第5話 精は食から
ってな感じで、今に至ると。
ハハハ、とまた心の中で乾いた笑い声をたてているうちに、気が付くと授業は終わっていたようだ。
「ギュッテリア様」
セリヌンティウス嬢が上目遣いでおずおずと聞いたその声で、俺は現実(?)に引き戻された。
教室にはチャイムの音が響き、ボインな教師がヒールをカツカツさせて教室を去っていくところだった。
「このあと、ランチをご一緒してもよろしくって?」
「あ、うん、ええ。もちろんですわ」
俺がそう答えると、セリヌンティウスの白い頬がぽっと染まる。
あ~~~、コレコレ。こういう清楚系いいよね。
色っぽいのもいいけど、あんまり続くと胸焼けするのよ。
「ちょっとぉ、ギュッテリア」
俺の癒しの時間を引き裂くように背後から舌足らずな幼い声がして、俺は振り向いた。
「ちょーっといい回答できたからって調子にのっているんじゃなくって?」
俺は小さく溜息をつき、そこに立つ少女を眺めた。
緻密に巻かれた金髪の縦ロール、控えめどころかぺったんこの胸元、そして何より、小学生のような身長の低さ。
「あー、ワカラセッティ。今日も元気だね」
そこに立っていたのはスタンドバック寮のワカラセッティ嬢だった。
確かスタンドバックは賢者が集うんだったか?
そのせいか知らないが、ワカラセッティは何かと俺に知識マウントしてきたり突っかかってきたりと、うるさいことこの上ない。
「アナタが調子にのれるのも今だけですわ」
おーほっほっほとけたたましい笑い声を立ててワカラセッティが続ける。
「我らがスタンドバックは寮対抗戦でここ五年優勝し続けていますのよ」
「はあ、左様ですか」
寮対抗戦で何を競うのか聞いたことはないが、多分くだらない内容なんだろうなあ。
俺のテンションがダダ下がっていることには気づかない様子で、ワカラセッティの演説はヒートアップしていく。
「わきまえなさい。今年もステーションランチはスタンドバックに跪くことになるのですから」
そしてワカラセッティは指先をこちらに向けながら甲高い声で吠えた。
「ざあーこ、ざぁーこ」
決め台詞が決まったようだ。これで満足してくれるだろう。そろそろ解放してくれ。
…顔はかわいいんだけどなあ。ワカラセッティ嬢。
「んなっ」
突然ワカラセッティが猫みたいに飛び上がり、顔を真っ赤に染めてこっちを凝視した。
「な、なんだ?」
「あの…」
ツンツンとセリヌンティウス嬢が俺の服を引っ張る。
「途中から心の声が漏れていたようですわ。ギュッテリア様」
「あ、ほんと?」
「かかか、可愛いだなんて、そんな、ぎゅぎゅぎゅギュッテリア」
ワカラセッティは指先までかちこちに固まっていて、湯気が出そうだ。
「失礼極まりありませんわっ」
「あー、それはゴメンゴメン」
俺はできるだけ低姿勢で謝ることにしたが、ワカラセッティが落ち着く様子はない。
「文句を言い足りませんわ! この続きはランチの場でしてあげますわよ」
「はいはい、って、え? ランチ?」
「早く食堂に行きますわよ!」
ワカラセッティがぐわし、と俺の腕を鷲掴みにして引っ張る。
「わ、わたくしもご一緒しますから」
慌ててセリヌンティウス嬢が俺たちの後を追った。
えー、俺、セリヌンティウスと2人ランチが良かったのにー。
といっても仕方がなく、俺たちはワカラセッティに引きずられるようにして食堂へ向かった。
やたら歴史を感じさせる廊下と階段を通り抜け、柱が大量に立ち並ぶホールをくぐると、無駄にだだっ広い空間が俺たちを迎える。
そこには無数の机が並べられ、その上には銀の食器やナイフが整然とセッティングされていた。
これが学園の食堂だ。
いい観光資源になりそうなくらい、いつ見ても荘厳で立派な場所だった。
はるか高い天井、壁画とシャンデリア、そしてその周りを飛び回る黒いコウモリたち。
うん、フクロウとかじゃなくて、コウモリ。
毎回思うんだけど、あれって衛生上どうなんだろ。
しかしワカラセッティ達は気にならないらしい。
ワカラセッティが机の上のメニュー表を見ながらうっとり呟く。
「今日のランチメニューは、うな丼とスッポン入り茶碗蒸しらしいですわ。なんて素敵なの」
確かに美味しそうだけど、シャンデリアの下でうな丼って。
俺は心の中で何度目か分からない突っ込みをした。
サキュバス学園に来て気付いたことがある。
ここの料理は人間界と変わらないし、むしろ豪華で美味しい。
ただなんつーか、シチュエーションとか味よりも精をつけることに重きを置きすぎてるんだよなあ。
まあ美味いからいいんだけど。
チー牛がサキュバス学園のトップエリート美女に転生した結果、女の子ばかり攻略しちゃってる件 脱兎小屋 @lex-4696
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