第3話

 机の上のデジタル時計が0:00を表示する。メモ用紙に小さく書いた日付カウントは5110日、年数にして、ちょうど14年。俺は地下室に籠り切ったまま、この時を迎えた。

 親父は地下室の底で骨粉になり、永遠に眠っている。本来クローンに人権はなく、葬式を挙げることは出来なかった。だから、敷島光は代を変えてまだ生きている。

 試作を繰り返して飲み続けてきた錠剤の効果は確実に出ている。俺はとっくに老いた姿だが、それでも今日を無事に生き延びられた。


 親父は、ついぞ孫の顔を見れずに死んだ。厳密に言えば孫も同じ顔なのに、それを見れないことに対する不満を口にしながら9年前に天寿を全うした。本来の寿命を超えて、25年も生きた。

 いい気味だ、と思った。俺が子孫を残さず延命の研究をしていることに文句を言いながら、俺の薬によって生き続けていたのだ。自害できなくて残念だったな、バカ親父。


 完成したクローン専用延命薬の効果が何年続くかは、まだわからない。5年か、10年か。1ヶ月後に効果が切れる可能性だってある。

 それでも、俺は自分に出来ることをした。本来の寿命である20年を超えて、いつ死ぬかわからない状態になった。きっと、それが人生なのだろう。

 地下室の扉を開ければ、埃だらけの部屋に陽光が差していた。外の空気さえも懐かしく、新しい。俺は背伸びをして、あの日の親父と同じ禿げ上がった中年男になった自らを姿見で眺める。クローンとしては20年生きたことになる。それなら、やる事は一つだろう。


「タバコ、買いに行ってみるか……」


 俺は位牌を捻り、スイッチを押す。微かな閃光と轟音が、研究室を粉微塵に爆破していく。これで俺がクローンである証拠はどこにもない。縛っていた鎖を断ち、新しい人生を歩んでいける。

 後で仏壇の遺影を親父のものに変えておこう。顔の違いが他の誰にも分からなくても、俺と親父は別人なのだから。

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