拝啓、私の友達へ
狐伯
拝啓、私の友達へ
上京の前日、私は時間を作って友達がいる場所へ向かっていた。山道を途中まで登り、舗装されていない脇道へ入る。サラサラと音を立てて流れている小川を飛び越え、更に奥へと進んでいく。進むと幅が狭い石段が見えてきた。ここまで来るともうすぐだ。石段を登ると開けた場所に古い神社がひっそりと建っていた。苔むした
神社の、私の友達へ
私があなたにこの手紙を書いたのはあなたにどうしても伝えなければいけないことがあるからです。
最初に三年前、私とあなたが出会ったときのことを覚えていますか。あのときの私は新しい環境に馴染めず、親ともうまくいかなくなり言葉では言い表せないほど傷つき、弱っていました。学校から帰る途中ふと「人と顔を合わせなくても良い場所へ行きたい」と思い、見知った山道から外れ、知らない脇道をたどって着いたのが、あなたがいる神社です。そして月に一度しか現れないというあなたとも出会いました。そのとき、あなたは何かを感じたのか引き返そうとした私を引き止め、話を聞いてくれたこと、今でも本当に感謝しています。あなたと出会わなければ今の私はいなかったはずです。何回も会ううちにあなたは人間ではなくこの山の守り神だということを教えてくれました。神様にこんなことを言うのはおこがましいかもしれませんが、私はあなたのことを恩人であり、唯一の友達だと思っています。
前置きが長くなってしまいましたが次が伝えなければいけないことです。私は夢を叶えるために、この町を出ていくことにしました。直接私の口から伝えられず、すみません。最後の機会に言おうと思っていたのですが、いざ伝えるとなるとなぜか私が寂しくなってしまい、ついに言えませんでした。行くのは遠く離れた東京という都市です。簡単には帰ってこられませんし、ましてやあなたが現れる日に合わせることはできないでしょう。
ですが約束します。必ず夢を叶えて再びこの町に帰ってきます。そのときにはまたあなたと話がしたいです。今までのような穏やかでいながら華やかだった時間をまた一緒に過ごしたいです。どうかこのわがままを聞いてくれませんか。
それまで、どうかお元気で。
手を合わせ、どうかこの手紙が届きますように、と願う。さて、この町とも友達ともしばらくはお別れだ。だけど絶対に帰ってくる。友達に誓った約束を胸に、前を向いていこう。改めて礼と別れの挨拶をすると来た道を引き返した。
優奈が去った後、静けさが増した神社には手紙だけがぽつんと置いてある。刹那、神社に強い風が吹き込んだ。木々がざわめき、葉と一緒に手紙が舞う。風がやみ、手紙が地面に付く寸前、どこからともなく現れた和装の少女が手紙を拾い上げた。
拝啓、私の友達へ 狐伯 @kohaku725
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