はオリジナルの魔物と同じ意識を持っていますが命の核、魔核を持っていないため、厳密にいうと生きている訳ではありません。簡単に言うと意思のある人形といったところですかね。」
「なるほど」
「こうやって切っても霧のように消えるだけですし。」
とても分かりやすい説明だ。どうやら、計画の白紙は、なさそうだ。シャナークは、魔導士の言葉を聞いて安堵した。また、別の策を捻り出さなくっても良くなったからである。
「それじゃあ、引き続き頼んだぞ」
そう言い残し、シャナークは、魔導課を後にした。次にダンジョン建設予定地へと向かった。
建設予定地は隣国の間の森にあり、時間がないため空間魔法を使った。
ーー空間系統魔術 瞬間移動
「うおっ!ビックリした!シャナーク様急に現れんで下さいよ。」
「すまない。次は気をつけるよ。ところで、ゴーレム親方進捗はどうですかね。」
「ええ。バッチリですよ。ついてきてください。」
ダンジョンは、全部で50階層を予定していて、
シャナークが親方の後ろをついて歩くと、大きな石の扉の前に案内された。 扉を開けると大勢の魔物がせっせと働いていた。
ダンジョンは、全部で50階層を予定していて、大至急、完成させる必要があるため魔王軍の大工を総動員していたのだ。
「現在、第25階層まで出来てますが見ますか。」
「はい、お願いします。」
シャナークは、ゴーレム親方の説明を受けながら、階段をどんどん進んで行った。
1階層と2階層には特に罠は、置いておらず、魔物だけの階層、3階層は、落とし穴。4階層には、ガス罠が配置されていた。
「冒険者が、罠に引っかかっても死なないか?」
「ええ、落とし穴は、近くの川へ流されるだけですし、ガスは睡眠ガスなので、眠るだけですよ。」
「なるほど。」
「それでこの階の、罠は一体何だ?」
「よくぞ聞いてくれました。この階の罠は自信作でして、この床を踏むと、壁から火炎放射器が出てきて丸こげにするんですよ!」
「チェンジ! 今すぐ殺傷能力の低い罠に変えてくれ。」
「…………お気に召しませんでしたか。残念です。」
その後は、現在、出来ている階層を全て周り危険な罠は、全て殺傷能力の低い罠に変えてもらった。
危なかった……。今は、ただでさえ戦争中だ。もしこのダンジョンで人が死んで、それを運営しているのが我々だとバレてしまったら、今は、日和見の他の国々も噂を信じて攻めてきてしまう。それだけは、避けなくてはならないのだ。
全く職人というやつはたまにとんでもないことをしやがる。シャナークは、心底そう思った。
だが、ダンジョンもそこに配置する魔物も大方準備ができた。あとは、訪れる冒険者にとって魅力のある宝を置くだけだ。
そう思い、シャナークは、城の宝物庫に向かった。
宝物庫の中に入ると、シャナークは、腰を抜かしてしまった。
なぜなら、宝物庫の中に入っているはずの宝が全具無くなっていたからである。
宝物庫には、金銭的に高い宝は勿論。歴史的価値が高い宝具もある。だから、いままでどんなにお金がなくてもこれだけは絶対に売らずにいたからだ。
なのに宝物庫の中身が空っぽになっていたのだ。何故!というのが彼の素直な気持ちだろう。
しかも、宝物庫の鍵を持っているのは自分の他には、グリム様しかいない。
自分には、宝物庫がからになっている理由がさっぱり分からない。ならばグリム様しかいない。そう思ったシャナークは、グリムの部屋に急いだ。
「グリム様!シャナークです! 入ってよろしいでしょうか?」
「おう」
「失礼します」
部屋に入るとグリム様は、書類に目を通していた。
「そんなに慌てて一体どうした?」
「宝物庫の中身がいつの間にか失くなったんです!あそこの鍵は、私とグリム様しか持っていないので、何かご存知ないかと。」
「ああ! それなら全部売ったぞ。」
「なっ! 何故です! あの中には初代国王の時代から存在する秘宝いわば国宝もあるんですよ。」
シャナークの問いに、グリムは、読んでいた書類から、目線をシャナークに向けて、答えた。
「北のアルカイ村で大規模な土砂災害が起きて、村が半壊したらしい。復興には、かなりの費用がかかるが今は、戦争で国にお金がない。ならば、宝物庫の物を売るしかないだろう。」
おかしい。私のところに復興費の申請は、来ていないし、国中に派遣している諜報員からは、ここ数日異常ありの報告は受けていない。違和感を覚えたシャナークは、グリムに自分の疑問を投げ掛けた。
「ちなみにですがその話は、どなたから?」
「北の方から来たオークの商人でたしか名前はミスガンといっていたはずだ。」
「知らない名ですね。」
「ああ。城下町に行っていた時にたまたま出会ってな。アルカイ村を通って来たのだそうでそれはもうひどい有り様で是非助けてあげてほしい。必要な物資は自分が頑張って用意すると言われてな。」
「そうなんですね。」
「ああ。他人のために動ける彼は、素晴らしい人物だよ。たしかに宝物庫の宝は、大切だが、民のために使うのなら先代の王たちもお許しになるだろう。」
「そうですね。……では、私は、これで失礼します。」
グリムの部屋を後にしたシャナークは、グリムの話の裏をとるために諜報員に連絡をとり、情報を集めた。
「アルカイ村は、どうだった?」
「はい!村は至って平和です。村人に聞いても土砂災害どころかここ1年盗みすらないみたいですよ。」
「ミスガンという商人については、何か分かったか?」
「いえ、商人ギルドで確認したんですが、ミスガンという人物が登録した記録はないそうです。」
「そうか。やつの居場所は、分かったか?」
「数日前に城下町の宿を後にして現在、ミカルの森を、通過中です。」
「そうか。この件は、私が片付ける。諜報員には、手を出すなと伝えておけ。」
「分かりました」
通信を切ると、
パリン!
ガラスが割れたときのような高い音が響き渡った。
シャナークがあまりの握力で通信魔道具が割ってしまったからである。
それもそのはず、シャナークは、自分の尊敬するグリム様の優しさに漬け込み、歴史的価値のある国宝を盗んだ不届き者がいたという事実にかつてないほど激昂していたのだから。
グリム様を騙した奴には、裁きを。
そう決意したシャナークは、犯人を追って北の森に飛んだ。
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