第44話 エピローグ
ルイスの 執務室の扉がノックされた。
「陛下。ただいま戻りました」
「ああ。早速で悪いが報告を頼む」
ルイスは相変わらず政務に追われる日々を過ごしていた。
目の前の大量の仕事を払いのけてアルバートに訊ねる。
「ガザ港の人身売買の件ですが、陛下の読み通り役人が一枚かんでいたようです。複数の犯人及び関係者を捕らえ王都に護送中です。こちらがその証拠と聴取で得た証言です」
「相変わらず仕事が早い」
提出された書類に目を通していく。
「それからこちらも。私個人で調べたことですが、陛下の耳にも入れておいた方がよろしいかと……」
「……」
ガザの人身売買は深刻な問題で、そこには闇組織に通じる役員たちの汚職が絡んでいた。だがその件とは別ルートで、外国からの子供の売買だけは国内の有力貴族の関与が疑われるという。
役員たちの汚職に隠れた巧妙な手口。アルバートにいかせなければ見落としていただろう。
やはり黒幕は大物だったかとため息を溢す。
ドゥナベルトの件が解決しても、問題は次から次へとやってくる。
「陛下。それで、ガザの子供たちなのですが、劣悪な環境で暮らしている者が多く、差し出がましいのですが……」
「安心しろアルバート。お前がガザに向かったと聞いてリディが直ぐに動いた。孤児院の創設と支援を大臣たちに要請した。暫くは教会を使わせてもらうが、孤児院は今頃建築に着手しているだろう」
「リ、王妃様がですか?」
頷くルイスに、アルバートは嬉しそうに顔をほころばせた。
この二人が旅の間にガザで悲惨な現実と無力さを経験したというのはリディアナに聞いていた。
アルバートは報告を終え退出しようとしたが、その背を慌てて呼び止めた。
「戻って早々だがリディが別件でお前に手伝ってもらいたい事があるそうだ」
後で顔を出してほしいと伝えると、隠しもせず嫌な顔をした。
「陛下。私、未だに結婚してないんですよ」
「?」
「独り身なんです」
「ああ知っている」
「たった一人の妻をもらえないほど忙しいんです! 周りで未婚は私だけなんです!」
「そ、そうか。それはすまなかった」
「帰って早々父も仕事を回すし日によって陛下付きになったり王妃付きになったりころころ変わってこれでは身が持ちませんよぉ!」
国王、王妃、宰相にいいようにこき使われるアルバートは、自分の婚期が遅れているのは三人のせいだと訴えた。
アルバートは学院に通っていた時には既に前王の諜報員として動いていた。
城下や王城内、地方の役人達と、彼の人脈と能力は国のために重宝された。
ルイスが王位についてからも、側近という表の顔とは別に裏でも勅命で働いてくれている。
もちろんアルバートの幸せを邪魔するつもりはないのだが、アルバートを頼りにしているのは自分だけではないようで、休む暇もない彼が己の幸せを後回しにしているのだとすればさすがのルイスも申し訳なく、同じ男として同情した。
「我々も君が優秀だから仕事を頼みたくなるのだ。申し訳ないな」
明日から暫く休んでくれと労い、あとでリディアナにも言って聞かせると伝えると溜飲を下げた。しかしアルバートはそれでもリディアナの手伝いは受けると言ってくれた。
「それで、王妃様はどちらに?」
「今は王立学院に行っている」
リディアナは将来的に女性も平民も関係なく皆が平等に学べる環境の礎を作りたいと言った。
学長と教育大臣を仲間に引き入れ、共に『教育環境改善百年計画』と銘打って取り組んでいた。
「先日外交から帰ったばかりだというのに精力的ですね」
アルバートは呆れ半分で文句をたれた。
「昔レイニーが王家に入ったらリディアナの羽が折れてしまうとかなんとか詩的な事を言っていましたけど。折れるどころか本数増やして更に頑丈になってると思いますよ」
「ハハハ! 確かに彼女の羽は折れるどころか大きく伸ばして飛び回っているな」
彼女にとって城が、ルイスの側が、窮屈な鳥籠ではなく羽を休める家になってくれたのが嬉しい。
ルイスは窓から空を眺めた。
フェルデリファの空を一羽の鳥が飛んでいた。
鳥は空高く、自由を謳歌し、どこまでもどこまでも羽ばたいていくのだった。
おわり
政務官を目指す侯爵令嬢、登城したら王太子の婚約者になりました 千山芽佳 @meriyuka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます