合コンゾンビ

一郎丸ゆう子

第1話

「えっ、ゾンビいるんだけど。誰か誘った?」


 全員が首を振る。


 サチコ。バツイチ、51歳。


 やたらと地獄耳で、なぜか誰も誘ってないのにいつも合コンの席にいるのでビと呼ばれている。


 いつも背負っている、いつぞやハワイで買ったらしいシャネルのリュックは、社内でと呼ばれている。


 誰も聞いてないのに、アッシーが何人いたとか、毎夜繁華街にでかけては、ただで高級メシを食べていた話を武勇伝のように語ってくる。


 これを女子社員たちは、『高級乞◯伝説』と言っている。


 その元アッシーや元メッシーたちも、ほぼ結婚して幸せな家庭を築いていて、サチコのことなどとっくに忘れているという現実にはまったく気づいていないらしい。


 まあ、確かに顔立ちは整っている。昔はもてたんだろうね。


 で、若く見えるから、まだ20 代30代の男子を食えると本気で思っている。


 それも、本気で恋愛したいっていうならまだかわいいのに、昔のように男を手のひらで転がせると思っているから相当痛い。


 また、厄介なのが、自分が若い女子社員たちの憧れの存在だと本気で勘違いしているところ。


 私達が本当に憧れてるのは、もうひとりの先輩淑子さんで、服装も顔立ちも地味で目立たないけど、粛粛と仕事をこなし、ミスも少なく、自然体。なんとなくいるとほっとする。


 サチコが一度も結婚したことがない淑子さんのことを


「そんなんじゃ一生男つかないわよ」


 って馬鹿にするので、私が反論しようとした時、


「ふふふ、サチコはいつも綺麗だもんね」


 と笑っていた。



 ある日、姉が女医だという新人ちゃんがお医者さんとの合コンをセッティングしてくれた。


 その日もなぜか誘ってないのに行く気まんまんなサチコ。さすがに断ろうと思ったら、なぜかサチコが淑子さんを誘っている。


 自分の引き立て役にしようっていう態度があからさまで、私は、もうこうなったら絶対サチコをギャフンと言わせてやりたいって思ってきちゃって、作戦を立てたんだ。


 新人ちゃんには悪いけど、お姉さんにバツイチとかで年配のお医者さんがいないか聞いてもらうと、なんと運よくひとりいるっていうから呼んでもらって、淑子さんとくっつけよう! もうそうなると、淑子さんが可愛そうとかじゃなくて、サチコのくやしがる顔を堪能してやろう! っていう邪な気持ちがふつふつと湧いてきて、なんか一人で興奮してた。


 合コンに行く前に、まったく役に立たない古臭い男にモテるテクニックを私達に伝授してくるサチコ。


 いや、それがうまくいかなかったからバツイチなんじゃないの? という心の声を作り笑顔で必死に隠し、店に着いた。



 私は無理やり淑子さんと年配の医者をしっかり隣の席に付け、今日は自分のことはそこそこにして淑子さんの応援にまわることにした。


 そしたら、サチコも反対側のとなりにしっかり座ってきたから、私はサチコの前に座って、どうやって邪魔してやろうかって、なんかワクワクしてた。


 サチコの反対隣には若い研修医が座ってたけど、研修医はサチコにウザい説法みたいなのを聞かされて辟易したのかいつの間にか席を移っていた。


 やたらとふたりの会話に割って入ろうとするサチコをなんとか封鎖するために無理やりサチコに話しかけたり、わざとサチコのほうにハイボールをこぼしたりしている私をサチコがおもいっきり睨んでくるけど、その般若のような顔がなんだかみじめったらしくみえてきて、小気味よくなってしまう私。


 サチコが濡れたシャネルのリュックをおしぼりでバカ丁寧に拭いたあと、御手洗いに向かったので、淑子さんと医者をふたりにしようとしたら、なぜか淑子さんも御手洗いに行ってしまい、私は医者に逃げられないように必死に機嫌をとった。


 でも、ふたりとも帰ってこない。


 みんなに聞いても知らないって言う。


「僕、嫌われちゃったんですかね」


 笑いながら医者がそう言うので


「そんなことないですよ。お酒強くないから酔っちゃったんだと思います」


「そうですか。でも、おかげで久しぶりに女性と話せてうれしかったです」


 30過ぎて、若いと言われることがなくなってたので、医者にそう言われて、ちょっと紅潮しちゃった。


 結局、そのまま2人は帰ってこず、なんか申し訳なくて医者をお茶に誘ったら、ご馳走してもらった上に、代行車を呼んでくれて、医者が乗って来ていたベンツで家まで送ってもらうといううれしいおまけつきだった。


 翌日出勤すると、サチコが昨日の合コンの愚痴を言いまくってる。


「あっ、先に帰っちゃってごめんなさいね。ちょっと飲みすぎちゃって」


 と小さく舌をだす淑子さん。


「まあ、あんまりいる価値なかったもんね」


 と、嫌味を言ってくるサチコに


「いや、価値ないのはあんただあ」


 と心の中で叫びつつ


 医者の連絡先聞いといたから後で淑子さんに渡そうと思っていんだけど、なんだかんだで忘れていた1週間後、私は見てしまった。


 淑子さんと途中で席を移動した研修医が会社近くのホテルに手をつないで入っていくのを!


(えっ、えっ、えええええええ! ど、どういこと?)


 何も聞けないまま数カ月経ち、淑子さんが研修医との結婚を発表した。


 研修医というからすごく若いと思っていたら、違う大学を卒業してから医大に入り直して、留学もしていたからそこそこの年齢だったそうだ。それでも淑子さんよりだいぶ若い。


 そして、淑子さんは結婚と同時に退職していった。


 後で聞いたけど、実は淑子さんはハブルのとき株で儲けて、マンションを一棟所有していて、旦那様の親族からバブルの遺産レガシーと崇められているらしい。


 その後私は異動になり、サチコとは別の部署になったけど、彼女は相変わらず若い子の合コンに割り込んで嫌がられているらそうだ。


 そして、私は、あのベンツで送ってもらった医者と来月結婚しまあす👰💒


 🥰🥰🥰🥰🥰🥰





























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合コンゾンビ 一郎丸ゆう子 @imanemui

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