ショートショート1000字チャレンジ

湧澄嶺衣

ミニカー少年

 去年の秋、私は日常の喧噪から逃れるため、旅に出た。目的地は特に決めていなかったが、以前から心惹かれる場所があった。郊外のその場所には、静かな公園が広がっていた。公園の中心には大きな植え込みがあり、その周りを歩いていると、ふと目に入ったのは、小さなミニカーだった。


 私はそのミニカーを手に取り、周囲を見渡したが、持ち主らしき子供の姿や人影は見当たらなかった。仕方なく、ミニカーをポケットに入れ、そのまま公園を散策することにした。公園には不思議な静けさが漂っており、普段の忙しい日常とは全く異なる空気が流れていた。


 その夜、宿に戻った私は、ミニカーを手に取りながら考えた。なぜあのミニカーがあの場所にあったのか。答えは見つからなかったが、そのミステリーに心が踊った。翌朝、再び公園に足を運ぶことにした。植え込みの周りを歩きながら、何か手がかりがないか探していると、突如として目の前に現れたのは、一人の少年だった。


 彼は私に向かって微笑みかけ、何も言わずに手を差し出した。私はその手にそっと、持っていたミニカーを置いた。そして彼に導かれるまま、植え込みの中へと進んだ。

 するとそこには、まるで別世界のような風景が広がっていた。木々の間を抜けると、小さな秘密基地のような場所が現れた。その中には、数々のミニカーが並べられていた。少年はその中の一つを手に取り、私に見せた。


「これは、昔の僕のものだよ」


 彼は言った。その言葉に、私は何を言ってるのかと動揺を隠せなかった。彼の話を聞くうちに、次第に明らかになっていったのは、彼が実は現実の存在ではなく、過去からの訪問者であるということだった。

 彼の話によれば、彼はこの場所で事故に遭い、そのまま時を越えて存在しているのだという。最初作り話かと思って聞いていたが、不思議と腑に落ちていた。


 私はその話を聞きながら、彼の目に宿る寂しさと哀しみを感じ取った。彼を救う方法はないのかと考えたが、答えは見つからなかった。

 しかし、自分にできることを考え、私は彼に約束した。


「必ず、君のことを忘れない。そして、この場所を見守り続けるよ」


 その瞬間、少年の姿はふっと消え、私は公園の植え込みの前に立っていた。手の中には、彼が最後に見せてくれたミニカーだけが残っていた。

 私はそのミニカーを大切にポケットにしまい、心に決めた。これからも、誰かのために何かを守り続けることの大切さを。


 それ以来、私はこの公園に足を運ぶたびに、彼のことを思い出す。

 そして、彼との約束を胸に秘めながら、日常の中で新たな冒険を求め続けるのだ。彼との不思議な出会いが、私の心に深く刻まれたまま。

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ショートショート1000字チャレンジ 湧澄嶺衣 @wakizumi

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