てんぷれ本能寺
紫葉瀬塚紀
ショート & ショート 1話完結
時は天正10年6月2日。
天下統一を目論む織田信長が宿をとる京都の本能寺を、信長の第一家臣である明智光秀とその軍勢が取り囲んだ。狙いは主君の首だ!
「明智殿、最早鼠一匹抜け出す隙間もありません。如何にして攻めますか?指示をお願いいたします!」
「うむ」
光秀は両手を広げる様に宙にかざすと、高らかに言葉を発した。
「ステータスオープン!」
すると目線よりやや上の位置に、薄い光を放つハンカチを広げた程の大きさの長方形の板が出現した。古文調の文字が羅列され、様々な数字(漢字表記)が記されている。光秀はその文面の一部を暫し黙読していたが
「ふむ、我が軍は弓矢のスキルが前よりアップしている。更に火矢の破壊力が999とカンストしているな。よし、これで行こう!皆の物、火矢を放てぃ!」
と手下の軍勢に命令した。
一方の信長は外での出来事を知るよしも無く、深い眠りに落ちていた。そこに側近の森蘭丸が走り込んで来て、主を叩き起こした。
「信長殿、明智光秀の謀反でございます!既にこの寺は完全包囲されております!」
夢から引きずり出され寝ぼけながらも自体を把握した信長は
「おのれ、光秀!よし、武器を持って来い」そこまで言うと思い出した様に「あ、ちょっと待って。一応確認するわ」と、両手を広げる様に宙にかざした。
「ステータスオープン!」
すると信長の前にも光る板が出現した。
「うむ、槍のスキルが弓矢のスキルよりもアップしているな。よし、弓矢を持てぃ…って、ちょっと待って!」
信長は目を凝らして文面の一部を見た。
「俺の危機回避レベル、たったの1じゃん!これってもう駄目じゃね?」
「ア、ホントっスね。どう足掻いても詰んでますね」
「マジかよ。最低だな。せっかくここまで来たのになぁ。でも数字は嘘つかんしなぁ。しゃあない、楽に逝けるやり方であの世に行くわ」
「ア、俺の危機回避レベルも1だから一緒に行きますわ」
「ほんじゃ又、来世でね~」
そう言うと信長は豪火の中に、その姿を消して行った。
人間50年下天の内をくらぶれば夢幻の如くなり。
場所が変わって、備中高松城を水責め真っ最中の羽柴秀吉の元に、家臣が怪しい人物を捕らえて連行して来た。
「この者が敵方に重要な情報を伝えようとしていたらしいです。これがその手紙です」
それは信長を殺った明智光秀が、その旨を毛利方に伝える内容の手紙だった。
読んで秀吉は激怒した。
「呆れた奴だ。生かしておけぬ」
「しかし、ここから本能寺まではかなりの距離があります。如何なさるおつもりで?」
秀吉は両手を広げ宙にかざすと
「ステータスオープン!」
その文面を見て
「我が軍の走力と持久力が999でカンストしている。ここから走っても間に合うぞ。よし、敵方と和睦交渉をまとめ次第直ちに京都へ向かう!光秀の野郎、シバいたるからな!」
かくして歴史に名を残す中国大返しを敢行した秀吉は、山崎の合戦で明智を袋叩きにして見事に仇討ちを果たした。敗れた明智は僅かな部下と共に逃走したが、そこには落ち武者狩りを狙う地元民が武器を構えて待ち受けていた。
「今度の獲物はあの明智光秀らしいぜ」
「こんな大物狩れるチャンスは滅多に無いぞ。確実にやらんとな」
地元民は両手を広げ宙にかざした。
「ステータスオープン!」
「どんな感じだ?」
「槍のスキルがレベルアップしている。この前の狩りに成功した報酬で、高性能の槍もゲットしているぞ。」
「よし、これを使って更に報酬を貰おう!」
「あ、来たぞ!」
「覚悟ー!」
「ギャー!」
明智光秀、享年54才。
明智光秀を討った秀吉は、信長の後継者に自らが後押しする三法師を就かせようと画策した。それによって信長亡き後の権力者の座に自分が座ろうと考えたのである。それに対し柴田勝家らの勢力が織田信孝を推し、意見が対立。世に言う清洲会議で結論を出す事になった。
「何としても勝家を論破し、自分に優位な結果に繋ぎたい」
秀吉は両手を広げ宙にかざした。
「ステータスオープン!
ふむふむ、論破のスキルがレベルアップして999まで達しているぞ。気に入らない部下をネチネチ弄っている事で、スキルが磨けたんだな。よし、行けるぞ!」
秀吉は自信満々で勝家と対峙した。
「信孝様の方が年齢的にも後継ぎにふさわしい」
「それって貴方の意見ですよね」
「信孝様には後継者としての実績がある」
「データあるんですか?」
「そもそも三法師殿は秀吉殿の思惑に満ちた…」
「何だろう、個人の感情で決め付けるの止めて貰っていいですか?」
「ぐぬぬ…」
柴田勝家を言い負かした秀吉は、信長の意志を受け継ぐ権利を手にし、その後天下統一を成し遂げる事に成功した。
だが好事魔多し。秀吉のステータスウインドに誤表示が目立ち出した。運営さん、しっかり管理して。これ以降は失策のオンパレード。千利休をあの世に送り、文禄ケイチョーの役で無駄に疲弊し権力をぐらつかせた。石田クンにもっとサポートして貰った方が良かったかもね、知らんけど。
秀吉亡き後の豊臣家を潰した徳川家康は、健康に人一倍気を使っていた様だが、幕府の土台が安定した事で少し緊張が緩んだのか。その日の食事のメニューは鯛のテンプラだった。
「ふむ、栄養バランス的には大丈夫かな?」
家康は両手を広げ宙にかざした。
「ステータスオープン!」
視力が低下しているのか、かなり顔を近付けて内容を確認した。
「ふむ、数値的には問題無いな。それじゃー頂きまーす!ムシャムシャ…、ウワー、腹が痛いー、死ぬー!」
死んだ家康は神様に、転生して若くイケメンに成りたいと懇願したが、お前は日光で大人しくしてろ、と却下され、東照宮の中で未だに涙に暮れているそうな。
以降運営がステータスウインドの改善にモタついた為、歴史上数々の偉人が翻弄された。大塩平八郎の乱、龍馬暗殺、桜田門外の変、西南戦争etc.…
そして今でも運営の不手際で、歴史はおかしな方向に進んでいるのです。
てんぷれ本能寺 紫葉瀬塚紀 @rcyo
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