第4話

「ここ、どこ?」


猪狩さんが鳴らす鐘の音が頭にガンガンと響いて耳を抑えた次の瞬間、目を開けるとそこは、冷たい石壁に鉄格子が嵌められた檻の中だった。


「やめたかったら出口を出ればって言ってたような…って…出口ないじゃん!」


4畳半ほどの檻の中には扉どころか窓すらない。電気だって無さそうだ。


この案件内容は確か、

「沢山のもふもふと仲良く暮らそう。3食昼寝付き5LDK。ルームシェア。仕事内容:家事全般。


入居料0、家賃光熱費0、即日入社可。」


だったはず。

ひとっっつも当てはまらない!


犬なんて見当たらないし、5LDKでもない。


「てゆーか、案内人いるっていってなかった?いないじゃん!猪狩さん!?」


絶望感に苛まれ、石畳の地面にしゃがみ込むと、急に揺らめく灯りが差し込み、奥の方から何者かの金属を纏った様な足音が響いてきた。


「猪狩さん?猪狩さんですよね?猪狩さーーん!ここから出してくださーい!」


鉄格子にしがみついて叫ぶ私を覗き込むように姿を現したのは、鉄仮面を被り、黒いローブを纏った2人組だった。その姿はまるで、中世ヨーロッパの死刑執行人のようで、性別も年齢も判別がつかず、不気味なオーラを発している。


「!?」


誰?!とか聞ける雰囲気じゃない。

恐怖心で喉の奥が狭まったのか、声が出ないし息がうまく出来ない。それに手足も硬直したように動かない。誰か…誰か助けて!


額から一筋の汗が流れ、床にぽたりと黒い滲みが出来たのと同時に、檻の鍵が外され、ギィィッっと錆びついた鈍い音を響かせながら扉が開かれた。


まるで地獄へと引きずり込むかの様な嫌な気配がして悪寒がする。


(逃げなきゃ!!!)


頭ではそう思うのに、抵抗しようと思うのに、恐怖心が優ってまったく動けない。


震え上がる私の腕を不審な輩2人が掴み、あっという間に鎖で繋がれてしまった。


「ぁ…ぁ…あの!!たすけて…」


何とか絞り出すように叫んだけれど、2人には聞こえていないのか、反応がない。


「ぅ…ぁ…ぁ…たすけて…だれか…」


死を覚悟したつもりはない。

なのに、今までの人生が走馬灯の様に頭の中を駆け巡る。


子供の頃から虐げられ、家政婦の様な扱いを受けて育った。やっと就職して自由を手に入れたと思ったらブラック企業。薄給で生きていくのがやっと、貯金は無い。

でも誰かに迷惑をかけた事も、恨まれる様な事だって、した事は無い。誇れはしなくとも、後ろめたい事は無い人生だった。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないんだ。


石階段を無理矢理登らせられている間にじわじわと湧いてきた怒りと悲しみが私を奮い立たせたのかもしれない。


足元に下げた視線を真っ直ぐ正面に向け、抵抗しようとしたその時、階段の終わりにある鉄扉の奥から歓声のような声が聞こえてきた。











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