カツラのおうさま
まさかミケ猫
カツラのおうさま
とある王国に、それはそれは聡明な王様がおりました。
「――次の秋の豊穣祭で、カツラの品評会をおこなう。儂の頭に似合う、最も優れたカツラを用意した者には、郊外の城と金貨一万枚を進呈しよう」
王様の言葉に、家来たちはびっくり仰天。
しかしその理由は明らかでした。
王様は、冬に大流行した奇妙な病によって、頭頂部の髪がポッカリと円形に抜けてしまったのです。その様子はまるで森の中に鎮座する岩山のよう。王家に代々伝わる綺羅びやかな王冠も、どこか居心地が悪そうに見えました。
今は春ですから、秋の豊穣祭まで半年ほど。
大臣は遠慮がちに問いかけます。
「カツラの良し悪しは、どのように判定を?」
「うむ。妨害人を募集しようかのう。魔法でもなんでも良い。儂のカツラをみごと暴いてみせた者には報奨金を出そう」
「そ、そうですか」
王様はとても楽しそうに話をするので、家来たちは何も言えません。
とにかくそんな風にして「カツラ品評会&カツラバレ競技会」のお触れが出され、国中がその話題で持ち切りになりました。
◆
その日、王都は大賑わいでした。
王都の各所に設置されたスクリーンには王様の姿が魔法で映し出されています。そして、会場となる大きな歌劇場には、入り切らないほどの民衆が押し寄せていました。
王様や家来たちが挨拶をする間も、民衆はそわそわと品評会の始まりを待ちます。そしていよいよ、最初のカツラ職人が登場しました。
「――こ、これは私が作ったカツラです。王様の髪色に合わせ、自然な見た目になるよう素材にこだわりました」
そうして、職人が緊張しながら自慢の品を紹介すると、それを着用した王様は妨害人たちに問いかけます。
「ふむ。このカツラを暴く自信のある者はおるかな」
「では俺から! 俺は突風の魔法を扱います」
すると、妨害人の魔法は見事に王様のカツラを吹き飛ばし、それを見ていた民衆は手を叩いてたいそう盛りあがります。王様も楽しそうに笑いながら、飛ばされたカツラを拾いに行きました。
「うむ。つけ心地は快適であったし、見た目も自然で素晴らしかった。しかし妨害に弱いというのは改善点であるな……このカツラはスタイリング賞にノミネートしよう」
そうして、数々のカツラ職人と、それを打ち破る妨害人とが交互に登場します。
「風に対する守りはガッチリ固めてます!」
「では私が暴きましょう。陽光魔法!」
「うむ。暑くて倒れそうだのう」
どうやら、堅牢なだけでなく、風通しも重要な観点のようです。
「引力魔法でカツラを吸着させます」
「ならば反転魔法で暴きましょう!」
「うむ。吹っ飛んでいったのう」
どうやら、魔法によるカツラの固定は、何かと不便そうでした。
「幻影魔法で髪の幻をみせます!」
「それは光魔法でかき消せますよ。ほら」
「なるほど、新しい試みであるな。王冠が頭にめり込んで見えるなどのデメリットもあるが、面白い。アイデア賞にノミネートしよう」
そんな風に、予想もしていなかった新型のカツラも登場しました。
「これは、バカには見えないカツラです!」
「うむ、それは愉快だ。だが残念ながら、儂はそのカツラが見えるほど賢くないらしいのう。どこかに置き忘れてしまいそうだ……ククク」
とんちで挑む者が現れると、王様はニヤリと口元を歪め、民衆も盛り上がります。
人々は、その日のお祭り騒ぎを心から楽しみました。
審査を終えると、王様はニコニコとした顔のまま壇上に立ちます。
「数々の素晴らしいカツラを見せてもらった。甲乙つけがたいが、まずは部門賞から発表しよう」
そうして、王様は何人かのカツラ職人、妨害人に部門賞として金貨がジャラジャラ入った布袋を手渡していきました。
「さて、本来ならばカツラ大賞を選出するところだが……来年に持ち越しかのう。皆、光るものはあったが、改善点も多かった」
その言葉には皆が納得しました。
「集まった職人の皆には、ぜひともまた来年チャレンジしていただきたい。それと――できれば、この王都でカツラの製造販売に取り組んで欲しいのだ」
王様は、品評会の参加者にそう言って頭を下げます。
「昨年の冬の病は、儂だけでない、国中の皆から髪を奪っていったからのう。この王都にもカツラを必要としている者は多い。貴族から市民まで。若いお嬢さんから幼子までな」
そうです。王様がカツラ品評会を開いたのは、このように職人を王都に集めるのが目的だったのです。
そうして、王様はたくさんのカツラ職人に専用の工房をプレゼントし、妨害人も正式な職業として国で雇うことを宣言しました。人々は王様の決定に大いに盛り上がりました。
◆
それから長い年月が過ぎて。
王様が年老いて亡くなった後も、この国では毎年カツラの品評会がおこなわれています。いつしかカツラはこの国の特産品となり、多くの人に愛用されるようになりました。
王様は「カツラのおうさま」として語り継がれ、今も世界中の人々から尊敬を集めているのです。
カツラのおうさま まさかミケ猫 @masaka-mike
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