第一章

 受験当日。校門を過ぎ、立っていた先生に挨拶を済ませると、支持されるままに校内へと足を運んだ。校内の雰囲気は静かなような、落ち着かないような、そんな感じだ。見知らない先生たちに運ばれ、目的の教室へと向かった。

 受験には余裕を感じている。もちろん、自惚れて勉強してこなかったわけではないし、むしろここの受験生の中では成績は高い方だと自負している。しかし、やりたいことも特になかった自分は、推薦で受かってしまえば一般よりも早く受験が終わるから、という浅はかな理由で、受かるであろうこの高校を選んだ。

 廊下をしばらく歩いていると目的地、いわば本当の

「B29.....ここだ」

 確かめるようにあえて口に出してから、ゆっくりとドアを開けた。


 ドアを開けて、少し踏み込んだところで教室を一望する。

 外から伺った中の様子は静かで落ち着いているようだったが、実際に入ってみると思いの外雑談で賑わっている。静かに勉強している人もいるが、なんていうか、普通だ。

 黒板を眺め自分の座席を確認する。視線を教室に戻し、確認した場所の椅子がしっかり問い空いていることを確認し、その席へと向かう。

 しかし、その足は目的地へと体を運びきる前に静止した。

 ただ、一人の少女が外を眺めているだけだった。それでも、僕の足を止めるには十分すぎる光景だった。

 はっ、と我に返って、再び足を動かす。

 永遠にも感じる時間は実際、秒針が何回か動けるだけの些細な時間だった。

 何もなかったかのように席に着くと、とりあえず机に置いたバックから筆記用具を取り出す。勉強道具なんて持ってきてるわけなく、暇を持て余しているこの時間がもどかしい。ふと左に視線にやると、隣に座る少女は相変わらず外を眺めていた。

「おはよう」

 無意識のうちに声になって出てしまった。少し間が空いて、ようやく自分に声がかけられたことに気がついた彼女は、ゆっくりとこちらに視線を向けた

 不意に目が合ってしまい、体温が一瞬、スッと消えてしまうような感覚が体全体に走る。彼女は僕の目を見たまま「おはよう」とだけ返した。

 僕の目を見る彼女の瞳は、もっとずっと遠くを見ているようだった。


 気がつけばテストは終わっていた。僕の意識はずっと、隣に座る少女に向いたまま、目の前のテストに集中することはできなかった。朝の挨拶以来、特に話すこともなく、放送に準じて動く先生の指示に従い、そのまま一人で帰路に着いた。

 別れを惜しみながらも、体は自然と家に向かっていく。ぼんやりと、ただあの人のことを考えていると、いつの間にか家の前だった。


「ただいまー」

 ぼそっと吐き出すような声で口にしたのだが、ドアの閉まる大きな音に気づいたのだろう。キッチンからトタトタという足音が近づいてくる。

「おかえり!昼てべてないよね、ご飯できてるよっ!」

 顔を出したと思うと、要件を伝えてキッチンの方へ戻っていった。

 玄関入ってすぐの階段を登り、2回にある自分の部屋へ向かう。少ない荷物からファイルだけ取り出し、リビングへ向かう。

 食卓にはすでにご飯が並べられていた。学校でもらった書類を素早く手渡し、小さく手を合わせてから箸を握った。

 「それで、どうだったの、受験は。手応えあり?」

 「結果が出るまではわからないよ、まぁ大丈夫だとは思うけど。」

 そっけない様子で返したが、母は「なら安心ね!」と笑顔で再び箸を動かした。

「ごちそうさま」

 そう言い残し、食器を運んでから部屋に戻った。

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