小さい君 見つけた

こた神さま

第一章 初めまして




とある街に、一軒の大きな屋敷があった。

三年前までは、ここに若い夫婦と小さな子供が住んでいた。


だが、悲しみは突然やってくる。


妻と子供が交通事故で亡くなったのだ。

一人になった、この家の主の名前は、秋彦。

歳は、32歳。


屋敷の庭には、花壇があり、季節ごとに美しい花を咲かせていた。

花を育てるのが趣味の秋彦は、その花達を大切に育てていた。


しかし、その中に、花を咲かさず、ずっと、蕾のままの花があった。


それは、いつの間にか、そこで芽を出し、育っていたのだが、花に詳しい秋彦にさえ、その花が何なのか分からなかった。


ただ、他の花よりも、茎も太く、蕾も大きかったので、花を咲かせるのを楽しみにしていたのだが……。


今日も、庭の花達に、水を与えながら、秋彦は、蕾の前に腰を下ろした。


真っ白な大きな蕾。

咲いたら、さぞかし美しいだろう。


「君は、全く咲かないね。病気かい?」


心配そうに、蕾を手の平に乗せ、秋彦は、蕾をじっと見つめる。


しばらく見つめていると、蕾が大きくブルルと震え、動き出した。


「えっ?咲くのかい?!」


驚いたような嬉しいような表情で、秋彦は、声を上げた。


一枚……また、一枚と花びらが、ゆっくりと開き出す。


「頑張れ……頑張れ……!」


蕾を見つめたまま、そう声を掛ける秋彦。


やがて、花びらが全部開き、白く美しい大輪の花が咲いた。


そして……そして。


その中央に眠る、小さな小さな女の子。


「えっ……?」


一瞬、訳が分からず、秋彦は、自分の目を擦ったり、頬をつねったりした。


「夢じゃ……ない。」


白い花の黄色い花粉の中で眠る女の子は、とても可愛かった。


金色のクルクル巻き毛に、長いまつ毛。

プクッと膨らんだ唇は、まだ幼さを残している。


背中には、小さな小さな白い羽が……。


「可愛い♡」


秋彦は、そっと指で、女の子の背中をチョンチョンと、優しく突っついた。


身体を揺らされ、女の子が目を覚ます。

上体を起こし、両手を上にあげ伸びをすると、ファ〜と、欠伸をする。


「ピピ……。」


なにかを話しているようだが、言葉が分からない。


「初めまして。可愛い妖精さん。僕は、秋彦だよ。君の名前は、なーに?」


秋彦が声を掛けると、少し驚いた顔をしたが、すぐに、にっこりと笑った。


「ピピ。」


「ピピ?そうか、君の名前は、ピピだね。」


優しく微笑む秋彦に、ピピは、嬉しそうに花の上で飛び跳ねる。


「あーき。あーき。」


キャッキャッと声を上げ、はじゃぐピピに、秋彦は、目を細め微笑んだ。


なかなか咲かなかった花は、大輪の美しい花を咲かせ、その中、とてもとても、可愛い女の子が生まれました。




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小さい君 見つけた こた神さま @kotakami

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