第2話 戦友たち
地区予選敗退から3日。俺はあいつらとは未だ何も、あの試合のことはおろか、話さえもしてはいなかった。
早朝から目が覚めた俺は何も考えず日課だったランニングをし、無意識下に学校のグラウンドへ向かっていた。
「あれ?金子先輩っ!?おはようございますっ!あの.....」
後輩が話しかけてくる声が聞こえてきたが、俺はグラウンドを入った時に見えたその景色に目を奪われ、自然とそちらの方へ足が動き出していた。
「お前らっ.....!!!!!」
どうしても、その後の言葉が続かなかった。そんな俺を、そこに集まっていたあいつらは笑うことなく、いつもと変わらない少し憎らしい笑顔で振り返った。
「よぉ!金子!!遅かったなっ!!....ま、俺は来ると思ってたけどな?」
「なんだよ米坂!お前さっきまで金子は来ないかもな....とか言ってただろ!?」
「うるせぇ!!あれはその.....言葉のアヤってやつだよっ!!!!」
「お前ぇ、ぜってー意味わかってないだろ!!!」
「わかぁってるってそんなもん!!ほら、えーーっと。..........なんだっけ?」
「ほらな?こいつの馬鹿はもう治らねぇよ!!!!!!!」
「そーー言うお前は知ってんのかよ!!!知らねーだろ!!!!!」
あの時、とめどなく涙を流していた奴らだとは思えない、いつも通りのくだらない会話をする様子に、自然と笑みが溢れてくる。思わず笑っていると、いつの間に出ていたのか俺の目から涙が流れていた。
「あれ??なんか俺、どうしたんだろーーな?あはは。.....嬉しい、のに..........っ。こんな、はず.....っ、ないっ..........のにっっ..........、」
この3年間、仲間とじゃれあったり、何度も何度もミーティングしたりしたベンチで、俺は今泣いている。試合が終わってから今まで一滴も出なかった雫が今は、途切れることもなく溢れ出てきた。
「彩斗。」
小学生の時からずっとバッテリーを組んできた、キャプテンであり俺の相棒の哲也の顔を見上げると、哲也は今まで見たことがないような、哀しみが滲み出るようなヘタクソな笑みを浮かべていた。
「悔しいよな。俺とお前、そしてチーム皆でずっと目標にしてきた甲子園。なぁ彩斗、お前は覚えてるか?俺たちが初めてバッテリーを組んだあの日、俺がお前に言った言葉を。」
『お前とたくさん話しすぎてどの話かわかんねえよ。』そんな一言も出ず、俺はただ首を横に振った。
「ふっ。だろうな。..........俺はな、お前に『俺がお前を甲子園に連れて行って、お前の凄さを全国の奴に見せびらかしてやる!』っつったんだよ。俺は、その約束を守るために、全国の奴らにお前を自慢するために、これまで頑張ってきたんだ。」
思わぬ真実に俺は驚いて、俯いていた顔を再び上げた。その時に合った哲也の瞳は真っ直ぐに俺を見ていて、今度は逸らすことができなくなった。
「だから、ごめん。俺は、お前を甲子園に連れて行けなかった。お前の努力を、ずっと隣で見てきたのに。一番、皆の苦悩を、乗り越えてきた壁を知ってるのに。俺のせぃ.....」
「それは違うっ!!!!」
思わず、大きな声が出た。ずっと俺を支えてくれた、一緒に夢を追いかけてきた
「違うだろ.....。お前はずっと、自分のことよりも先にチームのこと、俺のことを考えてくれた。俺は知ってる。お前がどんだけ考え悩んできたか。どんだけ俺らのことを大事に思ってくれてるか。相棒がもしお前じゃなかったら、俺はこんなふうに投げられなかった。こんな良い仲間に恵まれなかったかもしれない。.....こんなにも、悔しいって思えなかった。」
ハッとするように目を見開いた哲也に、そして周りに集まる戦友達の目を見て、俺は大きく息を吸った。
「だから、哲也、皆。ありがとう。お前らは、俺にとって一番の
ズビーッというなんとも耳障りな音が聞こえてきたかと思うと、哲也を始めとして仲間達が一斉に俺の方に雪崩れ込んできた。
「金子ぉぉぉ!!!!!!!!お前、泣かせやがってっ!!!!!!!なぁにが『こんな俺だけど』じゃい!こっちこそよろしくだわぼけぃっ!!!!」
がははははははは!!!!!!!と俺らの青いベンチにバカ笑いが戻ってきた。真っ青な空に浮かぶ太陽がギラギラと照りつけるグラウンドは、これまでの軌跡のようにキラキラと光り輝き、俺らを照らしてくれる。
俺らの
俺らの夏 雪蘭 @yukirann
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