第5話 とある日の写真館

 パシャ、パシャパシャ、


「ちょっとお顔が右に傾いているので、もう少し首を左側に…あー、そうです、そんな感じで」


 パシャパシャ、パシャ。

 シャッター音が響く。


 木村写真店。

 錆がかった看板を出している、いかにも町の老舗といった風体の写真店だ。


いつかここで2人の写真を撮ってもらいたかった。

この日を、とても楽しみにしていたんだ


「お疲れでしょうが、ちょっと頑張ってー、もう何枚か撮りますね」


 元々、笑顔には抵抗があったが、この日の為だ、思い切り、にっと笑ってみる。

「表情が少し固いので、もう少し柔らかい笑顔で」



 まだ固いのか…?もう表情筋が限界だ。えぇい、これでもう最後だ。


 ニコッ。



「はい、お疲れ様でしたー。撮影はこれで終わりです。ここから少し調節して…あ、額装はどうしますか?」


「結構です、こちらで用意しますから。」




 慣れないことをしたので疲れ果て、2人してソファーにボフッと体を沈める。


「大丈夫?疲れたんじゃないか?ライトも熱かったし。」

「平気よ。だって今日を心待ちにしてたから。見て、お気に入りのワンピース、クリーニングに出しから着てきたんだから!」


(そうか…ふたりで一緒の心持ちになるなんて、なんだかこそばゆいな。)


 からんからん、とベルの音を立てて写真店の扉を開け、外に出る。

「今日は車を用意しておいて正解だったな。後部座席でゆっくり横にでもなって休んでいてくれ。」


「そうさせてもらうね。ありがとう。

なんか最近、どうもだるさが取れないのよね...」


「おいおい、疲れは万病の元だぞ。うちの病院で検査だけでもしておくか?」


「そうだね。それもいいかもしれない。結局なんでもなくても、その方が安心するし。」


「そうだ、思いついた」

「え?なに?」


「いつか…もし、子供を授かったら、また3人で撮りに来ような。」


「ふふ。そんな日が来るといいね!」


 ふふ。ふふ。

 唇に曲げた指を添える、君のこの笑い方がとても好きだった。



 …とても好きだったのに。

 こんな日が永遠に続けば良かったのに。


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君と輪舞曲を。 紅鳥つぐみ @tsugumi417

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