祖母と猫とティータイム
はくすや
みゃあ!
穏やかな
縁側への中戸は開け放たれていた。八畳間で座布団を枕にうたた
スイッチの切られた
彼女は寝返りを打った。
もう一匹の
「ああ、もうこんな時間か」彼女は体を起こした。
「目覚ましも止めたのね」彼女は炬燵の上の黒い猫を
そして
二匹の猫は
「さてと……」彼女は台所に向かった。
猫が
「ごめんね」と言うと二匹の猫は
台所には彼女の祖母がいて、のんびりとお茶を飲んでいた。
「
「もう良い時間よね」雅代は止まっていたオーブンを開けた。
「あら、とても良い匂い」
「完璧ね」雅代は自賛した。
仕掛けていたガトーショコラの甘い匂いが部屋に広がった。
菓子を取り出して
「夕方には食べられるかしら」雅代は言った。
「明日の方がもっと良いわよ」祖母が言った。
昨年の夏、祖父が亡くなり、この家には祖母が独りになっていた。
「じゃあ泊まっていくね」雅代は笑う。
ときどきこうして祖母がいる家を雅代は訪れていた。
一人住まいをしている自分のマンションにはオーブンがない。気まぐれにお菓子を焼こうとしたら祖母のところへ来るしかなかった。
「ちょっと遅れたホワイトデーなの」
「あらホワイトデーなら雅代ちゃんが
「私、バレンタインは貰う方が多いから」と雅代は笑った。
「そうね」
祖母はにこやかに
「お芝居は続けるの?」
「うん、そういうのができるところに就職したから」
大学を卒業し四月からは社会人だ。劇団では何の
「お給料が入ったら何かご
「楽しみね。少しくらい硬いものでも大丈夫よ」
「それは鉄板焼をご
亡くなった祖父がよく銀座まで鉄板焼を食べに連れていってくれた。それを思い出して二人は
「今はチョコレートの匂いを楽しみながら紅茶を飲みましょう」
ケトルがカチッと鳴った。
祖母と過ごす午後。洋菓子を焼いては居間でうたた寝をする。
ほぼ一、二時間おきに目覚まし時計が鳴るようにセットしている。それで起きなければ二匹の猫が起こしてくれるのだ。
ここではゆっくりと時間が流れる。雅代にとっては、ある意味リフレッシュするために
チョコレートの匂いを堪能しながら、祖母は緑茶を、雅代はアールグレイを口に含んだ。
舌をやけどし、雅代は思わず「みゃあ」と洩らした。
「あらあら」と微笑む祖母。
雅代は自分のこめかみに小さな
春はもうすぐだ。
祖母と猫とティータイム はくすや @hakusuya
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