あなたならどう書くプロローグのみ
さいとう みさき
プロローグ:絶対に逃がさないんだから!!
「傭兵団長ルーヴェント……これが今回の剣術大会の優勝候補か……」
私は今回の剣術大会の対戦表を見て独り言を言う。
我が国は三年に一度剣術大会を開く。
既に予選が終わり、優勝を争う八名の剣士たちが選ばれた。
当然この私も予選には勝ち抜き最後の八名の一人となっている。
今回、私は男装をしている。
大会に出場するにあたり、偽名のベアトゥースも名乗っている。
私はこの大会で優勝する必要があった。
我が国は力こそ正義。
それはたとえ王族であっても変わらぬ真理。
「ふふふ、父上も兄上も私をさんざんバカにしたが、たとえ女の身でも王家に伝わる秘剣を習得した私ならば……」
腰に吊る下げている剣の柄を握る。
我が王家も力を重視するが、女性である私はいつもないがしろにされていた。
だから政略結婚で隣国の王子に嫁げとかバカげている。
この大会で私が優勝すればその婚姻の話は無しになる。
私としてもあんな軟弱な王子の元へ嫁ぐつもりは全くない。
「力こそ正義。まさしくその通り。ふふふふ、この大会に優勝すれば良いのだろう?」
私は、そう言っていよいよ始まる試合へと足を運ぶのだった。
* * * * *
「しょ、勝者ベアトゥース!!」
うわぁ~っ!!
「きゃーっ! ベアトゥース様ぁっ♡」
「すごわよね、あの美男子!」
「まるで流れるような剣捌き、ステキすぎ♡」
「美青年剣士ベアトゥースの名は伊達じゃないな!!」
「あのひょろっこいの、本当に決勝戦を決めやがったぜ!!」
観衆から黄色い声が上がる。
まぁ、私の腕ならこんな奴等余裕だろう。
それより、最終決戦で勝ち上がって来るだろう「傭兵団長ルーヴェント」だ。
噂では数々の戦場を渡り歩き、そして噂のダンジョンですら攻略した事があるそうだ。
冒険者としても一級とささやかれる彼。
そんな彼をこの私が倒すのだ!
「楽しみだな」
そう言ってすぐに始まる決勝戦に赴く私。
そして舞台に立ち上がった彼は……
「どう言う事だ?」
どう見ても強そうには見えない。
いや、腕力だけならオーガ並みにありそうだ。
今回、武器は全て刃が落された物だが、剣の形は出場者の要望に合った形をしている。
対峙するその大男が持つ剣はまるでこん棒のような剣。
とてもじゃないが剣術大会の名にそぐわない。
「こいつが傭兵団長ルーヴェントだと言うのか?」
正直、期待外れだった。
それと同時にふつふつと怒りがこみあげて来る。
対峙すればそいつの強さは大体わかる。
しかし目の前にいる大男は単に力が強いだけで、隙だらけだ。
「つまらぬ……」
「それでは決勝戦を始める! 東、ベアトゥース! 対する西はドボルゲルグ!!」
ん?
ドボルゲルグ??
思わず審判の発する呼び名に私は相手をまじまじと見る。
まるでオーガのような体つき。
頭が半分剥げているから、そこそこ年なのだろう。
毛皮を体に巻きつけている、まさしく蛮人のような姿。
顔だって、オークの方がまだましなのではないかと言う風体。
だかそんな奴は私を睨みつけてぶつぶつ言っている。
「イケメン殺す。イケメン許せねぇ。イケメンぶっ飛ばす!!」
まぁ、何となく気持ちはわかるが……
「決勝戦、始めぇっ!!」
審判のその掛け声でドボルゲルグはこん棒のような剣を振り上げ、迫って来る。
あの一撃を受ければ確実に致命傷になりそうな勢いだ。
だが。
「ガレント流剣技五の型、雷光!!」
カッ!!
私は剣を鞘に納めたまま迫りくるその一撃を抜刀と同時に雷の速さで切り抜く。
どがっ!!
「ぐおっ!?」
「ちっ、浅いか」
本来刃が立っていれば今の一撃でも十分致命傷だが、奴の胸元は青あざ一条付けるだけでおさまってしまった。
ドボルゲルグはこちらに振り返り、またあのこん棒のような剣を振り上げる。
「ガレント流剣技八の型、凪流閃」
まるで土砂崩れのようなその剣の振り下ろしを逆手に持った剣で流すように軌跡をずらす。
その最小限の動きにドボルゲルグが振り下ろした剣はあっさりと床にひびを入れながら土煙を立たせる。
どがっ!!
それと同時に私の剣がドボルゲルグの急所を何か所も切りつける。
ばきっ!
ばばきっ!!
「ぐがっ!?」
「これも耐えるか。では仕方ない……」
確かに私の剣は軽い所があるが、これだけ急所を打たれても倒れないのは見事なものだ。
決勝戦にまでのし上がってきたのは単にバカ力だけでは無いようだ。
だが、それもここまで。
「ガレント流剣技四の型、旋風!!」
私は飛び上がり、隙の出来たドボルゲルグの頭目掛け、空中で一回転しながら遠心力と体重の乗った剣を振り落とす。
スピードと回転による遠心力、そして私の体重が乗ったその一撃は見事ドボルゲルグを捕らえる。
どばきっ!!
「ぐえっ!」
ドボルゲルグは私の一撃を受けて変な声を上げてその場に倒れ、動かなくなった。
「そ、そこまで!! 優勝はベアトゥース!!」
審判のその声で歓声が沸き上がる。
私はとくに感じる事も無く片腕を上げて観衆の声にこたえると、より一層の歓喜の声が上がる。
「傭兵団長ルーヴェント……噂ほどでもなかったのか? こんな奴に負けるとは」
少々むなしさを感じ、私は今大会の優勝を手にするのだった。
* * * * *
「ちっくしょぅ~、せっかくの大会だったのに!」
優勝のセレモニーが終わり、控室への廊下を歩いていると一人の剣士が走って来た。
一体何者だろう?
既に大会は終わったと言うのに。
「お前、大会はもう終わったぞ?」
「え? マジか!? ちっくしょうっ! いきなり呼び出ししやがるから!! はぁ~仕方ない、また三年後かぁ。ありがとよ、嬢ちゃん」
その男はそう言ってくるりと背を向ける。
「待て貴様。私は男だぞ?」
「よせやい、いくら男の格好してたって分かるぜ? あんた結構強そうだけどお嬢ちゃんがこんな大会に出るとせっかくの綺麗な肌に傷跡がつくぜ?」
こいつ、一瞬で私が女である事を見抜いた?
しかも結構強そうだと??
「無礼者! 私は今大会の優勝者だぞ!!」
「えっ? そうなの?? なんだ、だったら今回の大会は余裕で勝てたな。いやもったいない」
ぎりっ!
思わず奥歯を噛んでしまった。
余裕で勝てた?
もったいない?
ふざけるな!!
「貴様、私を愚弄するか!!」
「あ、いや、そう言うつもりはないんだが、嬢ちゃんレベルで優勝できるとは思わなかったんでな……」
かっち~ん☆
「ふざけるなこのっ!!」
思わず頭に血が上って、腰の剣を抜こうとしたら、この男はいつの間にか私のすぐそばまでやって来ていて、抜こうとした剣の柄に手を当てていた。
「よせよ、こんな所で」
「なっ!?」
私は大慌てでその場から飛び退く。
そしてこの男と距離を取る。
「おいおい、殺気が駄々洩れじゃないか? そんなんじゃ剣筋が読まれちまうぞ?」
「ふ、ふざけるなぁッ!! ガレント流剣技、奥義九の型、九頭閃光!!」
私は頭に血が登り切っていて、王家に伝わる秘剣奥義を放ってしまった。
冷静に考えれば何と言う事をしてしまったのだろう。
この技は対象に一度に八方向と突きを放つ究極の技。
たとえ木刀で放っても致命傷は免れない程の技。
私が放ったその技は九つの光と化してその男を襲う!
「へぇ、ガレント流かい? こいつはすげえ」
男はそう言った瞬間伸び行く光を全てを見えない速さの抜刀で弾いた!?
「なっ!?」
「あんた、王家の者か? 駄目だよ、一般人相手に本気出しちゃ」
チャキッ!
気が付けば目の前に男の剣の切っ先があった。
「私の九頭閃光が……」
「ああぁ、やっぱ嬢ちゃんじゃ威力が弱い。良い太刀筋ではあるがせっかくの奥義に力が追い付いていない」
そう言ってその男は剣を鞘に戻す。
私はその場で思わず女の子座りしてしまう。
「まぁ、他には誰も見て無いから今のは無しって事でな。じゃ、俺は行くからな!」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! あなた名前は!?」
「おれ? 俺はルーヴェント。しがない傭兵さ」
そう言って彼は慌てて行ってしまった。
「ちょ、ちょとぉ!」
「じゃあなぁ~」
手をかざし彼を追おうとしたが足に力が入らない。
それ程に最後に彼がむけた切っ先は私に死を感じさせた。
正直少し漏らしてしまうほどに。
「ルーヴェント…… な、なによ、結構いい男じゃない///////」
私より強いやつ。
それも完全に私を凌駕するやつ。
この国は力こそ正義。
そして強き者には従う義務がある。
「ルーヴェント…… 決めた、私あなたと結婚するわ!!」
私は彼が走り去ったその先を見ながらそう言うのだった。
あなたならどう書くプロローグのみ さいとう みさき @saitoumisaki
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