他校のJK救ったつもりがなんか反感買われている件。

@lazy_81

EP.1 他校JK

 女性の皆さんは痴漢というものに遭ったことがあるだろうか。

 大半の方はその経験はないだろうが、俺はある日の学校帰りにがっつり痴漢を目撃したことがある。

 それは、夕陽が差し込む午後5時の電車の中での出来事。

 退勤や下校ラッシュということもあり、電車内はかなり混雑していた。親の転勤で高校入学のタイミングで都内に越してきた俺はあまりの混みように最初は引いていた。都会ってすげぇ、みたいな感じで。

 高校2年に無事進学してから早くも3ヶ月が過ぎようとしていた頃、とある日の学校帰りに俺は”それ”を目撃した。

 俺はその時、ぎゅうぎゅう詰めの車内で窓側を向いてつり革を持っていたのだが、なにやら後ろでもぞもぞと動く感覚が、電車に乗ってから10分ほどしてもなおずっと感じていた。何をしているのだろうと、首を後ろに若干向けて横目で確認すると、なんと他校のJKが汗だくのおっさんに思いっきり痴漢をされていたのだ。それもお尻をがっつり揉まれていた。おいおい、嘘だろ。いくらぎゅうぎゅう詰めとは言え、堂々とそんなことできるのかよ。俺はここでも都会の恐ろしさを実感した。

 しかし、なんだかその光景には違和感を感じていた。JKがまんざらでもない表情をしているのだ。それよか、少しにやにやと笑みを浮かべている。こいつまさかの痴女か?と思いながらも、俺は無意識におっさんを観察していた。と、その時そのおっさんと目が合ってしまった。咄嗟に視線をずらして誤魔化し、なんとかその場をしのぐ。あろうことか、目が合ったにも関わらずおっさんはなおも痴漢の手を止めない。

 俺は確信した。こいつは常習犯だと。

 痴女っぽいJKの表情も次第に嫌悪感に満ちた表情に変わっていく。ついには涙目になっていた。これはいかん。そう感じた俺は思い切っておっさんに声を掛けた。


「おい、あんた何やってんだ」


 おっさんは数秒俺をじっと見つめて、はっとした表情をしたかと思えばそそくさと人をかき分けて電車を降りていく。ちょうど、俺がおっさんに声をかけたタイミングで停車駅についてドアが開いたのだ。

 させるものか、と俺は人ごみの中おっさんの背中を追いかけた。しかしやむなくおっさんの姿を見失ってしまった。


「くそ……」


 俺は我に返り、自分の行動力に驚いたが途端に疲労感が押し寄せてきた。俺にとっては知らない人間に声を掛けることは相当なエネルギーを使うのだ。

 膝に手をついて息を切らす俺に、背後から声を掛ける者がいた。


「ちょっといい?」


 振り向くとそこには先ほど痴漢の被害に遭っていたJKが立っていた。どうやらこのJKもこの駅で降りていたようだ。

 俺はすぐに疲れた様子から、さも疲れてませんけど?と言わんばかりの平然さを見せつけたのち、


「大丈夫?怪我はなかった?」


 と、声を掛けようと瞬時にイメトレをしたのもつかの間、JKから飛び出した言葉に唖然とした。


「あんた、何余計なことしてんのよ!せっかく痴漢シチュのいいところだったのに!」

「……は?」


 目の前の女が何を言っているのかわからなかった。てっきり俺はお礼の一つでも言われるのかと思っていたが、そんな想像はいともたやすく打ち砕かれた。痴漢シチュ?なんだよそれ。


「はぁ……。せっかく良さげなパパに遭えたってのに、あんたのせいで水の泡よ!これからどーしよ」


 パパ???お父さん??どういうこと?

 いや、待てよ。よく考えたら、この女痴漢に遭っていたというのにやけににやついていたな……。それも周りの乗客に見せつけるようにして。


「キミさ、痴漢に遭ってたんだよね?」


 俺は頭に浮かんだ言葉をそのまま口から吐いた。すると、目の前の女は眉間にしわを寄せると思い切り罵声を浴びせてきた。


「ばっかじゃないの!?話聞いてた!?あれは痴漢シチュなの!ち・か・ん・し・しゅ!!!」


 うるせえうるせえ。そんな物騒な言葉の羅列を駅のホームで叫ぶな。いやだから、痴漢シチュってなんなんだよ。


「あたしはあのパパと痴漢シチュエーションをしてたの。それなのにあんたみたいな金なさそうな貧弱ヒモ男が邪魔をしてきてさ……ほんっと不愉快だわ!!」


 おうおう。ついに吐きやがったな。つーか声がでけぇんだよ、うるせえよ。

 この女、こっちが黙ってりゃ好き勝手言いやがって。

 言われ過ぎて我慢の限界に達した俺は、無意識に女に詰め寄っていた。


「お前、うるせえよ」

「ひゃっ……」


 俺が詰め寄ると、女は先ほどまでの威勢の言いキンキンとした声からは想像できないほどかわいい声を漏らした。なんだよ、それ。


「お前がどんな性癖かはよーくわかった。だけどな、公衆の面前で下手なことするな、やるならもっとこそこそやれ。俺みたいなやつに邪魔されたくなけりゃな」


 俺は言いたいことを言ってやった。すかっとした。おそらく目の前の女が反抗してくるだろう、と思っていたがなぜか口をぱくぱくさせて軽くパニック状態に陥っている。


「あ、ありがとう……」


 そう言って、痴漢プレイJKはそそくさと去って行った。


「なんだそりゃ……まるで様子が違うじゃねえか」


 謎過ぎるJKの背中を目で追い、俺は歩き出そうとした。とその時、自分の右手に何かを握っているのが見えた。それは一枚のメモ紙だった。いつの間にこんなものを持っていたのか、いや俺は持った覚えはない。とすると……。

 俺はそのメモ紙に書いてある文字を確認した。”@xx_karin_xx01”とそこには書いてあった。その下に小さく”いんすた”と書かれていた。


「まじで、なんだよあいつ……」


 この日を境に、俺の日常の歯車は狂い始めるのであった。勘弁してくれ。

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