第4話 人質ならぬタマ質

「学園生活?」


俺が聞き返すと、俺の姿のそいつはめんどくさそうに言った。


「ちょっとお前の姿を借りて、こっちでやりたいことがあるんだ。


その間、私の世界で穴埋めをしてくれ。


あれだ、あれ。異世界転生みたいなもんだ。1年限定の」


「いやいやいや」


俺は思わず前のめりの体勢になって突っ込んだ。


胸のところでぼいんぼいんと何かが揺れる。


う、気になる。


けどそいつの目の前で元はそいつの持ち物だったソレを触るのは気が引けた。


「てかあなた、誰なんですか」


「私か?」


俺が妖艶に笑う。いや、姿は俺なんだけど表情がしっとり色っぽくて、アアアア気持ち悪い。


「私はサキュバスだ」


「は?」


何言ってんだこいつ、と思ったけど、俺に乗り移る前のソイツの美しさを考えると、妙な納得感がある。


でも、そんなまさか。


「お前の体を借りるため、我が一族に伝わる秘術を用いてお前を召喚し、魂(タマ)移しの義をとりおこなった」


「は、はあ」


「これからお前を学園に送る。


お前はそこで誰にも入れ替わったことを悟られず1年を過ごせ。


さもなくば」


目の前の俺の手が、自身の股間付近をそっと撫でた。


「こいつがどうなっても知らんぞ」


俺はひゅっと背筋が冷たくなるのを感じた。


あっ、それはヤダ。それは困る。


使用予定はまるで無いとはいえ、ソイツとはできれば今後とも仲良くやっていきたい。


でも、無理なものは無理だ。


「わけ分かんないですけど、一旦あなたの言ってることが本当だとしましょう。


それでも、俺はあなたのことを何も知らない。


なりすましなんてできるわけありませんって。


こっちはあなたの名前も知らないんですよ?」


「トロリッチー家が令嬢、ギュッテリア」


「へ?」


「私の名前だ。それにちょうど今、別の学校から転校したタイミングでな。学園の誰も、直接私に会ったものはいない」


にやり、と俺の姿をしたそいつが笑った。


「サキュバスの生活は人間とそう変わらない。授業のカリキュラムは目新しいかもしれないが、お前なら問題ないだろう。


お前は気付いていないようだが、お前には才能がある」


「才能…?」


「性欲に真摯に向き合い、そしてすぐに負ける才能だ」


なんて不名誉な才能だよ。


俺の内心の突っ込みをよそに、そいつは悠々と続ける。


「どうだ、1年間サキュバスの群れに囲まれて生活できるんだ。


お前にとっても悪くはないだろう?」


「でも、でも」


いや、やはり納得できない。大きな問題がある。


「俺、アンタみたいな色気こってり美女も好きだけど、本当は清楚系美少女が一番好みなんすよ。


サキュバスってやっぱ、小悪魔お姉さん系ばっかりなんでしょ?」


元祖ギュッテリア嬢は俺の顔をまじまじと見て、それから高笑いをした。


「やはりお前を召喚して良かった。


安心しろ。サキュバスの命題は男をたぶらかし虜にすること。


さまざまな男の好みに合わせ、サキュバスの多様化も進んでいる」


「ってことはつまり…?」


ギュッテリア嬢(見た目俺)がバッと音を立て、俺に両手をかざす。


その両手から、また眩いほどのどぎついピンク色の光が漏れ始めた。


「説明は以上だ。さあ行け。


マグワウゾ・サキュバス学園へ!」

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