第12話 次の目的地

 フィンはセージに連れられて正方形のリングの上に立たされた。お互いに距離を取ってから戦う前の準備体操を始める。


「武器は神力を使ったものならば自由。決着方法はダウンを取るか、相手をリングから落とすか。もしくは、相手に降参を認めさせるか。そういう決着方法で他はなんでもあり。これでいいかな?」


「はい! それで大丈夫です。大神官様」


「ははは。僕のことはセージで良いよ。そんな重苦しい肩書きは僕に相応しくない」


「はい……セージさん」


 フィンとセージはお互いに準備を整えた。いつでも戦える状態にするため、肉体と精神のコンディションを完璧に仕上げた。


「それじゃあ、ヘイゼルさん。悪いんだけど試合開始の合図をしてもお願いしても良い?」


 お互い公平になるようにセージがヘイゼルに頼む。


「ああ。お互い準備できたな? それでは、いくぞ……はじめ!」


 ヘイゼルの合図と共に、お互いが武器を繰り出す。フィンが弓矢。セージが槍の武器を作り出した。


「距離がある状態で弓矢を選択。悪い選択ではないね」


 ヘイゼルがフィンの選択を褒める。フィンはうなずいてから弓矢を放つ。神力によって作り出された矢がまっすぐにセージに向かって飛んだ。


 しかし、セージはその矢をかわした。フィンと距離を詰めて槍を使って攻撃を仕掛ける。


「ガード!」


 フィンの腹部に聖なる結界が張られる。ガキィンと音が鳴り、フィンはセージの槍での攻撃を受け止めた。


「おお。やるじゃないかフィン」


 神力によるバリアはかなり強力である。だが、それなりに消耗も激しい。フィンは攻撃を防いだものの冷や汗をかいている。


「まずはシールドを1枚削った。君は残り何枚のシールドを出せるのかな?」


「セージさん……強いですね。流石は大神官というだけのことはある」


「そりゃどうも」


 セージが続けて槍で追撃をしようとする。フィンは攻撃に直前に、体をを反らしてセージの槍での攻撃をかわした。


 セージは直線の突き攻撃をかわされた。だが、フィンが避けたのは横方向である。そのままセージは槍を薙ぎ払い、フィンに打撃攻撃をくらわせた。


「ぐっ……」


 フィンは神力によるバリアが間に合わずにもろにわき腹に打撃を食らった。そのまま膝をついてわき腹を抑えて痛みを感じてしまう。


「槍は突くだけの武器だと思ったかな?」


 セージはフィンに向かって槍で突こうとする。フィンは神力によるバリアを使って槍での攻撃を弾いた。


「シールド2枚目。このまま僕が勝っちゃうかな」


「まだやれる!」


 フィンは矢を手に持ち、そして、矢を射るのではなくて直接セージに刺しに行った。


「うおっと!」


 セージは神力によるバリアでフィンの矢の攻撃を防いだ。


「矢は射るだけのものじゃない」


 スマートな戦い方とは言えないが、実戦ではとにかくどれだけ泥臭かろうと相手を刺した方が勝つのである。その方法は武器をどんな方法で使っても構わない。


「やるねえ。フィン君」


 セージは微笑んだ。そして、1度深呼吸をする。


「神力解放!」


 フィンの背筋がぞわっと震えた。体の芯が冷えるような感覚。危機感、恐怖感をほとんど持ったことがないフィンがセージに対してその感情を持つことになった。


「ま、まいった……」


 フィンの口から出てきたのはその言葉だった。今のセージと自分とでは大きな差がある。その差は決して戦術とか戦略とかで埋められるほどの小さな差ではない。根本的な戦闘能力の差を思い知らされてしまった。


「ははは。ごめんごめん。ちょっとやりすぎちゃったみたい」


 セージは笑いながら頭をかいている。そんな2人のやりとりを見てヘイゼルも冷や汗をかいている。


「なんなんだ。あのセージとかいう大神官は……」


 神力を持たないヘイゼルでもセージが尋常ではない強さを持っていることが肌感覚で理解できた。多くの戦闘経験を持って、修羅場をくぐってきた者だからこそ働く生存本能。それがセージを危険だと言っている。


「フィン君。残念だけど僕に勝てなきゃ、時の杖は渡すわけにはいかないかな。だって、半端な力を持っている人間にこの杖は持ってほしくないんだ。この杖を誰かに奪われたらどうする? そして……弱いものがこの杖で邪竜を封印しようとすると死ぬよ?」


 セージは笑ってはいるものの、言葉の圧は強かった。まるで今まで自分は強いと天狗になっていたフィンに対してたしなめている感じである。


 今まで狭い世界で生きてきたフィンは、セージと出会って世の中にはこんな強い人間がいると世界の広さを教えられてしまったのだった。


「セージさん。完敗です。僕……どうやったらセージさんみたいに強くなれますかね」


「そりゃあ、まあ……修行しかないでしょ」


「修行……」


「と言いたいところだけど、フィン君は実戦経験も積んだ方が良い。6つのエレメントも集めるよね? それなら、それを集めてきてからここに来てよ。そうしたらまた相手をしてあげる」


 フィンは自分にはまだ本気のセージと勝負する挑戦権がないことすら思い知らされてしまった。6つのエレメント。それを集めるまではセージとは勝負にすらならない。


「その過程で僕は強くなれますか?」


「君の努力次第だね。君がそこのヘイゼルさんの影に隠れてこそこそとしているだけじゃ絶対に身に付かない力ってものもあるから」


 セージがチラっとヘイゼルの方を見つめた。


「ヘイゼルさん。フィン君を鍛えてあげて欲しい。彼はかなりの逸材だ。もしかしたら……本気の僕を超えるかもしれないくらいの」


「ああ。私の任務は邪竜の封印を施せるフィンを護衛すること。今のままで邪竜の封印を施すことが難しいのならば依頼の前提が崩れることになる。特別に鍛えるサービスもしてやろう」


「ありがとう。あなたのような人に依頼をして良かった」


 セージが爽やかではにかんだ笑顔をヘイゼルに見せる。普通の女性であれば惚れてしまうほどの反則的なほどの笑みであるが、改造人間になった代償で性欲を失ったヘイゼルにとっては何の意味もなさないことだった。


「僕から伝えられることは以上だよ。それじゃあ、エレメントを6つ集めてからまたおいで」


「ああ。行こうフィン」


 フィンはうつむいていたが、ヘイゼルに声をかけられてうなずいてからこの場を後にした。



 試練の間から出てくるフィンとヘイゼル。入口付近で待っていたエリーゼは2人を出迎えた。


「フィン殿! ヘイゼル。無事だったか?」


「うん。無事だったけど……まあ、色々あったというか」


「ま、待った! この試練の間で起きたことは口外しないでくれ。そういう規則なんだ」


「そうなんだ」


「私も自力でこの中がどうなっているのか確かめたいからな」


「わかった。ねえ、エリーゼさん。エレメントがある場所について心当たりがない?」


「エレメント? 6つのエレメントのことか……それならここより北東にある村に行くと良い。そこには色々な蔵書がある。エレメントのことに関する情報を調べるには最適な場所だ」


「ありがとう。エリーゼさん」


 フィンはぺこりとエリーゼにお辞儀をした。


「それでは私たちはそろそろこの地を去ろうと思う。また来るかもしれないが、その時もよろしく頼む」


「もう行くのか。わかった。出口まで見送ろう」


 ヘイゼルとフィンはエリーゼに見送られて聖地アムリタを後にした。時の杖を手に入れることはできなかったが、次の目的はハッキリとした。6つのエレメント探し。


「…………」


「フィン? どうした」


「僕って思ったより強くないのかな……」


 フィンはセージに負けたことd相当落ち込んでしまっている。ヘイゼルはそんなフィンの頭をポンと叩いた。


「いいや。セージ。あいつが化け物なだけだ。なにせ、かつて邪竜を封印した大神官なのだからな」


「ありがとうヘイゼルさん。ところで……セージさんって何歳なんだろう。邪竜が封印されたのってかなり前だと思うけれど……」


「……見た目は若いはずだが、アレで結構な歳なのか?」


 見た目の割に若い人間というのは存在する。しかし、その限度というものがあるだろうとヘイゼルたちは思うのであった。


――

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貞操逆転世界なのに護衛対象の美少年神官が危機感なさすぎる 下垣 @vasita

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