世知辛いこのご時世に、パーティーから解雇されました。

バネ屋

短編 




「もう沢山だ!ガゼル!あんたはクビだ!今すぐ俺たちのパーティーから出てってくれ!」



 突然の解雇通達。

 冒険者組合ギルドの規約に『パーティー側の都合で解雇する場合、最低でも30日前には通達すること。または、パーティーは通達から30日間の被解雇者の生活を保障する義務がある』とあるのを知ってて解雇通達してるのだろうか。


 冒険者はフリーランスや個人商店の様なもので社会的立場は弱く、それを守るために組合があるし、組合は所属する組合員(冒険者)を守るためのいくつもの規約を制定している。これらに違反すると罰金などのペナルティーがあり、最悪組合からの追放もありうる。

 もしそんなことになれば、当然組合からの保護は受けられなくなるし、仕事の斡旋も無くなるから、冒険者稼業は廃業せざるを得ないのが現状で、冒険者にとって組合の規約は国の法律よりも重い。


 まぁ、彼らは文字の読み書き出来ないから、知らなくても仕方ないけど、例え感情的になっての解雇だろうと、リーダーの口からはっきり通達されてしまったからには粛々と事務処理するだけだ。


 俺の生活費をざっと見積もると、ひと月の家賃が銀貨20枚、食費が1日あたり銀貨3枚(冒険者は体が資本だからな。栄養のバランスも考えるとどうしてもこれくらいになってしまう)、仕事に必要最低限の経費が1カ月で銀貨30枚(回復職は武器や防具はそれほどだけど、薬品などの消耗品は馬鹿に出来ない)、あとは今月の給料が今日まで日割りで実質18日勤務した計算で銀貨180枚程度で、合計は銀貨で320枚。これでも少なめに見積もった方だ。

 最初に勧誘されたときに歩合制を断って月締めの定額給与制にして貰ってたから、こういう時計算が楽だ。


 以前助っ人でその辺ハッキリさせないまま野良のパーティーに参加したら、連中の責任で任務失敗したのに報酬貰う段階になってゴネられてもめたことがあるから、それ以来助っ人依頼でも受託条件に『任務の結果関係無くいくら』って定額報酬を条件にしてたくらいなんだよね。



 俺は今25才独身で、冒険者としては中堅と言える。

 彼らは16~7で、既に成人してるし一応一人前と言える。

 実力に関しても、この1年で随分と成長したし、才能だってあると思う。


 最初の出会いは、別のパーティーに助っ人で参加してた時に任務を終えた帰り道に彼らが苦戦してる現場を通りかかって、他のメンバーが止めるのも構わず助けたのが始まり。

 流石に目の前で人が死ぬかも知れない現場は無視できなかった。


 助けた後に色々事情を聴くと、田舎から夢を抱いて出て来たばかりらしくて、装備はボロだし体も貧相。

 それで持ってた依頼書を確認させて貰うと、実力に見合ってない。本来ならCランク以上じゃないとキツイ任務内容だった。

「Eランクの君たちには無謀だし、大怪我や命にかかわる様な事態になってたかもしれないぞ」と忠告して、今更キャンセルしたくてもペナルティがあるから出来ないと途方にくれてる彼らを説得して一旦町に戻り、彼らの代わりに組合側と交渉して、実力不足なのが分って居ながら依頼受理を認めた組合の責任と相殺させることでペナルティー無しでのキャンセルを認めさせた。


 そこまで世話したのは乗り掛かった舟でのただのお節介だったし、別に見返りとか欲しいわけでもないので、あとは自分たちで頑張ってくれって別れようとしたら、パーティーに入ってくれと懇願された。


 俺は助っ人メインのフリーランスだったし、特に大きな野望とかも無く半分趣味みたいな冒険者稼業だったので、腰掛け程度のつもりで加入して、まずは最低限自分たちの命を守れるようにと戦闘区域での移動ノウハウや戦闘時の連携など自分が教えられる範囲で叩きこんだ。

 それと、彼らは文字の読み書きも金勘定も出来なかったので、業務依頼の選定や報酬や経費などの収支管理をはじめとしたPT財産の管理に、消耗品の手配や武具などを購入する際の商店との値段交渉など、マネージメント的なことも全て俺が請け負った。


 リーダー格のアランは槍使いの戦士

 ウドは槌と盾持ちのタンカー

 サラは魔術の才能があり、攻撃メインの術者

 そこに回復職の俺が加わった。


 パーティー構成としてバランスは悪くなかったし、1年も経つとギルドランクがBまで上がった。出会った頃はEだったから、かなりのスピード出世だ。

 戦闘技術だけで言えば、確かに才能を感じた。

 装備もまともな物になったし、食事や寄宿先だって随分と良くなって、前衛の二人は体格もかなり見違えたと思う。

 でも、まだ高々Bだ。いくら出世が早いと言っても年齢的なものでの話で、この町だけでもBランクなんてゴロゴロ居るし、冒険者として漸く人並み程度。


 でも、アラン達は田舎出の自分たちに劣等感でも抱いていたのか、若いくせにやたらとイキがるし見栄を張りたがる。

 その結果、他の冒険者たちからは距離を置かれ、俺の所に苦情が入るようになった。


 だから俺は、「もう少し謙虚になれ」と何度も諭した。

 冒険者稼業は助け合いも大事だ。恩着せがましくするつもりは無いが、最初だって俺が助けたから彼らは生きて帰ることが出来て、今がある。

 ランクはあくまでパーティーとしての任務遂行能力を表すもので、身分や階級では無い。

 下のランクを馬鹿にするのは間違ってるし、上のランクをライバル視して張り合うのは愚かだ。


 真面目な話、パーティー組んだり人材をスカウトするにあたって、界隈での噂や人気というのはかなり重要だ。

 借金や犯罪歴などの噂があるような人間はトラブルを起こしかねないので、いくら実力があっても嫌煙されるし、地味でも堅実な人は引き抜きや助っ人依頼も多い。


 と、親身になって語り続けてたら、「保護者ヅラするな」だの、「いつも戦闘中は後ろの方でヒールしてるだけのくせに偉そうなこと言うな」だの、「俺たちが命はって戦ってるからあんただってメシが食えるんだ」だの、「いつも私を見る目がいやらしくて気持ち悪い」だのと言いたい放題言われた挙句、解雇された。

 自分の名誉のために言わせて貰うが、サラみたいなまな板に興味など全くない。俺はおっぱいの大きいセクシーなお姉ちゃんが大好きなんだよ。


 まぁ、小言がウザかったのは俺にも自覚あったし、頼まれたから同情して一人前になるまで面倒見るつもりで入ったパーティーだったから、1年も面倒みたのに不要と言われれば、「そうですか。ではあとは自分たちで頑張ってね」とあっさり解雇を受け入れ、俺が管理していたPT財産から自分の権利分をキッチリ計算して、書面に起こして正当な退職金として受け取り(これをこの場でしておかないと、後でパーティー側の都合じゃないとかゴネられて退職金を踏み倒されかねない)、残りのPT財産を渡して別れた。


 その足で冒険者組合へ行き、解雇された経緯(パーティー側の都合であり、既に退職金も受け取ってる)を説明した上でパーティーからの脱退手続きを済ませると、翌日にはその噂を聞きつけた他のパーティーから勧誘が何件も来た。


 それで4つのパーティーから勧誘があったから、それぞれのリーダーと個別に面談して、報酬や実務内容の確認をして一番条件が良いところに再加入した。アラン達のパーティーをクビになってから5日後の話だ。

 月収はアランたちのところに比べて1.8倍に増額。回復職って不足してるから、引っ張りだこなんだよね。



 俺が抜けたあとのアラン達は、後釜で入れた回復職がガメツイ奴だったらしく、アラン達が字が読めなくて計算も出来ないことを良いことにやりたい放題で報酬中抜きしまくった挙句PT名義でギルドから借金しまくってトンズラしたらしく、今じゃ借金まみれで家賃払えなくて寄宿先は追い出され、毎回報酬の7割は返済に持ってかれて首が回らなくなった上に、早く借金を返そうと無理がたたって任務中にウドが大けがしたらしく、今じゃまともに依頼も受けられずに、サラが夜の街角で客取ってなんとか日銭を稼いでる状況らしい。


 一度、冒険者組合の管理職の男から、「昔のよしみで助けてあげてくれないか」と相談されたが、「助ける=資金援助と言うことですか?債務責任の無い私に肩代わりしろと?それとも融資ということですか?今の彼らにリターン出来るんですか?だったら組合が追加融資すれば良いのでは?そもそも私を事前通達なしで解雇したのは彼らなのに彼らが私に助けて欲しいとでも言ってるのですか?まさか今更そんな恥知らずなこと言ってるんですか?だいたい、文字の読み書きだってお金の勘定だって無報酬で何度も教えようとしたんですよ?でも「冒険者に文字の読み書きなんて必要ない。俺たちはこの腕だけで成り上がるんだ!」って脳筋な言い訳ばかりしてちっとも勉強しなかったんですよ?」と1時間ほどアランの物真似を交えながらネチネチと言い返したら、「今の話は忘れて下さい」と言われ、それっきり言われなくなった。









 お終い。



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世知辛いこのご時世に、パーティーから解雇されました。 バネ屋 @baneya0513

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