コインスナック354

スロ男

北関東には、まだ意外と残ってるよ!


 いまでこそそこかしこにコンビニがあって、トイレなどもおおむね開放してるものだから、ふらりと気が向いての深夜ドライブなども快適だ。


 だが、僕がまだ子供の頃などは、トイレを借りたければドライブインか、さもなくば立ち小便みたいな、そんな時代もあった。


 道の駅、なんてものも、なかったのだ。


 男は気軽に立ち小便でも良かったが、女性ではそうはいかない。反面、女性に優しい時代になりつつあるが、立ち小便の解放感などというものは許されなくなっている。


 ところでドライブインとは、ようは食堂に公衆トイレがついたようなもので、昔は食堂が閉まるのも早かった。


 北関東通過者には長距離ドライバーも多く、トラックの運ちゃんは高速代を浮かせるために深夜の下道で距離をかせぐなんてこともザラにしていた。


 立ちションも、まあしていただろう。だが、小腹を空かしたり、缶コーヒーと煙草で一服したりしたい時間もある。そういう人のために、コインスナックというものはあった。食堂が閉まった深夜になっても、煌々と輝く不夜の城。


 無人の、終日営業の、ドライブイン——みたいなものだったのだ。


 店内には自動販売機。飲み物の自販機に、煙草の自販機、それからホットサンドやうどん、ラーメンの自販機なんかもある。


 暇つぶし用のゲーム機なども置かれていて、パンティの取れるUFOキャッチャー以前のクレーンゲームや、景品がアダルトビデオだったりするゲーム機もちらほら。


 うどんが美味しいなどと話題になって(正直な話、美味しいうどんが食いたいなら丸亀か花まるにでもいったほうが良い)、人気するコインスナックも現れるような昨今だが、現在では間違いなく数も減ったし、残っているのも、あのなんとも侘しい空間とは違ってきているように感じる。


 コインスナック354は、あの懐かしい、昭和の匂いを未だに保っている、由緒正しいコインスナックだ。


 うどん/そばの自販機には故障中の張り紙があり、煙草の自販機は稼働していない。飲み物の自販機はちゃんと動いているが、缶入りではない、いわゆるカップベンダーのやつには近づかないほうがいい。


 テーブル筐体が結構な数並んでいて、大半は脱衣麻雀だ。新橋にあったような、勝つとシースルーのAVが流れるようなものではなく、古い芸能人を模したような荒いグラフィックの半裸が見れるだけの代物だ。


 自販機の横には古いパチンコ台が三台ならんでいて、大昔の一発台と呼ばれた、懐かしいタイプがあって、それが僕のお気に入りだった。


 深夜二時、誰もいない店内で、思い出したように鳴り響く麻雀筐体の音や、クレーンゲームが喚き出す音などを聞きながら、一発台を打ち始めると、ことのほかパチンコ台というのはうるさいものだと思い知らされる。今時の台の派手なでかい画面と、相応な激しい効果音やアニメチックな曲とかいうのと違って、玉を打ち出す音、ガラス面に当たって弾ける音、役物が動く音などが響く。


 村上春樹の昔の小説で、自分と向き合うピンボールだけがそこにあって、みたいのがあったと記憶しているのだが、そんなかっこいいものではないけれど、おおよそ、そんな感じだ。


 世界に存在するのは自分と、この古めかしい機械だけ。


 BGMなどない古い台を打ちながら、ぼんやりと世界はもう終わってしまっていて、僕だけが気づかないまま、2000点を超えると筐体の下から出てくるAVを楽しみにしてる小僧っ子のようにここでこうしてるんじゃないか、という気がしてくる。


 僕が書く小説の中でなら、きっとここでふらりと少女が現れて、そこで壮大な何かであったり、ラブストーリーであったり、エロ小説であったりが始まるのだろうが。


 現実は、そんなこともなく、ただ無為な時間と、それに安らぎを覚える自分がいるだけだ。


 自販機は24時間動き続け、新たな客が来るのを待っている。


 僕は一体、何を待っているのだろうか?

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