第4話 戻りたくありません、ご主人さまと一緒にいたいです!

 主人公が家に戻ると珍しくネコットの出迎えがなかった。買い物に出掛けているのかと思ったが、玄関にローファーがある。


 主人公がネコットの部屋の前まで来たら……。


『そんな! 私を追放しておいて、急に戻れなんて勝手過ぎます! ぜ~ったいに戻ったりなんかしませんから。みんな心配している? それはそうですが……私を捨てたのはみんなです。そんなみんなから捨てられて路頭に迷っていたとき、私を拾ってくれたのはご主人さまなんです。ご主人さまにご恩返しをせずに戻るなんて、猫耳族として……いいえ、ネコット・マカロンとして恩知らずにはなりたく在りません!』


『落ち着いて聞いて、ですか? えっ、追放なんてしていない? 見習いから正規のメイドになるための追試だった? そんなことは一言も……ちゃんとログが残ってる? あ……ありました……』


『私が転移魔法陣のスペルミスをしてしまって、どこに飛んでしまったか、調べるのに時間が掛かり連絡するのが遅れてしまったと……。見ず知らずの土地で雇い主をこれほどまでに満足させたメイドはいままでいないから、見習いから正式なメイドに昇格? お給金も高くなる? 私は……それよりもご主人さまに満足していただきたいんです! 失礼しますっ!』


 会話が終わりドアの外へ、気落ちしたネコットが出る。ドアの前にいた主人公と鉢合わせに。


「ご、ご主人さまっ!? 申し訳ありません、帰宅されたというのにお出迎えもせずに……。今からすぐ支度致しますので……」


 ネコットがリビングへ向かおうとするが主人公が手を掴んで呼び止めた。


「『それよりも大事な話がある』……ですか? もしかして、私の話声が外にまで聞こえてしまっていたとか?」


 主人公は頷き、立ち聞きしたこと、手を掴んだことを詫びる。


「そんな謝らないでください。あまりのことに語気を強めてしまって、うるさくしてしまったのは私なんですから」


「『戻っちゃうってホント?』……ですか? 戻りたくなんてありません! 私はずっとご主人さまのお側にお仕えしたいんです……だから……。えっ!? ご主人さまも私と一緒にいたいんですか?」




「『上司の人と話すことはできるか?』ですか? は、はい……たぶんできると思います。ペンダントに向かって話しかけてみてください。文字が浮かんできますから」


 落ちこぼれ気味だったネコットが主人公の下でメイド見習いの試験にパスしたなら、 主人公がネコットと一緒に学び、もっと優秀なメイドになってもらってから戻ってもらうとの約束を取り付ける。


「なんで私のためにそこまでしてくださるんですか……路頭に迷い、困っていた私を拾ってくださったときもそうです。赤の他人の私にこんなに優しくしてくださるなんて……」


「放っておけない? でもでも他の人たちは私から目を逸らしていたんです。それなのにご主人さまは……」


 主人公はネコットにプロポーズみたいなことを言う。


「私がかわいいから? 一目見たときから、目が離せなくなった? 私がご主人さまの描く理想像!? 最高のメイド? 絶対に手放したくなかったから……?」


「ふにゃぁぁぁぁーーーーーーっ!」


♪ ボンッ!

(ネコットは顔を真っ赤にして、湯気が出る)


「まだご主人さまにご恩返しができてません!


「『ツ、ツインテールのネコットさんを見てみたい』ですって!? はわわ……今度やってみますにゃ……笑わない約束ですよ」



――――週末の夜。


 ネコットは主人公が寝静まったのを見計らい、部屋へとこっそり忍び込む。


 スーッ、スーッと主人公の静かな寝息を聴きながら、囁き声で問い掛ける。


「ご主人さまぁ~、もう寝ちゃいましたかぁ? うふっ、ご主人さまの寝顔はやっぱりかわいい男の子みたいです。私は今日ほど猫耳族であることを感謝したとこはありません。だってご主人さまに覚られることなく、こんな暗がりでもご主人さまのお側に来れるのですから」


「ご存じですか? メイドのお仕事としてはご主人さまをいっぱい甘やかしたいんです。でも猫はご主人さまにいっぱい甘えたいんです。だから今日だけ……ご主人さまに添い寝することをお許しください……」


「はあ~っ、ご主人さまに触れると暖か~い。大きなお背中に顔つけるともう顔が離せなくなっちゃいます。ああ……このごつごつとした逞しい身体つき……触れているだけで安らぎを覚えちゃいます。それにルッコラさんに私を返したくないって仰ってくださったこと、あんなにうれしい言葉を聞いたのは人生で初めてでした。だからまたご主人さまにご恩返しすることが増えちゃいました、えへへ」


「もうちょっと……もうちょっと……。今日は冷えますからご主人さまにぴったりくっついていたいです。まるでご主人さまの優しさが温かさになって、私に伝わってくるようです」


 こっそり添い寝しているとうとうとしてきて、いっしょに眠ってしまい、ご主人さまに起こされてしまう。


「『おはよう?』なんでご主人さまがベッドに……ふにゃぁっ!? い、いますぐ支度しますから! えっ? 今日は日曜???」


 ネコットは慌てるが主人公はお休みだった。

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