第11話 大神官セージ
「さて、フィン殿。続きを案内したいがよろしいか?」
フィンに敗北したエリーゼが気を取り直して案内を続けようとする。
「うん。そうだね。そろそろ行こうか」
エリーゼはヘイゼルとフィンを更に奥の部屋に案内する。エリーゼについていくと大きな銀色の門の前に立たされた。
「ここは?」
フィンはにこやかな表情だったのが、急に真顔になる。そして、エリーゼの方を見て何か考えごとをしている。
「ここは試練の間。この門は一定の神力がないと開くことができない。門の奥には更に門があって、より強い神力がないと開くことができないというものだ」
「神力……となれば、私は入ることができないのか?」
「いや、付き添い一人までなら入れることが可能だ」
「そうなんだ。じゃあ、ヘイゼルさん。ついてきて」
「ああ。そのつもりだ」
ヘイゼルがフィンの横に並び立つ。
「扉はどうやって開けるの?」
「こうやって門の中心に手をかざす。そして神力を送り込むイメージ」
エリーゼが門に手をかざすと門がゆっくりと開いていく。中は白い階段があって、階段を下って奥へと進んでいくようである。
「では、私は先に行っている。フィン殿とヘイゼルも後から付いてきてくれ」
エリーゼが門の中に入ると、門が閉じた。フィンが閉じた扉の前で手をかざす。
「これでいいのかな?」
フィンが扉に神力を籠めると扉がまた開く。中にいたエリーゼがその様子をじっくりと見ていた。
「さあ、フィン殿とヘイゼルも来るんだ。先にフィン殿が入ってその後にヘイゼルが入る。そうすれば門は勝手に締まる」
「エリーゼさんは付き添いがいなくてもしまったけど、それはどうするの?」
「別に。開けた本人が締まれと心の中で念じれば扉は勝手に締まる」
「そうなんだ。それじゃあ行こう。ヘイゼルさん」
「ああ」
フィンが門の中に入る。そして、続いてヘイゼルも入った。フィンは特に門を閉じろと念じることはなかったが、勝手に門が締まっていく。
「ここの階段を下りてみよう。その先にはまた門がある」
エリーゼが歩いていく。フィンとヘイゼルもそれに続いて階段を下り、その先へと進んだ。階段を下りた先にあったのは、またしても銀色の門だった。
「私がついていけるのはここまでだ。この先は……君たちの目で確かめてくれ」
「え? どういうこと?」
エリーゼの言葉にフィンが疑問を持つ。エリーゼはヘイゼルのことを警戒していて自分がついていくとまで言ったほどである。
「私はここより先には進めない。その資格がない。この門は下へ進むほどに高い神力を要求される。私はなんとか最初の門だけは開けることはできたが……2つ目の門からは開けることができない」
「そうなんだね……」
「この門の先がどうなっているのかも私はわからない。ただ、先へ進めば進むほど高い神力が求められる。この試練の間を最後まで進めるかどうかは……フィン殿の神力次第というわけだ」
「わかった。それじゃあここで一旦お別れだね」
「ヘイゼル。くれぐれも変なことをするなよ」
「へーい」
エリーゼが釘を刺すもヘイゼルは適当に返事をした。
「では、行くよ。えい!」
フィンが門を開く。その後にフィンとヘイゼルが入ると門が自動的にしまっていく。エリーゼはしまっていく門を見送る。完全に門がしまった後に彼女はポツリとつぶやいた。
「最深部まで行けるかどうか……あそこには大神官様がいる。私ですらまだ会ったことがない大神官様が」
◇
ヘイゼルとフィンは次の門の前に来ていた。フィンは門に向かって神力を注ぎ、門を開けた。
「おお、まだまだいけるか」
「うん。僕は神力が高いからね。これくらい楽勝だよ」
門を開けた瞬間にフィンが、はっと口を開けて目を見開き驚いた。そのまま数秒沈黙する。
「どうした? フィン」
「ヘイゼルさん、。この先に感じるんだ。大きな力。恐らくは時の杖だと思う」
「なんだって」
時の杖。それは邪竜の封印に必要なアイテムの1つである。ヘイゼルとフィンが探し求めているアイテムで、それを探しにこの聖地アムリタまで来ているのである。
「行こう。ヘイゼルさん。この先に進まないことにはなんにも始まらない」
「ああ、そうだな」
ヘイゼルとフィンは次に進む。もう何枚目かわからないほどに門を開けていく。そして、彼らは最後の門を開けた。その先に待っていたのは……
「やあ。こんにちは」
門の前に立っていたのは金髪の青年だった。
「こんにちはー」
フィンは相手に挨拶されたので挨拶し返す。しかし、ヘイゼルは警戒した様子で青年を見ている。
「ん? 早くこっちにおいでよ。せっかく門を開けたんだ。入らないと意味がないだろ?」
「そうだね。行こう? ヘイゼルさん」
「わかった」
フィンに促されてヘイゼルはフィンと共に門の奥へと移動した。門はゆっくりと重苦しい雰囲気でしまった。
「まずはおめでとう。試練を全てクリアだ。君の神力は僕に認められたよ」
「そうなんだ。やった。嬉しいな」
高い神力を持つフィン。全ての試練に合格して嬉しそうにニコニコとしている。
「さて、君たちの目的は言わなくてもわかっている。これだろ?」
青年はマントの裏側に隠していた杖を手に取った。その杖は先端に紫色の宝石がついていて、全体が青い杖である。その杖を見た瞬間にフィンの顔色が変わった。
「そ、それが時の杖!」
「そうだ。邪竜封印に必要な時の杖。それを管理しているのが、ここの大神官である僕というわけだ」
フィンは時の杖を前にして目を輝かせている。
「すごーい! それが時の杖なんだ。僕はずっとその杖に憧れていたんだ。その杖。僕にください」
「ああ。この杖は君に渡すつもりでばある……最後の試練を終えた後にな」
「最後の試練? ここまで到達するのが試練ではないの?」
「確かに高い神力を持っている。それ自体が試練になることは考えられる。だが、ここに来るのは試練を挑む最低限の力があることを認めさせるためにあるもの……一定以上の神力がなければ死にかねない試練だからね」
青年の「死にかねない」という発言にヘイゼルの顔色が変わった。
「死にかねない。どういうことだ! 試練を受けたらフィンは死ぬ可能性はあるのか?」
「まあ、その可能性は否定できない。高い神力を持っていても死ぬときは死ぬ」
ヘイゼルは構える。戦闘体勢を取って、いつでも戦えるように準備をした。大神官だろうとなんだろうと、フィンに危害を加えようとする人物ならヘイゼルの排除対象である。
「そう構えないでくれ。あくまでも死ぬ可能性があるという話なだけで、実際に死ぬとは言っていない。僕も十分手加減するつもりではいる。ただ、僕の場合手加減しても相手を殺しかねない。フィン君はその点は大丈夫だろう。だって、彼は強いから」
「ヘイゼルさん。心配しないで。僕はこの試練をクリアして時の杖を手に入れてみせる。死ぬなんてことはしないよ」
フィンはまっすぐな目でヘイゼルを見つめる。そこに死の恐怖のようなものは感じられなかった。度胸があるのか常識がないのか、それはヘイゼルにもわからなかったが、覚悟が決まっている目を見ているとヘイゼルは何も言えなかった。
「ふう……わかった。でも、試練。それをやるからには必ずクリアしてみせろよ」
「うん! もちろんだよ!」
「ふふ。決まりだね。それじゃあ、フィン君。こっちにおいで。最後の試練。僕との直接対決するための部屋まで来て」
青年はそう言うとにっこりと笑った。
「あ。ごめんごめん。そういえば自己紹介がまだだったね。僕の名前はセージ。大神官だ。そして……前回の邪竜を封印した者でもある」
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