第5話 コスプレしてくれるネコットさん

――――日曜。


「ご主人さま……お掃除していたら、こんな服が出てきたのですがこちらはまだお召しになられますか? お召しになられるには少々サイズが小さいように感じますが……」


 慌てる主人公だったが、見つかってしまった以上腹を括って、ネコットに正直に訳を話す。


「えっ!? 以前にパワハラ上司の方から宴会芸で着ることを強要されたものだったんですか。それは大変だったんじゃないですか? どう見ても男性が着るような衣装には思えませんし……」


「そうなんですか、結局サイズが合わずに着れなくて全裸でおぼん芸をさせられた、と……。そんな酷い……。なぜこんなにも私に優しくしてくださるご主人さまばかりお辛い目に遭ってしまうなんて……なにか私に癒やして差し上げる方法はありませんか?」


 主人公は口籠もり、ネコットとバニースーツを交互に視線を送りながら、もじもじと人差し指を擦る。ネコットは主人公の願望を察し、バニースーツを広げる。


「もしかして、私にこの衣装を着て欲しいんでしょうか?」


 主人公がネコットの顔色を窺いながら、頷く。


「このカチューチャはうさぎの耳のような物がついておりますが……。はい、こちらはつけない方がいいんですね。私の猫耳の方がかわいいから?」


 主人公に頼まれ着替えに行ったネコットの声がする。


『ひゃんっ! こ、この衣装、おしりが丸見えになっちゃいます。お、おっぱいも見えそうなって……こ、こんなのご主人さまは着させられようとしてたなんて……』



 着替え終えたネコットは分かるメイドになっていた。


「分かりますよ! この衣装は紳士の皆さまが憩いを求めて集う〝バニーガールズパーラー〟ですね! なぜ私が知っているか、ですか? はい、寝言で一度でいいから〝バニーガールズパーラー〟みたいな女たちにお酌してもらいたいって。でも私に頼むのは申し訳なくて気が引けるとも……」


 主人公はネコットの気づかいに涙する。


「シュワシュワする飲み物をお注ぎすれば良いのですか。あれ? いつもご主人さまにしていることのように思うのですが。えっと、ソファーに二人で並んで……衣装も違うし、明かりも少し暗くしてる。なるほどそう言われてみればそうですね」


 そういうお店の真似事を始める。


「えっと確か……ご主人さまを跨ぐようにしてボトルを取ればいいんですよね?」


 サイダーの入ったボトルを取ろうとしたネコットがバランスを崩す。


「にゃっ!? ご、ごめんなさいにゃっ! 姿勢を立て直しますから」


 ネコットは腕立て伏せの姿勢で耐えようとするが主人公の吐息が掛かり……。


「ふにぁぁっ! そんな息、吹きかけちゃだ、だめぇ……」


 力の抜けたネコットは主人公に抱きついてしまう。


♪ ふにっふにっ。

(ネコットの胸元が主人公の顔に当たる)


「ご、ごめんなさいぃぃ。ご主人さまのお顔が埋もれちゃいましたぁぁーー!!」


 もにょもにょしたあと、なんとか離れたネコット。


「ええっ!? そうなんですか? 別にご主人さまを無理して跨ごうとしなくても良いのですか……知ったかぶりして、ごめんなさいにゃ」


 不可抗力とはいえ、ネコットの胸元に顔をうずめてしまったことを主人公は謝罪する。


「そんな! ご主人さまはなにも悪くありません。足を滑らしてしまったのは私ですし、ご主人さまは私が怪我しそうになるのを抱えて守ってくれたんです。お互いの無事を祝って乾杯ですか、はい!」


♪ チーン

(グラス同士を合わす音)


♪ ごくごくごく。

(喉を鳴らす音)


「ぷは~、美味しいです、このブドウジュース! シャンパンっていうんですか、はにゃ? なんらかとってもいい気分なんれすが……。どうひちゃったんれしょう、わらひ……酔うような成分はいひゃい入っれないんれすきゃ……?」


 ノンアルシャンパンで酔ってしまったネコットは職務と本能の間で揺れる。


「さ、さかにゃ……ご、ご主人しゃま……このおつまみ、食べていいかにゃ? ううん、ダメダメ! いまはご主人さまを癒やしてあげないと。えっ? いいんでかにゃ? ゲストとクルーが一緒に飲食しながら、楽しくお話して仲良くなることが目的なのですか、なるほど勉強になりまひゅ」


 だいぶ酔いが回ってきたネコットを心配して、彼女を抱え、部屋へ運んでいた。


「ご主人しゃま~、もひかしてわらひ酔っちゃったかも。なんだか今らとご主人さまに気持ちをはっきり伝えられしょうなんれす。わらひ、わらひ、ご主人ひゃまのことが大好きなんれす。らからこれからもご主人さまにお仕えひて、いっぱいいっぱい甘やかしちゃおうと思うんれす……」


 ベッドの上に寝転んだネコットは主人公の寝言を思い出して、実行し始めた。


「ベッドの上で寝ころんで、『にゃんにゃんにゃ~ん』と言うだけでいいんですか? そんなのお安いご用ですよ。普段のエプロンドレスもいいけど、バニースーツもかわいいですか……ふにゃっ!? そんな~、そんな~、私なんてお胸もちっさいし……ぷにぷにだし……ご主人さまに素肌をお見せしていいのか……」


 ベッドの縁でネコットの様子を見守る主人公は昨晩のことを訊ねる。


「寝床に勝手に入ったのは、あのその……寒かったから……。気温は25度もあった? 私は……寒かったです。心が……」


 主人公はネコットの手を握り伝える。


「今日だけ、私はご主人さまの彼女ですか? 嘘でもうれしいです。ご主人さま……本当はお酒が飲みたかったんじゃ……。私に遠慮して、お酒を飲むのを控えてくれてたんですよね?」


「私が二十歳を迎えたら、一緒に誕生日を祝いながら祝杯を上げよう、ですか……。じゃあ、それまでご主人さまに愛想を尽くされないようにしないといけませんね、ふふっ。今日だけと言わず、毎日でもご主人さまの彼女がいいだけどにゃぁ……そんなはことない? なんなら永久指名してもいいくらい?」


 ネコットは恥ずかしくなって布団を被って顔を隠す。


「ななななななな!? も、もう寝ますにゃ……」



――――翌朝。


「ご主人さま、ところでおぼん芸というのは……えっ? 左右に持ったトレーで局部を隠しながら絶対に見えないように頑張る宴会芸……ですか。私も挑戦した方が……えっ、絶対にやってはダメ? は、はい、分かりました……」

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【ASMR】迷い猫耳メイドを拾ったら、大の世話焼きさんでした 東夷 @touikai

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