第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト 俳句の部

@tyocoame

湯帷子 白き首筋 横恋慕

ある男の子は、高嶺の花の女の子に恋慕を抱いている


高嶺の花の女の子は、透き通るように白く、あの桜のように儚い雰囲気だった

男の子は一目で恋に落ちた


僕は少しでも彼女に近づけるように、たくさん努力した

蕾が葉桜になってしまってやっと、彼女と友人になることが出来た


他愛ない日々の中で、彼女が僕に向けて微笑んでくれることが何より嬉しい

ふわりとした、柔らかな笑顔


けれど、彼女の笑顔の奥には少しの壁を感じる

それがなんだか悲しくて、今までより彼女に話しかけるようになった


その甲斐あってか、夏休みが始まる頃には、彼女から僕への心の壁は感じなくなった

僕は嬉しくてたまらなかった


そんな浮ついた気持ちのまま、彼女を夏祭りに誘った


―――ごめん、他の子と約束してるんだ


断られてしまってショックだった

けれど、先に友達と約束していたなら仕方ない

次の機会にまた誘おう、そう思った


夏祭り当日の朝、リビングへ向かうと妹がどうしても夏祭りに行きたい、と母に強請っていた

仕事で忙しい母は、ちょうど起きてきた僕に妹を夏祭りに連れて行くよう頼んで、さっさと家を出て行ってしまった

夏祭りに行く予定はなかったが、仕方ない


夕方、僕は妹に浴衣を着せて、家を出た

会場へ向かう道中、もしかしたら彼女に会えるかもしれない、と少し期待していた


チョコバナナや綿あめ、やきそばを食べ、射的や輪投げ、金魚すくいなどをひと通り終えた

妹は疲れた様子で、うとうととしている

僕は妹をおんぶして、家へ向かい始めた


夏祭り会場を出る直前、ふと後ろを振り返った

彼女の声が聞こえた気がしたからだ


人混みの中、ちらりと彼女が見えた

白肌によく似合う、薄桃色の浴衣を着ている

どきっと胸が高鳴った

挨拶だけしようと彼女の元へ向かった


あと数歩で声が届く、そんな時

彼女が横を向いて、向日葵のように笑った

僕が見たことの無い、満面の笑顔


彼女の隣には知らない男の人がいて

2人で、手を繋ぎあって歩いていた


今まで高鳴っていた胸が急激に冷めていく

ズキズキと心臓が痛む


僕は踵を返し、とぼとぼと家へ帰った

家までの道のりは、嫌に暗くて、途方もなく長く感じた


ある男の子は、高嶺の花の女の子に恋慕を抱いていた

決して実ることの無い横恋慕だった

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