二人だけの約束(秘密)
黒白 黎
第1話
京楽春水のような外見のおっさん。笑みを浮かべれば沈んでいた気持ちが温かく満たされる。そんな笑顔。
熱い日差しの夏日にそのおっさんと出会った。
まだ中学に入りたてで初めての中学の夏休みのお話。
世の中には”見える人”と”見えない人”がいる。
中学生の少年永友(ながとも)映(えい)は、通称”見える人”だった。友達とじゃれあう時も家族と他愛無い話をするときも、その霊らしき存在が映の目には見えていた。
映にとってはそれが当たり前の世界だと信じるしかなかった。
親や友達に言っても変な人としか見てもらえない。映はそれが嫌だった。だから誰にも言えず、見えることを隠して生きていた。
下校途中の帰り道友達とじゃれあいながら帰宅していた時、足に違和感を覚え立ち止まった。足がまるでぬかるんだ沼に浸かっているように重い。不思議に思いながら、友達に話してみるも「何もないよ」と一蹴される。
友達に気のせいだと笑われ、映はもう一度足を見た。さっきよりも足が沈んでいる。これはヤバいと思った。友達に助けを求めようとしたとき、友達がじゃれあいながら宙に浮かぶ不思議な光景。
二人の友達は白い肌色に糸のような細く長い指につかまる形でどこかへと運ばれようとしていた。
「ちょっ! 待って!」
映は必死に友達の手を掴みに走ろうとするけれども沼に沈んでいく足は思うように動かない。
「待って! 待ってくれ!」
映は必死に叫んだ。
「危ないよ…」
映の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。よくアニメで聞く声、よく見た姿。それは〇リ〇チの京〇〇水のような外見をしたおっさんだった。
「こんなまっぴら間に狩りとはご苦労なこった」
京〇〇水似のおっさんは懐にあった太刀を抜き、映の足元をめがけて振り下ろした。
すると、不思議なことにさっきまで沼に浸かっていた足が軽くなったのだ。京〇〇水似のおっさんは映の腕をひっぱり走り出す。
「大丈夫かい? 少年」
「あ……はい」
「それは良かった! ところで少年、君は”見える人”かい?」
「……え?」
京〇〇水似のおっさんは映の腕を引っ張りながら走る速度を速める。
「あの……貴方は一体……」
「それは後だ! 今は逃げるのに徹するぞ!」
京〇〇水似のおっさんは映を抱きかかえ、高く飛び上がった。そしてそのまま民家の屋根に飛び移る。映が下を見ると、さっきいた友達二人が糸のような白い手に引っ張られていた。
「あの……あれは一体」
「説明は後だ! 今は逃げ切らないといけないからな!」
京〇〇水似のおっさんと映は屋根伝いに走る。その途中、京〇〇水似のおっさんは映に話しかけてきた。
「少年! 君は”怪異が見える”のか?」
「え……はい」
「そうか! それは良かった!」
京〇〇水似のおっさんは嬉しそうに笑った。
「俺は”異形”が大好きなんだ!」
「え?」
「俺はな、昔からこの力のせいで気味悪がられて友達がいなかったんだよ」
京〇〇水似のおっさんは少し寂しそうに言う。
「けど、異形に出会い怪異と友達も出来た! 異形が見える俺にはこれが一番性に合っている」
「あの、貴方は一体……」
「おっと、自己紹介を忘れていたな! 俺の名前は”春水(しゅんすい)”という。異形が大好きなしがないおっさんだ」
京〇〇水似のおっさんはそう答えた。そして映の耳元で囁く。
「いいか少年。これは俺と君の秘密だ。異形が見えていることを俺以外の人間に悟られるな」
京〇〇水似のおっさんは今までで一番真剣な顔で言った。映はそれに頷くしかなかった。
それから数日後、二人の友達は何事もなく帰ってきた。帰宅途中からの記憶はなく気づいたら家にいたという。おそらく春水さんが何かしてくれたのだろう。
夏休みが始まる。春水と二人だけの”秘密”。
二人だけの約束(秘密) 黒白 黎 @KurosihiroRei
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