言葉足らずな琴羽
ほこり?
第1話 言葉が足りない幼馴染
「私、もう…長くないんだ。」
焼けつくような日差しの中、いや普通ならそんな劣悪な環境下ですら背筋が凍るような、そんな言葉を投げかけてくるヤバ女が、今目の前にいる。
「…ねえ聞いてる?私もう長くないんだよ?」
「……夏休みが、だろ?」
「…ッチ」
わずかな沈黙ののち、鉄板のようなアスファルトに、いやにはっきりとした舌打ちが共鳴する。
一体どういうことか、全く理解できない正常な人々も多くいるであろう。それもそのはず、このヤバ女こと、
___全ての会話において、言葉が足りない、のだから。
無論今の会話はわざとであり、悪戯の域を出ない。しかしコイツは、そんな冗談ですむほど簡単ではないのである。
日々繰り広げられるのは、足りない言葉を即座に補充するという、さながらわんこそばを継ぎ足してくれる店員さんのような……少し話過ぎた。
「だって、もう来たよこの日が」
「別に夏休み中の登校日なんてそんなに恐れるもんでもないだろ。あくまで折り返しだ、折り返し…というか一言目から指示語を使うのはやめろと何度も言わなかったか?会話の流れ的にそれでは誰にも伝わら…」
「うーわ…話ながーい。モテないよ~?」
「…っし、省略だらけで何言ってるのかわからないやつも同じだろ」
「…ッチ」
こんな小競り合いを繰り返しつつ、学校に向かうのもまた日常。幼馴染などというどうにもならない枷をはめられ、早17年。わかりたくてわかるようになったわけじゃないこの激面倒くさ女の出題する『
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…ガララッ
「おはようお二人さん!」
「あー、ことちゃんおはよー」「おはよー…ってやっぱり通訳も一緒かよw」
「おはよ…って誰が通訳だよ!?」
教室にはまだほとんど人がおらず、いたのは中学から顔なじみの2人_『
「…まあ通訳って常にいないと意味ないしね?」
「玲奈、それフォローになってないぞ…」
二人の通訳いじりも慣れてきたので、それぞれに一言ずつツッコミを入れ、席に着く。と、言っても始業までは時間があるのでどうせこいつらと世間話に興じるのではあるが…。
そう考えていると、ついに元凶が口を開く。
「…てかさー、二人とも頑張るねえ?」
「おん?」「んー?」
文脈というものをまったく知らないので、いつも一回は会話が詰まる。しかも序盤で。まあそこで俺の出番なわけだが。
「おそらくこいつは『二人が周囲に付き合っていることをばれないためにわざわざ早く登校している』ことについて言及している…違うか?」
「…ん~正解!」
「「あ~それかあ…っておい!なんで全部言ってんだお前!」」
息ぴったりの二人からお返しのツッコミが入る。…またなんか俺やっちゃいました?
「悪いねーこいついつも余計なことばっかりで…」
「お前が何も言わなすぎるんだろうが」
「ん~…どっちもどっちな気がするなあ…まあ今回は100%、大城が悪いけどね」
「いえ~い私の勝ちぃ~!さっすが玲奈だわ」
「なああ!?!?」
異議あり!という視線を二人に向けるも、二人とも「やれやれ」という感じに首を振っている。…もしかして普通に俺が悪いやつ…?
「いや冷静に考えてみろ、お前は単純に大声で俺らの関係をばらした」
「言わなくていいことを言わなかったことちゃんと、わざわざ言った大城、悪いのはどっちかな」
「すいませんでした」
「「よろしい」」
そう、ちょっと言い忘れていたが、俺は話すときほんの少し、ほんの少しだけ余計にしゃべってしまう癖があるのだ。まあ琴羽の言葉足らずに比べたら全然ましだが、たまにこうやってミスったりもする。まあ琴羽よりましだが。
…ガラッ
「久しぶりー」「おはよー」「よっす、元気してた?」
そんな他愛ない会話をしているうちに、続々と集結するクラスメイト。あぁ久々に目まぐるしく言葉が飛び交う時間が始まる。
「じゃあまたあとで~」
「…あとで
「正解~。そゆことで」
「…朝ごはんくらい家で食って来いよな」
結局、言葉が足りないやつと余計なやつ、そんな不揃いな人間の日常である。
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