第4話 女神様?俺は目立ちたくないのですが…
会場に戻って来たら人だかりができていた。
中心にいるのはどうやら、俺達を迎えに来ていた王女様と…お姉さんだろうか?落ち着いた様子で貴族達と話している女性だった。
何を話しているのかと聞いてみれば、やれ「婚約の件は…」とか「来月の祝祭の際には」みたいな政治の事ばかりだった。興味はなかったので途中からは聞き流していたけど…
そうしてると国王様達も戻ってきたらしく、一部の貴族はそちらに流れていっている。
国王様は、それらを軽くあしらい、壇上に上がっていく。そうして
「皆に知らせがある。この度、そこにいる月宮殿より、我が王家が探し求めていた聖遺物の一つ。【月煌の青薔薇】を譲り受けた。」
そう言い放つと同時に、ショーケースに入ったあの青薔薇が運ばれてくる。それを見た貴族達の反応と言ったら…「まことですかな!」なんて叫びながら壇に近づく人や「あれが噂の…この目で拝めるとは…」と感動してる人など、千差万別の反応を見せてくれた。
…だが、その中から突如「しかし何故、異世界の者が持っていたのでしょうな?」なんて聞こえた。
…不味い。いつか言われると思ってたがこんなに早く言われるとは…
貴族連中の視線がこっちに集まる。国王様も
「確かにそれは聴いていなかったな。月宮殿、どこでこちらを入手されたのですかな?」
と、追い討ちをかけてくる。
…っす〜これは言わないと不味いやつですね。
逃げる用意はしつつ覚悟を決め、膝をつき、頭を下げる。
「では、正直に申し上げます。そちらは私のスキルにより作り上げたものにございます。それ以上でもそれ以下でもございません。」
(さぁ…どう出る?逃げるだけならできるぞ…)
そう考えても、周りの貴族も国王様も何も反応しない。流石にショックがでか過ぎたか?
突如、「わーはっはっは!」と豪快な笑い声が聞こえる。頭を上げて確認すると、国王様が高らかに笑っていた。しばらく笑った後、落ち着いた様子でこちらに目線を向け
「いや、済まない。月宮殿にはまだ伝えていなかったと思い出してな。月宮殿、改めて説明するとだな、聖遺物だなんだと言ってはいるが単純に我が祖父が珍しいものを集めるのが趣味でな…ここまで精巧な紛い物ならば問題はないのだよ。」
とショーケースの青薔薇を見ながら説明してくれる
……なるほど、良かった〜バットエンド回避だ。
よく見れば周りの貴族達も「この青薔薇が偽物だと…」とか「…ここまで精巧に作れるのですね。」と語りあっていた。
気づけば国王様が近づいていて
「それにしても先程の状況でその事を話す胆力は目を見張るものがある。…良し!ネルバ!お前に勅命を与える。今後は月宮殿の師なり、貴殿の技、その真髄まで教えよ。良いな?」
と大声でネルバさんに勅命を伝える。
……ネルバさん今、居ないですけど…
すると横に影が落ちてくる。ソレは国王様の前にひざまずき「その命謹んでお受けいたします。」と、答えるネルバさんだった。今どこからでてきた!?
「それにしても先程、あの青い薔薇は、あなたのスキルで作り上げたものだと言っていましたね…あれ一つ作るのに魔力などどれくらい使うのですか?」
いつの間にか背後いた人物から声をかけられる。
その場から飛び退いて、後ろを確認するとそこに居たのは恐らく俺等を迎えに来た王女様のお姉さんの女性だった…
「あら?驚かしてしまい申し訳ありません。
「エイラ…お前はいつまでそんなことをしているのだ…もう少し【巫女】としての自覚を持ちなさい」
なんて説教しているが当の本人は気にもしてないようだが…
「まったく、そんな聞き飽きたお話は後で聞きますわ。それよりも月宮様?本当にあの青い薔薇をあなたが作ったと言うなら今、この場で見せてくださる?それとも何か問題でも?」
なるほど。王女様…エイラさんといったか?は俺が作ったということに疑問を持ったらしい…
まぁあれを来たばかりの異世界人がいくらスキルでとはいえ作ったというのは信じられないか。
「いえ、問題はありませんよ。それで何個ほど作れば信じてくださりますか?」
やはり信じてもらうには、同じものを何個か作らないといけないと思い、どれくらい作れば信じてもらえるかと聞いてみる。
「あら。何個も作れるのですか?そうですね……でしたら今、できるだけお願いします。」
…今なんて言った?できるだけ?できるだけって言ったのか?大丈夫だろうか…まぁやるしかない!
「分かりました。では少々お時間頂きますね。」
会場の中心に移動しながら、『虚構』を待機させる
周りの貴族やクラスメイト達も何か始まるのかと集まってくる。…見世物ではないのだか。
それにしてもできるだけか…どうしよう。
正直『虚構』に制限は無い。つまり幾らでも作れるのだが、作り過ぎても良くないだろう…何か満足してくれる方法は無いだろうか…?
……そうだ!いい案を思いついたぞ!
「申し訳無いですが誰か今、会場に居るのは何名か分かる方はいらっしゃいますか?」
取り敢えず会場に居る人数を確認する。すると
「現在この会場には異世界から来られた皆様42名。王家の皆様4名。貴族の皆様36名。従者56名。の計134名になります」
と執事さんが教えてくれた。
「ありがとうございます。それでは皆様その場から動かないようにお願いします!」
そう声を上げて大まかな位置を確認する。(クラスメイトは除いた)それらを『夢想』でマークしていく。そうして全てのマークが完了したのを確認して『虚構』を発動させる。
せっかくだし少し"演出"するか。
「我が命に従い咲け。青薔薇」
『虚構』による生成完了と同時に即興のセリフを叫ぶ。…少し恥ずかしい。
それと同時にマークした地点の空中で青薔薇が生成されていく。ついでに青薔薇の花弁の花吹雪も追加してみる。しかし92個同時に咲く青薔薇は正に圧巻の一言だった。…少しやり過ぎたかも?
「如何でしょうか?エイラ王女。これで信じていただけましたか?」
そう言いながら王女様の方を向く。どうやらまだ感動してるのか、空中に浮く青薔薇たちを見ながら目を見開き、静止していた。
「へぇ?…はっ!え、えぇ。あなたがあの青薔薇を作ったというのはこれを見れば誰でも納得いくと思います。私の我儘に付き合ってもらい申し訳ありません。」
そうして頭を下げて謝ってくれた。
「ちょっと!?頭を上げてください。そこまでしていただく必要はありません!信じれないのは理解できますから。ね?お願いですから頭を上げてください!」
そうして説得するのは少し掛かった。
どうやら周りの皆様も現実に戻ってきたらしく。「まさかこれほどとは…」とか、「しかし、近くで見れば見るほどとてつもない精巧さですね…」とか「先程の光景を観れたのは光栄ですね…」など、各々の感想を言い合っているようだ。
「…これは素晴らしいですね!月宮殿、どうでしょうか?王家お抱えの術者にでもなりませんか!?私の権力を使ってでも特別待遇をお約束いたしますよ?」と興奮気味に王妃様(本物)が提案してくる
本物はこんな無邪気な人なのか…意外だった。
にしてもあの目は不味い。明らかに本気の目だ。
お抱えの立場もありがたいが、折角の異世界…楽しみたいのだが…断れる気がしない。
「やはりお前もそう思うか!今のを見せられてしまってはな…。どうだろう月宮殿。王家お抱えとも成れば結構な生活が送れると思うが…」
国王様からも懇願される…不味い逃げ場がなくなっていく…かと言って無理に断って一人になっても、どっかの貴族に誘拐されるかもしれないし、それこそ、王家の二人が本気で囲めば王国から俺は出れなくなるだろう…
どうしようかと悩んでいると、「悪いねレオニス。それにマリーゼ。彼は私の弟子だからね。そう簡単には渡せないよ。」
と言う声がエイラさんの方から聞こえてくる。だがこの声はさっきまでのエイラさんとは違う。
でも俺は知っている。それこそ嫌になるほど聞いたから。
そう。その正体こそ
「「「め…女神様!?」」」
俺等を転生させた張本人にして俺に【権能】を教えてくれた師匠。女神様だった。
「まったく、マリーゼ。君の欲しいものは全力で手に入れようとする性格は変わらずだね。」
「それにレオニス。君もだ。マリーゼが可愛いのはわかるが、こういった暴走は君が止めなきや駄目だろう…」
なんて説教しているがどうしてエイラさんの体から声が聞こえてくるのだろうか?
「そういえば女神様?どうしてエイラ様の体に?」
慎重に近づいて聞いてみる。そしたら
「ん?あぁ…月宮イツキ。それはね、彼女が当代の依代…【巫女】だからよ。」
と当たり前を説明するみたいな顔で教えてくれる。
成る程。確かに国王様も、エイラさんに【巫女】がどうこうと言っていた気がする。
「それにしても、月宮殿が貴女様の弟子とは?どういったことなのでしょうか?」
一旦、こちらに話が逸れた為か国王様と王妃様は復帰して、質問すらしてくる。
「どうしたもこうしたも、ただ、私が手ほどきしたり技を教えて鍛えただけだ。だから弟子だ。そうでしょう?」
少し呆れた様子で説明した後、俺の方を見ながら確認を取ってくる。だがその目には(肯定しろ。)という強い意志が感じられる。
否定したら取り返しがつかない気がして思わず
「そうですね。色々と教えていただき感謝してますよ。本当に。」なんて強めに肯定してしまう。
周りの貴族やクラスメイト達はただ、聞いているだけだ。
「…成る程。では、その技とやら、見せてもらいましょうか。貴女様直々に教えたのならば並の兵士では相手にもならないのでしょう?」
なんて王妃様が挑発してくる。お止め下さい。
それを聞いた女神様も
「ほぅ…言うようになったなマリーゼ。良いだろう見せる程度で彼を諦めてくれるならね。」
とやる気で答えている。そんな挑発に乗らないでください。だが、そこに俺の意思は要らない様だ…
「ユーリ!貴方の出番ですよ。近衛騎士序列第3位の力、今こそ女神様に示すときですよ。」
と王妃様がユーリさんを呼び出していた。
直ぐに軽鎧を身にまとった青年が駆け寄ってくる。
「ユーリ・アタラクト只今参りました。我が力、王家を守る近衛騎士として女神様に証明して参ります。」とやる気十分な様だ。
……別に証明なんてしなくても良いんじゃないですかね?
「月宮イツキ。あなたもなにを呆けているの?早く君も用意しなさい。彼、ユーリと言ったわね。あノ子4本はたえるわよ。良いわね?」とユーリさんを睨みながら、アドバイスをくれる。何故そこまでやる気なのですか?
それにしても、4本は耐えるのか。ユーリさんだいぶイカれてるな…まぁ今回は3本で良いかな?なんて考えていると
「流石にここでは不味いな。闘技場に飛ぶぞ。」
と女神様の足元に魔法陣が現れる。
フッと光って気づけば、教科書で見たことのある【コロッセオ】にいた。
どうやらあの会場にいた全員がこの闘技場に飛ばされた様だ。手にはいつの間にか、剣が持たされている。
「これなら互いに全力を出せるでしょう?」
…意気揚々と言ってますけど俺は本気出せないですからね?わかってます?
「さて、月宮殿。始める前に一つだけ…私に手加減は不要です。お願いします。」
なんて言いながらユーリさんも剣を抜いている。
…なんでユーリさんもそんなにやる気なんですか?
周りの貴族やクラスメイトも「早く見せてくれ!」
とか「月宮〜さっさと始めろ〜!」
なんて言いたい放題だ…。
…諦めてなるべく素早く終わらせるか?
そう考えていると
「やっほ〜。月宮イツキ。私の声は聞こえているかしら?」と脳内で女神様の声が響く。
思わず、女神様の方を向くと人差し指を口元で立てていた。(…黙っていろって事ですか?)
「そうよ。この声は君にしか聞こえていないのだから。気を付けてちょうだい。」
(…なるほど。念話ってやつですか。それで?何か伝えたい事でも?)
「そう。今のあなたにアドバイスを一つ。負ける事はないと思うけど、ここで手加減して勝つと面倒くさい事になるわよ。最低でも彼…ユーリとか言う奴には手加減してなかったと思われなきゃ駄目。分かった?」
…そんな聞きたくもない
(つまりは殺すのはアウト。でも手加減しすぎてもアウト。中々に面倒くさい
「どうしようかもなにも簡単よ?さっきも言った通り4本は耐えるのよ?何回か斬り結んでからぶち当てれば大丈夫よ。」
(なんとも簡単そうに言ってくれますね…女神様。それより、本当に彼あれ4本に耐えるんですか?間違って殺しちゃいました。なんて嫌ですからね?)
「あのねぇ?女神の言葉を信用しなさいよ。彼のスキル。そしてステータスを見て教えてるのよ?」
なるほどね。どうやらユーリさんはあの見た目で、中々の耐久型のようだ。
(分かりました。信じます。上手く行くようにアドバイスはくださいね?)
「ん?あぁ…悪いわね。これは【試練】よ。残念だけどあなた一人で頑張ってね?」
…へっ?今なんて言った?試練?一人で?
(神様?試練ってなんですか?何故、一人で?)
「あぁ…説明してなかったわね。【試練】はその通り越えるべき難題のことね。とある【
……なるほど?なんとも厄介な【権能】だ…なんともはた迷惑な…
(分かりました…できるだけ頑張ります。)
どうしようもない諦めを乗せながらそう神様に伝え、ユーリさんを目に据える
「すいませんユーリさん。お待たせしました。少しばかり集中してました。」
そう言い訳しながら剣を構える。
「いえいえ。問題はありません。では始めましょうか。」
その言葉と同時に溢れ出す魔力。
……正直、今すぐにでも気圧されそうだ…
(大丈夫だ。俺は1対1なら負けない)
そう心に言い聞かせ、落ち着かせる。
「互いに用意は出来たようね。では…」
そう言って空を舞う様に女神様が降りてくる。
「此処には異世界の方も居ますし、改めて神として宣言します。これは月宮イツキ並びにユーリ・アタラクトに課されし【試練】です。故に手出し不能、助言なども不可能な真の決闘である、と。」
そう言って右手を上げる女神様。そうすると観客席と舞台の間に結界らしきものが広がる。
「気にしないで大丈夫よ。これは外部からの干渉を遮断し、内部の色々を数値化して可視化してくれるの。」
そう言って出されたタブレット端末(…に見える何か)を見てみると互いのHPやらが表示されそうな画面が表示されている。
……確かに気づけば外からの声が一切聞こえない。
「始まったらここに貴方達の情報が表示されるのよ。中々便利でしょ?」
……なんてドヤ顔で言われましても…
「それじゃあ互いに全力で頑張りなさい。」
そう言って女神様は外側に立つ。
「開始の合図はして上げるわ。ほら貴方達も線の所で待機なさい。」
そう言われた俺達は線が引かれた所で剣を構える。
「月宮殿。再度言いますが加減は「ユーリさん。」」
「そちらこそぜひ全力で…お願いします。」
ユーリさんの言葉に被せるようにそう挑発する。
「えぇ…そうですね。私も全力で行かせてもらいましょうか!」
そう発言したユーリさんの顔には僅かな笑みがあった。
「それでは、始め!!」
女神様の高らかな宣言のもとに初めての【試練】が始まる。
異世界転生した俺は神様の弟子として世界を生きる 〜嘘と隠し事。偶に狂気と生きていく〜 玖島 二葉 @KurumiHutaba
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