侍女语嫣

 侍女语嫣ユィエンの朝は早い。

 他の侍女がまだ深い眠りにいる時、语嫣ユィエンは暗闇に包まれた天宮で静かに目を覚ます。日の光が差し込む前の、まだ冷え込む空気の中、そっと起き上がり、誰にも気付かれないように慎重に動く。足音を立てぬよう注意しながら、自分の寝具を整え、身だしなみを整えた语嫣ユィエンは、手に取った祈祷用の小さな香炉を持ち、静かに天帝の御前に向かう。


 祈りの場は、天帝が住まう宮殿の中でも特に神聖な場所に設けられていた。语嫣ユィエンは、その場所へと足を運び、天帝を象った像の前に静かに跪く。香炉に火を入れ、白い煙が細く天へと昇っていくのを見つめながら、天帝、运月ジュンユエの無事と安寧を心から願う。语嫣ユィエンの祈りは、日々変わる事なく、純粋な忠誠と崇拝に満ちている。天帝の健康と繁栄を祈るその姿は、誰もが認めるほどに一途であり、他の侍官や侍女とは違う決意があった。


 祈りを終えた後、语嫣ユィエンは天帝の身の回りを整えるために働き始める。まずは、天帝が目覚める前に御前を掃き清め、朝の儀式の準備を整える。语嫣ユィエンの手は動きを止める事なく、次々と雑事を片付けていく。


 朝の儀式が始まる頃、他の侍女がようやく目を覚まし、语嫣ユィエンに合流する。天帝の儀式自体に参加する事を認められていない语嫣ユィエンは、遅れて来た彼女達に準備が整った全てを明け渡す。儀式準備は本来ならば彼女達の仕事だ。朝の儀式が行われている間、语嫣ユィエンは既に他の雑務を片付けており、天帝がいつでも穏やかに一日を始められるよう、細心の注意を払って仕事していた。


 朝食の時間が終わると、语嫣ユィエンは次の仕事に取り掛かる。庭の手入れから始まり、天帝の衣装の整理、祭具の点検と、やるべき事は山のようにある。侍女や侍官が交代で休憩を取る中、语嫣ユィエンはその休み時間さえも惜しむかのように、天帝のために奉仕を続ける。


 昼過ぎには、侍女の間で共同作業が始まる。宮殿内の清掃や洗濯を手分けして行うが、语嫣はいつも率先して汚れた場所に赴き、最も骨の折れる作業を黙々とこなす。他の侍女は语嫣ユィエンの様子を見て、「穢らしい」と嘲笑するが、语嫣ユィエンは全く意に介さない。语嫣ユィエンにとって最も大切なのは、天帝のために尽くす事だけであり、自分が何を言われても、どんなに疲れても、その思いだけが语嫣ユィエンを動かしていた。


 夕方になると、语嫣ユィエンの疲れは頂点に達するが、夜の祈祷の準備に取り掛かる。再び香炉を手に取り、今度は一日の終わりに天帝の無事を祈る。日の光が消え、夜の帳が下りる中、语嫣ユィエンは心を込めた祈りを捧げる。


 その後も、语嫣ユィエンの仕事は続く。他の侍女の寝所の準備、明日の儀式の確認、そして侍女の仕事の見直しなど、夜遅くまで彼女は休む事なく動き続ける。時には足元がふらつき、疲労が全身に重くのしかかることもあるが、彼女は決して手を止めない。


 深夜、ようやく自分の寝具に戻る頃には、すでに次の日の朝が近づいている。それでも语嫣ユィエンは、眠りに落ちる前に必ず天帝の無事を願い、再び目覚めた時にはまた天帝に尽くすために、一日を始める決意を固めるのだった。语嫣ユィエンの過酷な労働と、天帝への揺るぎない忠誠心は、夜が明けると共に再び始まり、決して途切れる事はなかった。


 ところで、そんな働き者の语嫣ユィエンが「仕事ができない無能だ」と侮られている理由は、法力が使えないために目をつけられやすいからという事もあるが、语嫣ユィエンの能力不足ではなく、周囲の侍官や侍女が语嫣ユィエンに過剰な仕事を押し付けているからだ。语嫣ユィエンに割り当てられる任務は、通常の侍女がこなす量を遥かに超えており、どれだけ頑張っても到底終わらせる事ができないものばかりだ。


 例えば、他の侍女が一つの掃除箇所を任されるだけのところ、语嫣ユィエンには宮殿内の複数の部屋を清掃する責任が課せられる。それぞれは恐ろしく離れており、法力で速く移動できない语嫣ユィエンには厳しかった。しかも、どの部屋も天帝がよく利用する重要な場所であるため、些細なミスも許されない。さらに、庭の手入れや祭具の準備、天帝の衣装の整理といった複数の任務が同時進行で要求される事もあり、一日を終える頃には、体力も気力も尽き果てている。


 侍官や侍女は、わざと语嫣ユィエンに多くの仕事を振り分け、その結果として彼女が一つでもミスをすれば、「やはり無能だ」と嘲笑う。しかし、语嫣ユィエンは決して文句を言わず、天帝のために全力を尽くして働き続ける。仕事ができない理由は、質ではなく、量に対する限界だ。それでも语嫣ユィエンは、一つ一つの仕事に対して真摯に向き合い、丁寧に仕上げようと努力を惜しまない。


 このような苛酷な状況下でも、语嫣ユィエンは天帝への忠誠を揺るがす事なく、仕事に向かう。语嫣ユィエンが身の程知らずにも天帝に恋煩いしているという噂は誰もが知っていたため、天帝と接触する事を徹底的に避けた仕事を与えられる。朝の儀式に参加を認められていないのはそのためだ。语嫣ユィエンは天帝への忠誠心と激務に挟まれ、それに気付く余裕すらなかった。


 语嫣ユィエンの異常な忠誠心は、いつかは天帝と結ばれると信じている语嫣ユィエンの愚かな望みがおこしたものだった。

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身の程知らずの恋心で千年封印された話 公开 @gong1kai1

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