第三章
壇上では校長が式辞を述べている。
しかし周りの生徒は全員、と言ってもいいほど話を聞いていなかった。隣の人に話しかけている人、遠くにいる友達と思しき人にハンドサインを送るのに一生懸命な人、目を瞑って首を曲げている人。
そして、落ち着かない様子で周りを見回している人。僕がそうだ。
理由は簡単で、ただずっとあの人を探している。しかし、人が多い上、列になって座っていて顔も十分に見れない。
探すのは諦めて、校長の式辞やら新入生歓迎の挨拶やら、諸々全部が終わるのを待つことにした。
ようやく終わったらしく、コースごとに生徒を分別する作業へと移った。僕は普通科だが、特進コースや資格取得を目指すコースなんかがあるらしい。
普通科以外の生徒が次々と連れて行かれて、人数はざっと3分の2ぐらいにまで減った。
そういえば桜はどのコースを受験したのだろうか。受かっていても、コースが違っていて離ればなれ、なんてことになったら悲しいな。
「桜、受かっているといいな」
心の中でそう声に出した。つもりだったが、声に出てしまっていたらしい。隣の方から「え?」と言う声が聞こえる。
その声に妙な無騒ぎを感じながら隣を見ると、さっきまで座っていた人はいつの間にか姿を消していて、そのさらに向こうに座っている女の子と目が合った。
「っ?!」
こちらを見ている女の子は、あまりに桜に似ていた。ただ、なんとなく、でもはっきりと桜ではないとわかった。それでも、たった一瞬聞いた声でさえも桜に似ていた。
一周回って何も考えられなくなる。もし、本当に偶然、こんなにも似ている人とこの短期間で出会ったのであれば、世界は思っているよりも狭いのかもしれない。
いよいよそんなことを考えだしたところで、その人の口が動いた。
「さくら......?」
「あ、ううん、ごめん。人違いだったみたいで......」
彼女は表情を変えず、以前としてこちらを見つめている。
僕は恐る恐る、尋ねてみることにした。
「あのさ、変なこと聞くんだけど、その桜さんって人って、君にそっくりだったりする?」
その子は大きく目を見開いた。一瞬複雑な顔をしたが、次の瞬間には、眩しいぐらいの笑顔になった。
その子は目を逸らすことなく、真っ直ぐにこちらに近づいてくる。
「っ!」
横に座ると、顔を目の前、鼻の先まで近づける。
喉がごくっと、はっきりと聞こえる音を鳴らした。
そしてその子は囁くように言った。
「実はね、多分その桜って子、私のお姉ちゃんなの」
「えっ!?」
今度は突拍子もない回答に、息を呑む。
「私たち双子でね?すごくそっくりだから、きっとそうだよ!」
どうしよう、状況が飲み込めない。桜とこの人がそっくりさんではなく双子の姉妹、それなら容姿が似ていることも納得がいく。
むしろ声も、話し方さえも同じように思えてくる。
しかし、ここまで似ていると、むしろその現実味がなくなってくる。
「にしても、なんで桜じゃない、って分かったの?だって、自分で言うのもなんだけど、そっくりじゃない?私たち。」
そんなの自分でもわからない。ただ、なんとなく桜じゃないと思っただけだ。
「なんとなく違って見えた」
そういうと、その子は「そんなに違うかなぁ?」と呟いた。
気づけば、案内の対象は自分たちに変わっていて、違う先生に引率され、その場を後にした。最後に聞こえた「またね!」の声は、桜のあの笑顔を彷彿させた。
そういえば、彼女の名前聞いてなかった。桜に会えたら聞いてみよう。
そう思って足を早めた。
嘘を愛した君へ @madoca68s
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