クーラーボックス
ある老人が健康のために朝と夕方に河川敷の散歩を始めた。そうした中で、毎回河川敷でクーラーボックスに座って釣りをしている青年を見かけるようになり、挨拶をしあう仲となった。
そんな日常が続いていく中で老人には一つの疑問をもった。それは毎日会う青年が、一体何の魚を釣っているのかというものだった。
朝方、注意深く河川敷の傍を流れる川を覗いてみると、茶色く濁っていて、表面からは水中の様子をうかがうことはできなかった。そうして歩いていると、やはり今日も同じ青年が釣りをしていた。
「おはようございます」と老人が言うと、「あぁ、おはようございます」と青年が返した。
老人は思い切って何の魚を釣っているのかを尋ねてみることにした。
「お尋ねしたいんですけど、一体何の魚が釣れるんですか?」と老人が尋ねると、青年は少し下を俯いて、「いやぁ、見ない方がいいですよ」と言った。
「どうしても見たいんです、どうか見せてはいただけないでしょうか?」と老人が言うと、青年は「まぁ、別に構わないんですけど、後悔しないでくださいね」と言って立ち上がってクーラーボックスのふたに手を掛けた。
老人が期待交じりにその様子を見ていると、クーラーボックスのふたが開かれた。
中身を見て老人の血の気が引いた。中には鯉のような魚が数匹入っていたんだが、それぞれ顔の部分が、どうみても人間のような顔の人面魚だったのだ。
老人が唖然として立っていると、「ねっ、気持ち悪いでしょ」と青年が言った。
それっきり老人は青年と別れた。思考がグルグルとめぐる中でとぼとぼと歩きながら、瞼の裏に焼き付いたグロテスクな人面魚の姿だけが老人の心に残った。
カイキバナシ よういち @yoichi-41
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