第3話 膝枕でうたたね

――――湯上がり。


 ネコットが主人公を上目遣いで見つめ、訊ねてくる。


「ご、ご主人さま……あの……その……お願いがあるんですが……」


 人差し指同士をこすり合わせて、もじもじ。


「いえ、なにか欲しい物とかじゃないんです。お稽古にお付き合いして欲しいなって……」


 主人公から了解を得られたことで途端に明るくなる。


「『大歓迎』ですか!? ありがとうございますにゃ!」


 ネコットはふわふわカーペットの敷かれた床に正座した。


「ご主人さま、どうぞ横になってくださいにゃ。はにゃ!? そんな離れていては耳掃除できないですぅ。ご遠慮なんてなさらずにちゃんと私の膝の上に頭を乗せてください」


 主人公がネコットの膝に頭を乗せる。


「そんにゃ、最高だなんて……私の膝枕がとんな枕よりもいいとか、ご主人さまはお世辞が上手いにゃ。会社の女の子にもお世辞を言って、ご主人さまはモテてるにゃ」


 主人公はネコットの膝の上で頭を振った。


「えっ、ぜんぜんモテない? みんなご主人さまを見る目がないにゃ……こんなに優しくて、頑張り屋さんで私のことを大切にしてくれるご主人さまなのに。他の女の子にご主人さまの魅力が知られないよう今の内に……ううん……それは……やっぱりダメ」


 独り言ちりながら、主人公の頭を独り占めするようにネコットは抱きしめた。


「『なにか言った?』ですか? いえいえ、ただの独り言ですから。私はご主人さまの魅力的なところ、たーくさん知ってるんですよ。収納のときに私の身長が足りなくて困っていると、代わりに仕舞ってくださったり、上手くできると頭を撫でてくださったり。それにお仕事を頑張っているといつもありがとうって声をかけてくださるから……そんなご主人さまにまた誉めて、頭を撫でてもらいたいから、もっと一生懸命、ご主人さまにご満足いただけるよう頑張りたいと思うんです」


 主人公がネコットのかわいさと頑張りを誉めるとネコットは赤面する。


「はわわ……『かわいいネコットさんが一生懸命頑張ってくれている姿を見るだけで満足してる』だなんて……。ご、ご主人さまは私のどこがかわいいと思われるんですか……?」


「とてもかわいいのに控え目で奥ゆかしいところ?黒い毛並みなんてツヤツヤで光が当たると黒水晶モリオンみたいに輝いてる? 蒼い瞳なんて神秘的で見てるだけでどんどん魅かれてしまう? やっぱりピンと立っている三角の猫耳とふわふわもふもふした貴婦人の佇まいのあるしっぽがご主人さまのお気に入りなんですね。わ、私……そんなにいっぱい誉められたことなんてなくて……う、うれしいです。これからもずーっとご主人さまにご奉仕しますにゃ!」


 ネコットはグッと拳を握る。


「えっ、私にいっぱい甘やかされたい? はい! ご主人さまをいーっぱい甘やかしてみせますにゃ!!!」


 耳掻きを手にしたネコット。


「どうして、耳掃除のお稽古なんかを、ですか? はい、私たち猫耳族の耳は人間とは違うので、自分の耳をお掃除しても練習にならないんです。だからご主人さまのお耳を拝借しないことには……」


「お稽古という割には凄く上手い? そう仰ってもらえるならうれしいにゃ! あっ、奥にあった垢がきれいに取れました! へえ、痒いところに手が届くって言うんですね。ご主人さまの耳はつるつるお肌ですね。私の耳はほら、毛むくじゃらです。ふにゃ!? それがいいんだって、ですか? そんな風に仰ってくれるのはご主人さま、だけです……ふ、ふにゃぁぁ……」


 ネコットが赤面していると……。


「ご、ご主人さま……寝ちゃったんですね」


 ここから囁き声で。


「痛かったらどうしようと思ってたんです、でも気持ちよくて眠ってもらえたらならうれしいです。ずっとご主人さまと一緒に過ごせたら、って思うようになってしまったんです。ただの拾われメイドなのに欲張りですよね。いつもご主人さまにありがとうって、声をかけてもらえるだけで心のなかがあったかく……ううん、熱くなっちゃうんです。私……変なのかな? しばらくご主人さまが起きずに私の膝の上で休んでくれますように……」


 起きた主人公。


「『ごめんなさい』だなんて! そんな気にしないでください。お仕事でお疲れなのに私のお稽古にわざわざ付き合ってくださったんですから。わ、私の膝枕が最高なんですか? 毎日してもらいたいくらい? は、はい! ご主人さまさえよろしければ、毎日ご奉仕いたしますね!」

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