第3話 拝啓、俺の俺は元気です


「はじめまして、ね」


黒く滑らかな手袋をまとった指が俺の唇に触れる。


指先はそのまま感触を確かめるように、唇の輪郭をゆっくりとたどった。


そ、そんなことされたら。


俺は自分が危機的状況に陥っていることに気付いた。


そんなことされたら、俺の本体が…元気に…!


「ねえ、頼みがあるの」


半分パニックになっている俺に構わず、ボンテージ美女が俺の目を覗き込みながら微笑んだ。


美女の顔が近づく。


俺の耳に息を吹きかけるように、美女は囁いた。


「ボウヤ、あんたの体をちょうだい…」


あ、もうムリ。


…いやいやいや、こんなところで負けてられねえ。


俺の俺がはじけそうになるのを何とかこらえて、俺はとにかく言葉をひねり出した。


「ファーwww、アノ、コレ、夢トカデスカネ」


手袋に包まれた両手が俺の頭を鷲掴みにする。


と思った次の瞬間、美女の顔がゼロ距離まで近づき、俺の唇が指よりやわらかいものに吸い付かれた。


ちょちょちょコレ、俺のふぁふぁふぁ、ふぁーすときっしゅ。


俺は心の中でさえ舌を嚙みながら考えた。


うっひょ、舌が吸われ、いや舌だけじゃなくて、全部、吸われ…


『うおあああああああ』


俺は唇を塞がれながら言葉にならない悲鳴をあげた。


俺とボンテージ美女の周りがテラテラぬらぬら輝き始め、眩いピンク色のフラッシュが俺達を包む。




そして目のチカチカがおさまったころ、俺はさっきまでと同じ桃色の空間に立っていた。


悠然と腕組みをする、俺の前で。


「はへっ」


いつもより高い声が俺の喉から漏れた。


俺は下を見た。


そこにあるはずのない、おっきくて魅力的なふくらみが2つ実っている。


俺は前を見た。


英字Tシャツを着たチー牛が腕組みしながらにやついてる。


「はへ、ちょ、え??」


「うまくいったようだ」


チー牛声、というか俺の声が艶を帯びた口調で言った。


キモイ。超絶にキモイ。


てか間違いない。俺達ぃ、入れ替わってる!?


「な、何してくれるんすか」


俺は自分のものとは思えない、やけに鼻にかかる色っぽい声で叫んだ。


だけど目の前のチー…いや、俺は平然と答える。


「体をくれと言っただろうが」


それそういう意味?


俺が口をぱくぱくさせている間に、元美女だった何かは爪の先を指でこすりながら続けた。


「あー、1年ほど、その姿で学園生活をこなしてくれ」

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