第2話 夏はここから作戦

「ひひゃ~、ふぉふぇにふぃてふぉ…グフッ…」


「いや~、それにしても…なんだ?というかせめてちゃんと飲み込んでから話せよ」


事前に買っておいた水を手渡すと、口に詰まった焼きそばパンを流し込む。


「ぷはーっ…死ぬかと思った」


「さすがの考えの回らなさ、恐れ入るな」


「そっちが回りすぎるんでしょが」


「何年の付き合いだと思ってるんだ?」と


「…かといって喉に焼きそばパン詰まらせるところまで予想されても困るでしょ…」


遠方から通う生徒もいるからか始業直後から開いている購買に、『家が近いから』という理由だけで選んだ人間が開店早々現れ人気惣菜パンをかっさらっていく。家で食べて来いよというツッコミももう2年近くもすると飽きてしまったので、もう何も言わずについていくことにしていた。



「にしたって夏休みだろ?今日くらい家で食べてきても良かったんじゃ?」


「時間なかった」


「いや無駄に早く登校してたし絶対時間あっただろ」


「時間なかった」


「いやいや別にわざわざ俺と登校する意味もないしもう少し遅くすればいいだろ」


「時間が、なかった。…三回言ってわからないようじゃ通訳失格じゃない?」


「いや『時間がない』とか言うウルトラシンプルフレーズをどう補足するんだよ完結してるだろ」


「…ッチ」


「なんだよ…てかもうあと2分でHRホームルームじゃねえか、急ぐぞ」



理不尽な舌打ちを喰らいつついつもの小競り合いを切り上げLHRロングホームルームに向かう。え?なんでHRがカタカナ表記じゃないかって?いやただのカッコつけだが。


______________________________________


「…ということで、これでホームルームを終わります。この後は全校集会があるので、30分までに体育館に集まるように。号令お願いします。」


「気を付け、礼」


「「「ありがとうございました」」」



 ___「高校生にもなって『夏休みの過ごし方』はないだろー…てか何で30分も間があるんだよ時間の使い方下手か!」


「そんなにいっぱいしゃべるのもよっぽど無駄じゃなーい?」


「へーへー無駄を極限まで切り詰めた人は違いますねぇ」


「それ、どういう意味かなぁ?」



課題を進めること、ボランティアに積極的に参加すること、夏休み明けに確認テストがあること。正直つまらない担任の話を聞き流す。それが終わればやっと帰れる…というわけでもなく、全校集会、それに加えてよくわからない待ち時間。なんてこった…



「そういえばさっき何言いかけてたんだ?ほら、焼きそばパン食べながら」


「あー、あれはねぇ…なんか夏休みこれとしてなんもしてないなあ…と」


「スマブラしたりストファイしたりしてるだろ?…まあいつも勝つのは俺だが」


「そりゃあ私はゲーム持ってませんからねえ!?…じゃなくて、どこにもいってないじゃん」


「全国津々浦々廻っただろ…桃鉄で」


「ゲームしてるだけじゃん結局!」


「…で、つまり『長い夏休みだしどっか出かけたいよー』ってことだな?」


「いや別にそこまでではないけど」


別に俺自身冷房の効いた部屋でゲームしていればそれなりに満足した生活が遅れているので、さほど外出には惹かれないが、まあ話くらいは聞いてやることにする。…ゲーム相手がいなくては多少つまらないのも事実だし。



「で、どこに行きたいとかはあるのか?夏といえば海か?」


「この学校2,30分で東京湾なのわかった上で言ってるとしたら

なかなか引きこもり極めてると思うなぁ…」


「東京湾つってもここ東京じゃないから水質はそれなりだぞ?」


「うーんそういうことじゃない気がするなあ…」



確かにちょっと風が強い日には潮のにおいがするほど海に近い学校だし、果たして海に惹かれるかといわれると微妙…かもしれない



「いやまあ別に俺自身わざわざ海に行きたいわけでもないし…じゃあゲーセンとかでいいんじゃないか?」


「めっっっちゃ通学路じゃん」


「…それじゃあ特別感無いだろ、って顔してるな?…じゃあなんだよ…」


___「よお、なんか楽しそうな話してるな?」



話が微妙に煮詰まったところで、すっと助け船が現れた。



「おう修…いやこいつがさぁ…」


「いや聞いてた聞いてた…同じクラス内だぞ?」


「いやまあどこか出かける場所はないかなんて言ってるんだが…こいつが勝手に決めればよくないか?」


「別に竹内にまで聞く気はないんだけどなぁ…」



曲がりなりにもテニス部員、陽キャオーラを醸し出す竹内なら、まあ夏はさぞ満喫していること間違いないので、とりあえず助言をもらうこととする。ちょっと癪だが。…そして琴羽もちょっと癪だなっていう顔をしているが。



「なんだ、おすすめのデートスポットでも教えればいいのか?任せろって」


「あ?こいつ一人で行く場所はデートスポットである意味ないだろ?」


「「え?」」


「え?」



3人の「え?」が教室に響く…前に喧騒にかき消された。



「いやお前は行かないのか?」


「なんでだよ誰も『一緒にいこう』なんて言ってなかっただろ?」


「確かに、別に言ってないから優斗は間違ってないわ…腹立たしいことに」


「いやそんなのいつものやつじゃん…どうして自分が絡むとこうも翻訳精度下がるかねえ…」


「いやいや外出なんてせめて一人でしてなんぼだろ?他人と外出とかやりたいことを一体いくつ我慢すれば…」


「いや自分が行かない外出についてそんなちゃんと話してたのかよ…」


「マジそれな」


「いやお前は当事者だろうが!」



高らかにツッコミを決めるも、華麗にスルー。なんて薄情な奴等だ。



「いや別に行けばいいじゃん…というか琴羽自身絶対一人で行く想定してなかっただろ」


「その通り。通訳交代…?」


「お断りします。…とにかくどっか行って来いよお前ら…毎日ゲームばっかりじゃもったいないだろ?」


「いや私はさっきからそう言ってる」


「そうは言ってなかったけどな…」



何か知らないが、勝手に俺も行くことになっていたらしい。猶更海なんて御免だったが、自分が外出するという想定を特にしていなかったこともあり、特段いい案は浮かんでこない。



「では二人で行くということで…改めてデートスポットを…」


「「それは結構です。」」


「あぁそうかい…ってかもう時間じゃね?先体育館行くわ、お前らも急げよ?」


「なんでわざわざ…」「なんでわざわざ置いていくんだあいつは…」



なーにが助け舟だ、泥船じゃあないか。と内心悪態をつきつつ、走り去っていく修の背中を見つめる。何がしたかったんだあいつ…



「で、結局どこか行かない…?」


「いや…別にいいけど何にも思いつかんぞ、てっきり一人で出かけるものかと思ってたからな」


___「いつもなら、ちゃんとわかるのにね」


「ん?何か言ったか?」


「特に何も…ってかもうあと2分しかないわ流石にまずい」


「って言いながら何歩いてんだ走るぞ!」


ッチ…優しめの舌打ち


まあ校長の退屈な話でも聞きながら考えてやろうか。できれば屋内施設で、な。

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言葉足らずな琴羽 ほこり? @hokoriiiiiiiing

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