魔王軍の運営は今日も大変です。

神手守

第1話 金がない

「ダメだ!あと4億イェニも足りない。このままだと来年度の予算はゼロだ!どうしたらいいんだ!」

 アルカディア帝国の内政官長オズ・シャナークは、ぼやいていた。

 


 魔王グリムが治めるアルカディア帝国は高度な文明があって、街も活気に満ち溢れている。 ただ少し違うところは、人ではなく魔物が住んでいることくらいなもの。

 国の運営は魔王を中心とした魔王軍という組織がとり行っている。

 毎月予算委員会で予算を組んで必要な分を適宜、各部署に渡して国の問題を解決してきちんと運営している。

 しかも、住民全員が魔物で魔力を持つアルカディアでは、魔導力学において、他国のはるか先を行っており、それによって産み出される魔道具は、国が主導する重要な国家産業に位置付けられ、他国でも高値で取引されるためアルカディア帝国は諸外国よりも非常に豊かであり、どう考えてもお金がなくなるはずがないのだ。



 それもこれも奴らのせいだ。

 彼は、頭のなかで悪き奴らのことを思い浮かべていた。

 聖ダマンガス王国とマークダウン王国。


 かの国らは、人間至上主義で、他の種族は、奴隷にするべきだと主張する屑国家なのだが…。

 魔物である我々が、気に入らないのかはたまた、魔道具の利権が欲しいのか……。

 魔王軍は、国々を侵略して世界を征服しようと企んでいる極悪非道の世界の敵であると他国に流布してまわり、周辺の国を味方につけ一緒に侵略してきたのだ。


 そのせいで、戦争経費が膨らんで、ついに予算が底をつき、来年度の国費が捻出できなくなってしまった。

 あいつらさえいなければというのが、偽らざる心境である。

 内心で、屑国家を爆発しつつ彼は、どうすればいいのか頭を悩ませていた。



 本当なら、税金を上げなければならないのだが…。

 それでは、民の生活が苦しくなるからとグリム様は、増税を禁止になさった。

 俺たち魔王軍の給料を下げるようにと提案もしたのだが、お前たちの頑張りを踏みにじることになるからそれはできない!と却下されてしまった。


 グリム様は、本当にお優しい方だと心から思った。


 だがこのまま、予算がなくなり武器が買えず、戦えなくなり戦争に負ければ、アルカディア帝国に住む全ての民が奴隷になってしまう。それだけは、何としても避けなければならない。

 グリム様にも なんとか他の方法を頼む! 力を貸してくれと言われてしまった。

 やるしかない。シャナークは、覚悟を決めた。



 増税や公務員の給料削減以外で国家予算を増やす方法は、二つだ。経費削減と新たな国家事業である。

 経費削減を行うためここ数年で新しく増えた戦争経費で不必要なお金が使われていないか確認するため武器庫に向かった。 



 武器庫に付くと、武具管理課のコボルトと戦闘課のゴブリンリーダーが何やら話していた。



「剣と盾を20個ずつ頼む!」

「わかったすぐに持ってこよう」 


 話終えたコボルトは武器庫の奥に移動したので、呼び止めた。


「仕事中にすまない。ちょっといいだろうか。」

「おお!これはこれはシャナーク様!どうしてこんな所に?珍しいですね!」

「ええ!ちょっと…用があって。ところで彼らは、何を取りに来たんですか?」

「剣と盾を20セット取りに来たみたいです。」


 おかしい……。資料では、先週の戦争の前にも、彼らの隊には、新しい剣と盾を支給したはず。それにあれは、どちらもミスリルでできている。そう簡単に壊れるはずがないのだが…もしかして、不良品をつかまされたか。

 彼の話を聞いてシャナークは、小首をかしげた。


「……彼らは、先週の戦争の前にも剣と盾を支給されているはず。もしかして、また壊れたのかい?」

「いえ、毎回、戦場で無くしてくるみたいで です!」



 なんだと!あのミスリルの剣と盾は、かなり頑丈で、人の多い戦場で使っても手入れさえしっかりやれば、5年は持つ。そのため、一個20万イェニもする非常に高価な物だ。それを20セットもしかも戦争のたびになくしてくるだと!


 確かにゴブリンは、知能が低いが、大切な武器と盾を普通戦場に忘れてくるか!というのが彼の本音である。


 しかし問題を、解決しないといつまでも経費は、増える一方だ。少し高いが仕方がない。


「コボルト君、彼らに剣と盾を渡す前に、魔法課に行って自動帰還の魔石を剣と盾につけてもらってください。」


「はい、分かりました!」

「それとですね。書類を確認したのですがこのオーク隊20名の盾の交換頻度が多すぎるのですが、何か知ってますか。」

「はい!ボロボロで使えなさそうだったので毎回変えてます! 戦士の皆さんに壊れた防具を渡して戦闘中に壊れでもしたら大変ですから。」




 イヤー! あの盾は、相手の攻撃をガードすることの多いタンクの役割を担うオーク隊のために、特注した少し休めば傷がふさがる自動修復機能のついた盾で1つ40万イェニもするんだぞ!それを毎回変えていたのか。

 はぁー……。

 シャナークは、あまりのショックで膝から崩れ落ちた。


「シャナーク様!大丈夫ですか?」

「すまない。少し困惑しただけだ。」


 シャナークは、何とか冷静を取り戻し立ち上がった。

 しかし彼には、納得できないことがあった。

 高価な武具や防具には説明書が付いていてそれを読めばこんなことになってないはずなんだが…。

 ………まさかな。彼の脳裏に一抹の不安がよぎった。


「君ここに何が書いてあるか分かるか?」


「すみません。私、字 読めないんですよ。」


 やっぱりか。もしかしてとは思ったが不安が的中してしまった。ゴブリンほどではないがコボルトも知能が低いからな。字が読めなかったのも無理はない。

 一体コボルトをこんなところに配置したバカは誰なんだ。まったく。

 魔王様に頼んで早急に知能指数が高めの魔物を配置してもらおう。そうすれば、これ以上の無駄な出費を抑えてくれるだろう。 




 魔石代400万イェニかかったが、トータルで、2800万イェニほど浮いた。いや、武器と盾を毎回変えていたことを踏まえれば、それ以上の経費削減だろう。

 シャナークの顔に思わず笑みが零れた。



 だが、まだ足りない。

 やはり、新たな収入源となる国家事業が必要だと確信した彼は、施策段階だったダンジョン計画を早めて実行することにした。

 ダンジョン計画とは、国で作った人口ダンジョンに来る冒険者に入場料を取ることで収益を得る冒険者向けの事業である。

 だが、この事業を行うためには関係各所に連絡を入れ最終調整をしなければならない。


 シャナークは、まず魔法課に向かった。

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