多分、変わらない
多賀 夢(元・みきてぃ)
多分、変わらない
籍を入れた。
お互い知り合ってもう10年弱、付き合いだしてからは7年、一緒に住んでからだと5年半も経っていた。
互いに実の家族と縁がない身の上で、私は一生一人で生きるつもりだった。何の因果か相手がその道程に合流し、勝手に脱線させ始めた。最少は激昂を繰り返していた私だったが、まずは相手の傷ついた子犬のような目にやられ、かと思いきや老成した知性と卓越した展望視の能力に敬服した。快楽は罪と考える私をあらゆる場所に連れまわして、新たな友を大量に作ってくれた。
二人でいたいというよりも、【ここ】にいたいと願い始めた時、私に単身赴任の命が下った。私はその時になって初めて、彼と【ここ】から離れたくないと藻掻いた。
藻掻いた結果が、入籍の決断だった。
ここに帰る場所を作るため。
そして、ここにいるあなたを守り囲うため。
相手の本心は知らない、私の本音は純粋にこれだけだ。
式も挙げない私たちにとって、入籍は正直面倒だけでしかない。特に私はクレジットカードだとか銀行だとか、名字の変更が多すぎて辟易している。休みを5日ももらったが、正直言って手続きで疲労困憊だ。ものごとはシンプルにしておくべきだなと、つくづく思わされる。
ただ、面倒とか思う事に、どこか安堵している私もいる。
私の結婚は2度目である。当時うつ病だった私は、当時の夫に何も相談されずに入籍させられた。一応、互いの両親には挨拶をした。だけど、それが全て『興味のない家族ドラマ』のように他人事だった。
今回は、日取りを決めるのにも喧嘩したし、どっちの姓を名乗るのかでも画数がどうとか議論したし、証人を誰に頼むかもどの段階で誰に発表するのかも話し合った。実は、相当前から話だけはあがっていた。やる気だけはあったのだ。いいきっかけがあったから、お互い勢いがついた。
単身赴任は予想外だったけど、そういう意味じゃ仕事に感謝だ。
もちろん恋愛結婚だから、籍入れたって恋人である。元はゲーム仲間だから、同性の学生ノリなバカも楽しんでやる。お互い我の強い友人だから、喧嘩も結構派手にやる。出会った時から何も変わらない、付き合いだしてから何も変わらない。
変わらないまま、家族になる。
それもまたありじゃないかと私は思う。
ところで。
彼は料理が得意だから、時々作り置きのおかずを持たせてくれる。それがまた美味しいし、時には少々凝っていたりもするのだが、そういうのを見るとなんだか笑える。
本当は女の私がすべきことなのに、男の彼が器用な手先でコツコツ料理をしているのを想像すると、なんんとも愛らしいのだ。
ちょっと重いとも感じるけど、愛されるってのもいいものだ。私は何を返せばいいか分からないが、とりあえず、健康に働いて沢山稼げばいいのかな。それが私らしいか。
多分、変わらない 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki
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